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第229話 シオノネちゃんの独白

 かわいい妹だと思っていた。


 無力で、ワタシ無しでは生きられない可愛い妹。それが、ワタシにとってのカナンちゃんだった。頼られるのが嬉しかった。


 ……違うのカナンちゃん、ワタシはそんな褒められた人間じゃないんですわ。


『下』のカナンちゃんに優しくすることで、安心しようとしていたんですわ。


 とはいえ……言い訳になるかもしれないけれど、それは最初だけですわ。

 カナンちゃんの優しさを知ってからは、ワタシがこの無力ながらも健気な妹を守らなきゃって思ったのです。






 ……ワタシはあの日、カナンちゃんに秘密で夜の図書室へ向かったんですの。

 夜の図書室は不思議で、違う星に迷いこんだような世界が広がっていました。


 月影が射し込み、本をこっそり読むにはちょうどいい明るさ。けれど、ワタシが図書室に訪れたのは本を読むためじゃない。


 なんとなくだけれど、ワタシはワタシ自身が明日を迎えられない事を理解していました。



 だから、カナンちゃんとの想い出の詰まったこの図書室で、最期を迎えようと月影に照らされながらその時を待ち……そしてワタシは、胸の内から食い破るように溢れだした焔に焼かれ、命を落としたのです。



 そこからの記憶はほとんどありませんわ。不死者(アンデッド)として使われていた時のことは、ほんの僅かな断片のようにしか思い出せません。


 ただ、ワタシの不死者(アンデッド)としての身体にみんなの身体を少しずつツギハギにくっつけられたからか、ワタシの魂の中にはほんの断片的に孤児院のみんなの魂が混ざっているみたいですわね。


 意識はこれっぽっちも残ってはいないけれど、記憶はほんのちょっとだけ読み取れるみたい。


 みんな、やり方こそ違えど最初のワタシと同じですわね。


 17番……カナンちゃんを苛めていたのは、『下』を見下して安心感を得ようとしていたから。


 あぁ、ワタシを含めてクズばかりですわね。


 ま、いいでしょう。これ以上自分を責めるのは、カナンちゃんの望む事ではないですし。




 あ、ちなみにですが、ラクリスくんの魂はワタシの中には入っていないですわ。聞く所によると、カナンちゃんが食べちゃった後に能力(アビリティ)の材料に使われてもう残っていないみたいですわね。


 ふふっ、いい気味ですこと。




 それにしても……カナンちゃんは本当に強くなりましたわね。


 あの頃と変わらず優しくもずいぶんと雰囲気が変わりました。コルダータちゃんに聞くところによりますと、かなりの数の人間を殺めてきたみたい。


 ワタシ個人の倫理観としてあまり褒めることはできないけれど……カナンちゃんに押し付けるべきものではないでしょうね。


 きっとカナンちゃんは人間を殺めなければ生きられない世界で今まで生きてきたんですわ。

 ……仕方ない、ですわね。それに殺すのは悪人だけみたいですし。




 本当にカナンちゃんは遠くに行ってしまいましたわね。


 ワタシがお姉ちゃんだったはずなのに、今やワタシの知らない色んな経験をして……


 カナンちゃんは強くなった。ワタシが守らなくてもいいくらいに、大きくなりましたわ。


 カナンちゃんを守れるのは、もうワタシじゃない。


 ずっと隣にいる、ママ……じゃなくてオーエンちゃん。彼女と話すカナンちゃんは、ワタシの知らない顔で笑うのですわ。


 カナンちゃんを守り支えるのは、オーエンちゃん。ワタシじゃあない。



 その事に嫉妬と一抹の寂しさを覚えつつも、ワタシは安心しました。


 ありがとうオーエンちゃん。

 カナンちゃんを支えてくれて。守ってくれて。愛してくれて。


 ワタシが守らなくてもいい、側にいなくてもいい。それだけ強くなったカナンちゃんに、それでもワタシは何かしてあげたい。


 なぜならワタシは『お姉ちゃん』なのだから。




『役に立ちたい、ですか?』


「そうですわ。第二の人生まで貰ったからにはカナンちゃんに何もしない訳にはいきませんわ!」


『なるほど。そーですねぇ……』


 コルダータちゃんはワタシに近い境遇みたいですわ。1度命を落としてから第二の人生を得た身。


 彼女もまた、カナンちゃんの恩人ですわ。


『――近々、人化したドラゴンをここで雇う予定があるんですよね。シオノネちゃん、彼女たちに読み書きを教えてあげてはくれませんかね?』


「よろこんでさせてもらいますわ!」


 コルダータちゃんは優しいですわね。

 天使みたいに綺麗な笑顔でワタシの頭を撫でてくれる。オーエンちゃんママとは違う、安心感がありますわ。



『ふっふっふ……シオノネちゃんはやはり可愛らしいですねぇ。頑張って身体を作った甲斐がありますねぇ』


「身体を作ってくれて感謝していますわ。コルダータちゃんにも、何か恩返しをできたらしたいですわね」


 コルダータちゃんは恩人。


 ……だけど、この時はまだ彼女がワタシを見る目に不純な光が混ざっていたことに気づく余地はないのでした。




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