第193話 変わり無き街並み
ポケモンたのちい(廃人)
「ひっさしぶりー! レベッカちゃーん!!!」
モダンで渋い色の扉を押し開けて、カランカランと耳触りの良い音を響かせる。
その向こう側は静かで落ち着くカウンター席の並ぶ、所謂喫茶店であった。
「あっらー! 二人とも久しぶりー!」
こちらに気づいて明るく嬉しそうに振る舞う女性は、このカフェの店主のレベッカさんだ。
この街角の喫茶店『ステラバックス』は、かつて常連として通い詰めていた思い出がある。
軽いトラブルを解決したり、ここの店主のレベッカさんにお菓子の材料を分けてもらったり……
けっこうな付き合いがあるお店なのだ。
「それじゃレベッカちゃん、いつものを二つおねがい!」
「はーいよ、プリンアラモード二つ~」
色々なメニューを食べてきたが、やっぱりここのプリンアラモードが1番だ。思い出補正もあるのだけど、食べるととっても落ち着くんだ。
「あー、やっぱりこの味ね」
フルーツに彩られたプリンを少しずつ食べる。この懐かしくて実家のような安心感みたいな感じ、定期的に食べたくなっちゃうな。
「これからは週一くらいで食べに来るわね」
「それは嬉しいけど、学園からだとキツくない?」
「問題ないわ。おーちゃんが何とかしてくれるからね」
あぁ、そういやそうだった。
1度【座標固定】で魔力をマーキングした場所には【空間転移】でいつでも一瞬で行き来できるのだ。
なので今後はこのウスアムの街にいつでも帰って来れるのだ。
……めっちゃ不法入国だけど。
言ってもプリン食べるくらいだし別にいいと思うけど。
「――でね、ジョニーちゃんっていう吸血鬼の先輩がいるんだけどね、すっごいイケメンなのよ。おーちゃんほどじゃないけどね」
「へぇ~、カナンちゃんにそこまで言わせしめるって相当魅力的な紳士様だね。あたしのこと紹介してほしいな~」
「紳士じゃないわ。可愛らしい女の子よ、多分」
「え~? 女の子かぁ、でもイケメンっぷり次第ならアリかも……?」
「ふふふ、男女問わずライバルは多そうよ? 私にはおーちゃんがいるから関係ないけどね」
レベッカさんに街を出てからの積もる話をするカナン。
どんな話題でもことごとくオレを褒める内容に持っていくのがなんかこっぱずかしい。
「カナンちゃんはオーエンちゃんの事を本当に好きなんだねぇ。オーエンちゃんはカナンちゃんをどう思ってるの?」
「え、あぅ……。その、恥ずかしいけど……主様の事は、世界で1番かっこよくて、可愛くて、綺麗な女の子だと、思う……」
「ずるいおーちゃん! 私もそれおーちゃんに言おうと思ってたのにー! おーちゃんこそ世界一可愛くて世界一綺麗で、それでいて世界一カッコいい女の子よ!」
うぅ、そうやって恥ずかしげもなく言えちゃうそういう所も好きなんだよぉ……。
お外ではちょっと恥ずかしいけれど、とても嬉しくもある。
きっとお互いの何が好きかを言い合ったら日付が変わってしまうだろう。
「はは、あははは……君たちがいればお砂糖いらなくなりそうだねぇ」
真冬なのに暑そうに顔を手のひらでぱたぱた扇ぐレベッカさんなのであった。
*
ステラバックスの次は、冒険者ギルドに向かう。
……その道中。見覚えのある後ろ姿を発見した。
「もしかして、エルムちゃん?」
「あれ……カナンちゃん? 帰ってきたんだ~!! 半年ぶりくらい?」
背中まで伸びる金髪に長く尖った耳。
冒険者ギルドのマスターであるエルムちゃんが、なぜか街中をぷらぷら歩いていた。こんな昼間からぶらぶらと、もしかしてサボり?
「あーっ、オーエンちゃん今とっても失礼な事を考えてたでしょー??」
「うげ、なんでわかんだよ」
「みんなに言われてるからね、サボり魔だって。ホントはサボってなんかないのにねぇ」
「……じゃあ何してたんだ?」
「んーとねぇ、お祭りの準備?」
お祭り……?
何かおめでたい事でもあったっけ?
