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第176話 食うか喰われるか

 





 ――なにもかも、お前のせいだ。


 全て、お前の弱さが招いた罪。





「うぁ、あぁぁぁっ……」


 弱々しく悲鳴をあげるのは、手足を紅い鎖に縛り上げられ宙に吊るされたカナン。


主様(ますたー)! ヤツの言葉に耳を傾けるな!!!」


 黒い檻の中からオレは叫ぶが、カナンに声が届いた様子はない。




「私のせいだ……私のせいでコルちゃんはっ」



 ダメだ、このままじゃ戦いどころじゃない……。


 陶器のように白い肌をした〝秩序の神〟は、そんなカナンの顔を無表情で覗き込む。


「ぜんぶ私が悪いの……。なにもかも……私がコルちゃんを殺したのと一緒なのよ」


 コルダータちゃん……。

 あの件を克服したとは思っていない。ただ、ある程度は割り切れているものだと思っていた。


 でも、そうだよな。


 あんなに前向きに見えても、主様(ますたー)はまだ子供なんだ。

 オレは主様(ますたー)が躓いても寄り掛かれる、支えてやれる、そんな存在で在りたい。


 主様(ますたー)の苦しみは、オレの苦しみでもあるんだ。


 だから――



主様(ますたー)の罪じゃねえ! オレたちの罪だ!!!」


 あえて、怒鳴るように強い口調で言ってやった。


「おーちゃん……?」


「オレだって、あの時なんにもできなかった自分の弱さを呪った。あの時ああすれば良かった、こう言えば良かった。何回考えたかわかんねぇよ……」


 あの時何ができたのか。

 ラクリスに負け、核を潰されて動けなくなっていた。その前にもっとできた事はなかったのか?


 考えれば考えるほど、後悔はより黒く深くなってゆく。


 しかし、それはオレ一人の問題じゃない。


「だからこの罪は、オレと主様(ますたー)が2人で背負わなきゃなんねえんだよ!!!」


 この苦しみを、たった一人で抱え込もうとしてしまう。自分だけが苦しめば、それで済むから。


 カナンの本当の姿は、弱く優しい一人の少女なんだ。自分自身でもきっと気づいていない。


 そんな弱くて優しいカナンも、オレは心から愛している。だからこそ、弱いカナンを護るのがオレの役割なのだ。


「そうね……ごめんおーちゃん。私ったら分け合わなきゃいけないものを見失っていたわ」


「そうだ。この罪は、オレと主様(ますたー)のもの。独り占めはオレが許さない。苦しむのは、あとで一緒にだ」


 カナンの瞳に光が戻った。

 〝秩序の神〟の精神攻撃は、どうやら精神操作に近いものだったらしい。


 だがまあ、たった今【精神干渉耐性】を手に入れたのでもう効かないだろう。



「くははははっ!! 我が主より離れるがいい、神を騙る者よ!!!」


 その時、〝秩序の神〟の背後からドレナスさんが飛び出し炎を纏った拳を背中に叩きつける。


 隔離されていたようだったが、自力で脱け出してきたようだ。さすがはドレナスさん。


「ドレナスさん! そのまま攻撃を続けてくれ!!!」


「何か考えがあるのだな!? 言われなくともやるぞ!」




 〝秩序の神〟は、とてつもなくタフだ。

 どんなに強力な攻撃でダメージを与えても、膨大な魔力ですぐに傷を塞いでしまう。


 ドレナスさんの攻撃はダメージこそ蓄積させているものの、このままではヤツが倒れるより先にこちらが力尽きる方が早いだろう。


【念話】によりカナンと思考を共有している。


 チャンスは一回きり。これを外せば確実に負ける。


 なにがなんでも、一撃で仕留める(・・・・)






『汝の罪……憎悪に囚われ、妹を見失ってしまっていた。100年、視野の狭さ故に妹を蔑ろにしていた。それが、汝の罪』




 げ、ドレナスさんにさっきの精神攻撃を仕掛けてきた。


 対象が心から悔いている記憶を強制的にフラッシュバックさせる、精神攻撃の能力。


 どんなに強くても、後悔を突かれてしまえばかなりキツいだろう。


 ところがドレナスさんは……




「くはははっ、それがどうした? 分かりきっている事だ、それがワタシの罪である!

 ドルーアンと遊んでやれなかった、もっと寄り添えば良かった。その罪は、償いの最中である!!!!」


 は、はね除けた……。精神干渉耐性があるわけでもないのに……。


 単純にメンタルがめちゃくちゃ強いからなのだろうか。

 ドレナスさんに能力が効かなかった〝秩序の神〟は、再び攻撃対象をカナンに……うん?


