第228話 シオノネちゃんと今後について
「はぁ?! なんだよそいつ、ぶっ殺してやる!!!!」
主様が遭遇したという変態に対し、オレは感情を抑えきれなかった。
主様を『花嫁』だとか言って連れ去ろうとしたというヤツ。主様はオレの……その、お嫁さん……だし! オレも主様のお嫁さんなんだよ!!! 何なんだよそいつはよ!!!
「怒ってくれてありがとうおーちゃん。私も同じ思いよ。次に出くわしたら必ず殺すわ」
「一緒にぶっ殺してやろうね? そいつにオレたちの仲を見せつけてやるんだ」
「うふふ、名案ね。それにしても……怒ってるおーちゃんもまたかわいいわねぇ」
うぅ、主様の関心はもうオレに移っちゃったみたいだ。……そんな男の事なんて考えるだけでも無駄だ。
「ね、おーちゃん。血、吸わせて?」
「い、いいよ……」
先程までの怒りなんてもうすっかり忘れて、オレは主様に好き放題堪能されるのであった。
*
数日後。
コルダータちゃんからシオノネちゃんの肉体の定着が完了したとの知らせを受け、オレと主様は狭間の城へ潜った。
「シオちゃん……! 私よ、カナンよ、分かる?!」
「わかるよ、カナンちゃん。ワタシがつけてあげた名前、気に入ってくれたんですの?」
シオノネちゃんの肉体と魂を安置していた地下洞窟にて、主様とシオノネちゃんは対面する。
「久しぶり、シオちゃんっ!」
「うん、久しぶりですわ!」
オレの知らない主様の笑顔。心の奥底にもやもやと嫉妬が沸き上がるも、オレはそれを今は押し込めて二人の再会を祝福する。
「まずカナンちゃん……この間はごめんですわ。二人の事をいっぱい傷つけて、いっぱい痛い思いをさせちゃって……」
「いいのよ、ぜんぶ許すわ」
主様……いや、ここではカナンと呼ぼう。
カナンは、シオノネちゃんを優しく抱き締め見たことのないような微笑みを見せた。
「ありがとう。……それからひとつ聞きたいのですけれど、オーエンちゃんでしたっけ? 彼女はカナンちゃんにとってどんな人ですの?」
「ふふっ、おーちゃんかぁ。長くなるけどいい?」
「構いませんわ」
ニヤニヤしながらカナンはオレをなでなでしつつ、口を開いた。
「おーちゃんはね、狂信国を出てからの私にとっての全てよ。力も楽しいことも美味しいものも、愛という感情も。ぜんぶおーちゃんから貰ったの。今の私はおーちゃんでできていると言っても過言じゃないわ。おーちゃんのためなら世界を敵に回して滅ぼしてもいいとすら思っているわ」
「それは……二人の仲はすっごいのですわね。ワタシが割り込む隙なんてなさそうですわね。
オーエンちゃん、改めてカナンちゃんの側にいてくれてありがとうですわ」
「あぁ。こっちこそ、オレが出会う前のカナンの事を支えてくれてありがとう。感謝してもしきれない」
「ふっふっふ……。握手、しましょう?」
「ああ」
オレとシオノネちゃんは手を取り合う。……オレよりは年上だが、今のカナンよりは年下。そんなくらいの姿のシオノネちゃん。
正直カナンの初恋相手らしいということで、嫉妬していた。なんなら今もしてる。
けれど、シオノネちゃんそのものはいい子だし嫌いにはなれそうもない。
「それからオーエンちゃん、ひとつお願いがあるんですの?」
「お願い? なんだい?」
「その……〝ママ〟って呼んでも、よろしくて?」
……前言撤回。やべえわこの子。
*
シオノネちゃん、コルダータちゃんばりにやばい子だったのかもしれない。
オレのことをいきなり『ママ』呼びするわ、咄嗟に割り込んで『おーちゃんは私のお嫁さんよ!』と叫んだ主様に対して『じゃあカナンちゃんもママですわね!』と返したり……。
『ワタシはお姉ちゃんとママ、二つの属性を併せ持つ……♠️』
……。もう、諦めた。主様やオレのことを恋愛対象として見てる訳じゃないし、まあいいかな……。
ちなみにその後よだれを垂らしたコルダータちゃんが『ところでシオノネちゃん、あなたとってもかわいいですね』とか言いながら何処かへ引っ張られていったけど、まあ大丈夫だろう。
……コルダータちゃんより一回り小柄だったし、守備範囲内だったのかもしれない。
それから狭間の城を後にしたオレたちは、これからのことについて色々と考えていた。
「魔王になれば自ずと配下も増えていくわよねぇ。配下の住処も提供しなきゃだし……あとは食糧も……。国を作る気は無いし配下も100人もいれば十分だけれど、それでも大所帯よね」
「だよなぁ。……狭間の城で暮らしてもらうことになるだろうし……」
オレと主様はうんうんと頭を悩ませる。
各地に城への『扉』を設置すれば色々と動きやすくもなるかな?
居住区として狭間の城を活用するつもりだが、そのためにはいろんな家事をこなす人材が複数人必要にもなってくるし……。
「……良い感じの人材、そういえばいるじゃない」
「へぇ? 誰?」
「うふふ、それはね……」
――
「うむ! 我が主の頼みなら構わないぞ!!!」
「ありがとうドレちゃん」
ドレナスさんはカナンの半ば無茶振りのような要求に顔をしかめることもなく快諾してくれた。
家事を担当する人材が複数必要……そこでカナンが考えたのは、ドレナスさんの眷族であるワイバーンたちだ。
〝迷宮〟の権限でドレナスさんの魔力で産み出されたワイバーンたちだが、ドレナスさんが主様と主従契約を結んだことで〝繋がり〟ができた。
今や主様の成長に伴って、全ての個体が最上位飛竜へと進化している。
また、一部は更に上位の赤鱗竜にまで達しているらしい。七王には及ばないものの強度階域第7域の強力な魔物だ。
「その子達を〝人化〟させて使いたいのよね。習得できるかしら?」
「うむ、可能である! なんなら一部は既に人化を会得済みであるぞ!」
頼もしいな。
眷族のワイバーンたちは、召喚していない時は狭間の城とはまた異なる異空間にて意識も肉体の時間も凍結した状態で待機しているらしい。
これだけの人材、そこで腐らせるのはもったいない。
そんな訳で、これから狭間の城ではメイドなドラゴンたちが働くことが決定したのであった。ちなみに全ての個体が雌である。
……てか冷静に考えると、最上位飛竜って1体で小国くらいなら滅ぼせる魔物じゃなかったっけ?
そんな魔物がたくさんメイドとして働いているお城って一体……。
――他にもやりたいことは色々ある。ドレナスさんのような『七王』をスカウトするために大結界に入るのもそうだし、死霊のエスペランサちゃんを蘇生させる約束もしているんだった。
彼女の遺体は故郷にて土葬されている。
魔王になるために頑張る事と平行して、エスペランサちゃんが憑依しているジョニーちゃんと一緒に彼女の母国へ向かわないとなぁ。
大陸が違うらしいから行くの大変そうだ。
「これから忙しくなりそうね、おーちゃん?」
「あぁ。けど、主様と一緒ならとっても楽しくなりそうだ」
これから先も、主様が魔王になろうと神になろうと、オレは主様にとってかわいい『おーちゃん』であり続けよう。
そう、思うのであった。
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