「それって何をお祝いするお祭りなのかしら?」
「何って、新年の始まりをお祝いするんだよ。昔からこの街である伝統みたいなもんだねー。私はギルマスとして各所の警備や人員を派遣する為に視察してるってワケ。決してサボってる訳ではないぞよ~?」
「なるほど。お祭り楽しみねおーちゃん」
「うん、主様とのお祭りとっても楽しみ……」
カナンと一緒にあちこち楽しめるなんて、それはそれは楽しいに違いない。
えへへ、また頭なでなでされちゃった。ちょっぴり恥ずかしくも嬉しくって思わず照れちゃう……。
「……君たち前より更に距離感バグってない? 何かあったの?」
「私とおーちゃんの間に距離なんてものは必要ないのよ。毎晩いっぱい抱いていっぱい甘えて甘やかしてるわ」
「うっへぇ、ここまで甘ったるいカップルは見たことないよ……」
自慢げにオレとの関係を話しちゃって、恥ずかしいんだけど。
けど、オレとカナンの間には障害なんてものは何一つ無いんだなって。そう思えたら、なんだか嬉しくもなってきちゃって。
「あうぅ……」
「よーしよし、恥ずかしがるおーちゃんも素敵ねー」
「二人の後ろに百合の花畑の幻が見える気がするよ……」
その後、エルムさんとの井戸端話は互いの近況報告みたいになった。
とは言っても、ウスアムの街ではあれ以降大きな事件は起こってないらしい。
冒険者同士のいざこざはままあれど、Aランクの魔物が近場に出たり迷宮が出現したりとかは一切無いという。
というかあの頃はだいぶおかしかったのだと思う。一月の間にAランクの魔物やら迷宮やら、準特級の魔物が現れたりやら……
まあ迷宮はラプラスとかいうのじゃロリが多分カナンかオレにちょっかいかける目的でやったんだと思うが。
まあ、あれ以降そういうことは無いらしい。
「――あ、でもちょっとだけ変わったと言えば。
アガスっていう男を覚えているかい?」
「アガス? 誰かしら」
「やっぱ覚えてないか。彼はカナンちゃんが決闘して片腕飛ばした冒険者だよ。やたらランクに拘っていた男だった」
そういやいたっけ、そんなやつ。
「彼がね、以前とは別人かってレベルで丸くなったんだよ。今じゃ謙虚に大人しく人助けをしてるね」
「変わりすぎて気持ち悪いわね。何があったのかしら?」
「さあ? 本人は話してくれないのさ。ただ、カナンちゃんとコルダータちゃんに感謝してるっていう噂は聞いた事があるね」
「なんでコルちゃんに感謝してるのよアイツ……。
気が向いたら本人に聞いてみるとするわ。多分聞かないけど」
恨まれるこそすれ、感謝されるなんて覚えが無いな。
カナンも気味が悪いと思ったらしく、早急のその話を打ち切った。
*
ギルドに直接顔を出すのは明日にして、今日はお家に帰った。
そしてメルトさんと積もる話をするのだ。
聞きたい事も山ほどあるしね。
「オーエンちゃんは料理上手だねぇ」
カナンより三つ上くらいの少女にしか見えない黒髪の女性、メルトさん。
彼女とテーブルを囲み、オレの作ったカレーライスを食べる。
うんうん、我ながら美味である。
「ふう、ごちそうさま。さすがはオーエンちゃん、良妻になれるね」
「ゆぇっ?! あぅ、ありがと……」
「うふふ、私のお嫁さんったらホント可愛いわね」
「おやおや、二人とももうそんな仲なのかい。おませさんだねぇ」
ニヤニヤしながらほのぼのオレらを見つめるメルトさん。
前から思ってたんだけど、メルトさんは同性愛に理解があるっぽい。
「メルトちゃんって女の子同士の恋愛に偏見とか無いのね?」
「ある訳が無いよ。見慣れてるからね」
外を旅している時や学園でも、直接何か言ってくる訳ではないもののオレたちの関係を奇異の目で見てくる輩は少なからずいた。
別にそれが気になる訳ではないものの、メルトさんにそんな感覚が無さそうなのが逆に気になった。
「見慣れてるって?」
「もうずいぶんと昔の事になるねぇ。コルーの両親の事さ」
「……え? 両親?」
コルダータちゃんは確か、両親が産まれてすぐだかに亡くなってメルトさんが引き取った……って話だったはずだ。
その両親が……話の流れからするに、同性同士……?
「驚いてるねぇ。そうだよ、コルーの実の両親はどちらもダークエルフの女の子だったのさ。
しかもね……なんと双子の姉妹」
「はぇ、ええぇぇぇ!? ふ、双子の姉妹で……赤ちゃん作ったの?!」
待って、情報量が多すぎる。
同性で、双子で愛し合っていて? それでいて子供ができた?
わぁお……なんてファンタジーなんだ……
「あれにはさすがのあたしも驚いたね。どうやって子供作ったんだいってね。しかもコルーには歳の離れた姉がいるそうだ。そっちとの面識は無いけどね」
「あ、頭の中で情報がいつまでも完結しないわ……。そのコルちゃんの両親って何者だったのよ?」
「それはね……。ふふ、何から話そうか」
メルトさんは一呼吸置いてから、衝撃の事実を告げた。
「〝明星の勇者 ソフィア〟と共に、人魔大戦を終結に導いた英雄……だよ」
そういえば先日、影魔ちゃんの二次創作が投稿されたみたいです。
ノクターンで『おーちゃんカワイイ』で検索すれば出てくると思います。