 ヤツが股がる竜の頭が片方、オレの方に向いてるんだけど? 何かご用で……



「おーちゃんっ?!」


 一瞬で視界がオレンジ色の火炎に包まれた。

 まさかオレに攻撃してくるとは……。

 オレが入っていた黒い檻ごと、跡形もなく消し飛ばされていた。


 まともに食らっていたら死んでたな。うん。


「ドレナちゃん、全力でこいつ攻撃してくれるかしら?」


「了解である我が主!!」


 ドレナスさんの身体が紅い光に包まれると、次の瞬間には巨大な竜の姿となっていた。



「ゆくぞ!! 〝竜炎葬拳(フレイノヴァ)〟!!!!」


 竜形態のドレナスさんの片腕が白熱し、凄まじい熱を帯びる。

 その白熱した拳は、〝秩序の神〟もろとも股がる竜型の悪魔を殴り貫いた。


 すると、至近距離で大爆発が生じその場に小さなキノコ雲が発生した。





『ギッ、有……罪、拘留』



 双頭の竜はいまの一撃で消滅し、本体たるシスターはかなりのダメージを食らって怯んでいるようだった。


 ドレナスさんは再び何処かへ飛ばされてしまった。

 すぐに戻ってくるだろうが、〝秩序の神〟のこの様子から察するに、どうやらカナンから速攻で倒すつもりらしい。



『汝――』



 再びカナンの顔を至近距離から覗きこみ、無意味な精神攻撃を仕掛けようとしてくる。




 ……今が、チャンス。



 真っ暗で狭くて暑くてじめじめしていて、それでいて柔らかくて安心する感触。


 そんな場所(・・)に、オレは召喚された。


『いくわよおーちゃん』


『あぁ、準備完了だ』


 真っ暗な空間が裂け、光が射し込む。

 オレは柔らかい床を踏み締めて立ち上がる。


 光の向こうには、〝秩序の神〟の大きな顔がオレを覗きこんでいた。




「あ~んっ」




 カナンは、秩序の神に自らの口の中(・・・)を見せつけるように開いた。


 カナンの舌の上に立つオレは、残りの全魔力を練り上げ解き放つ。




「――凍闇徹甲弾(クロスカノン)っ!!」




 カナンの口の中から、舌の上に立つオレの手のひらから、黒い氷の弾丸が発射され、至近距離から〝秩序の神〟の眉間を貫いた。





 小人形態(フェアリーフォーム)――。


 つい最近変身できるようになった、もうひとつの〝人化〟形態だ。

 大きさは3cm~15cmまで調節できるらしく、今は最小の3cmである。


 当初はこの形態で夜のカナンを喜ばせる玩具(・・)として頑張っていたが、これの真価はそれだけじゃあない。


 小さな身体でありながら、なんと通常の人化形態や魔霊形態とほぼ同じ魔法出力を出せるのだ。


 身体が小さい故にカナンの動きを邪魔することなくサポートできるし、あるいは今のように、〝暗器〟としても活躍できる。


 あと、万が一絶命してしまった場合でも損失する魔力量が通常よりもはるかに少なく済む。絶命して即時召喚なんてこともやってみたらできた。節約すれば残機が増えるって事だ。


 ……なんでそんな事知ってるかって?


 それはまた別の機会にだな……。あれは遊び過ぎてやっちゃった不慮の事故だったんだ……。まさか耐性を貫通して消化されるなんて……


 それは置いといて。






『ギギ……ガゴッ……』




『心象』で消費する魔力はとてつもなく多い。

 魔力量なら魔王のイルマセクさんより多いハズのオレが、あっという間に魔力切れ寸前にまで追い込まれている。


 そんなオレの、僅かに残された残りの魔力。

 それを、全て1発の魔弾に込めた。



 そして〝秩序の神〟の額に、黒い氷の花が咲いた。


 ヤツは人のような姿をしているが、魔人ではなく肉体を持たない魔霊。

 (コア)の位置も、その身体の構造も、人のものとはかけ離れている。だから、眉間を狙った。

 あそこにヤツの心臓があることは確認済みである。


 しかし、それでもヤツを仕留める事はできなかった。


 ヤツの(コア)ごと貫通させるつもりだったのだが、どうやら失敗してしまったようだ。


 みるみる内に、〝秩序の神〟につけた傷が塞がってゆく。


 それをただ、眺めているだけなんて、オレの主様(マスター)は許さなかった。






 *









 手足を拘束している紅い鎖……。

絶対切断(ザンテツケン)】でも斬れない、高い干渉力を持っているようだった。


 ここから脱出するには?


 ――否、この状態から〝秩序の神〟にとどめを刺す方法は?

 おーちゃんのおかげで、幸い(コア)は剥き出しになっている。



 それなら、斬るべきものはもう分かっている。




『!?』




 カナンの手首と足首から、鮮血が噴き出した。

 いや、そんな生温いものではない。


 切断(・・)していたのだ。

 自らの手を、足を。


 鎖の束縛から解放されその体勢が前のめりにぐらりと崩れる。そしてカナンの顔が〝秩序の神〟の額を覆い隠すように(・・・・・・・)倒れこみ――











「ふふっ、つかまえた……いただきます」








 その少女は、ひどく不気味に無邪気に笑っていた。

 3時のおやつを目の前にした、無垢な子供のように――


 輪廻の存在しない、深淵の闇に繋がる口を開き――



 バキバキ


 ボリボリ


 ぐしゃぐしゃ


 金属がひしゃげるような、それでいてクッキーを咀嚼するような。

 そんな形容し難い音が、そこから響いていた。


 〝秩序の神〟は、希薄な自我を働かせても自らに何が起こっているのか、最期(・・)まで全く理解できていなかった。



 まさか、自分そのものである(コア)を、直に……この小さな、白い牙の伸びた口で――









 貪り喰われているだなんて。









おまけという名の伏線仕込み。


『強度階域について』

作中で詳しく語る事もなさそうなので、ここにちゃちゃっと書いときます。

小数点以下の強度階域も表示しています。同じ強度階域でも実力に大きな差が出ることもあるので。

イメージ的にはマグニチュードが近いです。


強さの指針であると同時に脅威度を測る数値なので、『災厄級』とかみたいな縁起の悪い呼び方もついてたりします。


強度階域一覧(公開可能な範囲のみ)


第1域=下等生物級(ウィーク)

一般普人よりも弱いものは全てここ。


第2域=常人級(ノーマル)

通常の普人の強さがここ。ある種の基準であり、ここより上の階域は全て一定の『強者』のものとして分類される。


第3域=野党級(シュタルク)

徒党を組んだ普人、つまり野党の集団と同じくらいの強さ。用意周到な小規模商隊~小さな村が壊滅。そこそこ手練れの剣士とかはここ。


第4域=小龍級(マグナ)

文字通り、小さめのドラゴンくらいの強さ。ワイバーンとか。用意周到な村~小さめの街が壊滅。達人の剣士とかはここ。


第5域=災害級(カラミティ)

ここまで来ると、もはや人の範疇を越えた存在として恐れられる。用意周到な街~小都市が壊滅。小国の英雄だとかはここに収まってたりする。


第6域=大龍級(タイラント)

文字通り、大きめのドラゴンくらいの強さ。ワイバーンロードとか。用意周到な都市~小国が壊滅。ここからはもはや伝説の存在。神の加護を持たない勇者や魔王が食い込み始める。


第7域=災厄級(ディザスタ)

かるく暴れるだけで災害が起こるような、超越者たちの階域。用意周到な国が壊滅(滅ぶ)。

伝説の中でも特に強いと目される魔物や、神の加護を得た勇者や魔王はここに入る。


第8域=災禍級(デストロイ)

それが戦う事は、天災と変わりない。大陸の形さえ変えてしまいかねない災い。

用意周到な大国が壊滅。

ここまで辿り着いた者は少なく、魔物であれば『特級』と呼称され恐れられる。かつてはここに到達した勇者や魔王も少ないながらいたとか。




以下は登場している一部キャラの強度階域。


◆シーバル

第2.2域 常人級(ノーマル)


◆ケテルベアー

人形時:第6.2域 大龍級(タイラント)

肉塊時:第6.6域 〃


◆ジョニー・ナイト・ウォーカー

単体時:第5.9域 災害級(カラミティ)

カリス召喚時:第7.3域 災厄級(ディザスタ)

カリス単体:第6.5域 大龍級(タイラント)


◆マルドティアス

第7.1域 災厄級(ディザスタ)


◆ドルーアン

第7.3域 災厄級(ディザスタ)


◆ドレナス

第7.7域 災厄級(ディザスタ)


◆ラクリス

第7.8域 災厄級(ディザスタ)


◆カナン

通常時 第7.8域 災厄級(ディザスタ)

〝影装〟時 第8.1域 災禍級(デストロイ)


◆アマギオウカ

幼女形態 第7.4域 災厄級(ディザスタ)

完全顕現時 第7.9域 〃


◆イルマセク

第7.9域 災厄級(ディザスタ)


◆秩序の神

第8.2域 災禍級(デストロイ)


◆黒死姫

第8.7域 災禍級(デストロイ)


◆トルネードシャーク

第8.8域 災禍級(デストロイ)




◇ルミレイン

不明 第9域以上


◇エリカ・グロキシニア

不明 第9域以上


◇迷宮の管理者ラプラス

不明 第9域以上


◇大海の女神


不明


◇アスター


不明




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― 新着の感想 ―
[一言] おーちゃんよ食われたのに、ましてや消化されたのに嬉しそうとは… …… … 楽しそうでなにより!!
[気になる点] 夜の玩具になった件について是非詳しくお聞かせくださいお願いします
[良い点] どんなに苦しくても、どんなに打ちのめされようとも、二人で一緒なら! [一言] おーちゃんかわいい→おーちゃんカッコイイ!
2022/09/23 19:46 こぶ取りのじじ丸
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