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第168話 それが遺言なのね?

「ねえおーちゃん。どう思う?」


 帰宅してソファーでくつろいでいたら、隣に座るカナンにそう聞かれた。

 何についてかというと、それはやはり自由学科に潜む〝何か〟についてだ。


「〝何か〟ってなんなんだろうなぁ? 16年もの間、生徒を毎年同じ時期に死なせるなんて……儀式みたいだな」


 16年もの間ずっとそこに居るのだとすれば、少なくとも正体は生徒ではない。

 あり得そうなのは古株の教師あたりか?


 しかし理由がわからない。なぜ毎年生徒を一人殺すのか?


 それに……生徒が死んだ場所には必ず〝鏡〟がある。

 鏡を基点に、儀式でも行っているのか?


「難しい顔しちゃって。自由学科に何がいようと、私たちなら絶対大丈夫よ。犯人を必ず捕まえてやるわ」


「あぁ。エスペランサちゃんの為にも、次の犠牲者を出さないためにもな」


 友達を殺した犯人を、カナンは絶対に許さない。


 明日は放課後に自由学科の校舎を外から見に行く予定だ。

 オレの【明哲者】なら何かわかるかもしれないからな。


「さておーちゃん」


「な、なぁに主様(ますたー)?」


 オレの肩をぐっと抱き寄せて、カナンは舌なめずりをしている。

 吸血……でもない? ちょっと待って、何をす――


「ふにゃっ?!」


 コリッ、という硬い音と振動が頭の上から響いた。


 こ、これって……


「なんだかね、おーちゃんの角がどうしても美味しそうに見えてきたのよ」


 つ、角をかみかみされてる……


 ちょっとびっくりしたけど、角にはあまり感覚通ってないしな。尻尾とか耳とかされるよりは……


「んうっ」


 待って、変な声が出ちゃったんだけど。感覚無いはずなのにぞくぞくしてきた……。

 主様(ますたー)の奥歯が角の先端を挟んでコリコリと音をたてている。


「ん~おいひい……いいかほり」


「あうぅ……」


 変なぞくぞく感があるけど、嫌……じゃない。

 主様(ますたー)が望むなら、オレ……


「ふふっ、おーちゃんったらそんなに嬉しいの? 尻尾ふりふりしててカワイイ♡」


「あうえっ?!」


 え、尻尾?

 そんなに動いてた?


 うぅ……今更過ぎるが、どうやらオレの体は嬉しいと尻尾が勝手に揺れてしまうようだ。犬じゃないんだから……。








 *







 翌日、そして放課後。


 自由学科の校舎って、学園都市の中でもけっこう真ん中の方にあるんだな。

 おかげでアクセスが良い。


「さておーちゃん」


「あぁ、視る(・・)


【魔性の瞳】と【明哲者】を使って、自由学科の校舎を遠目に解析してみる。


 自由学科の校舎は縦に高く聳え立つ魔法学科のものとは違い、比較的高さはないがそのぶん面積が広かった。まるでお城のように、あるいは東京駅のように。

 建築様式も、現代的なビルではなく古きよき白亜の洋風な感じだ。



 《解析中……》



【明哲者】が解析している間にも、【魔性の瞳】は魔力の流れを可視化してくれる。


 なんつーか、ほんの少しだけだけど魔力が滞っているように見える。



 《解析完了。低密度の魔力結界を複数確認しました》


 結界?

 そりゃあまあどの学科の校舎も結界で守られてはいるが……。少し違うようだ。


 もちろん人が術式を組み合わせて作った結界もあるのだが、その中に単純な魔力を固めただけの結界がある。


 例えるなら、コンクリートやら鉄筋の壁や金網で囲っている場所の中に、なぜか土を練っただけの壁があるような感じ。違和感たっぷりだぜ。


「……なるほど、ますますわからなくなってきたわね」


「だなぁ」


 結局なにもわからんな。しかし、校舎に勝手に入る訳にもいかないから、校舎が遠目に見える木陰のベンチからもう少し観察する事にした。


 下校中の生徒たちが、あっちこっちに散ってゆく。


 その中に、一人知っている顔がいた。



「お、シーバルくんじゃん」


「そうねぇ……なんだか前より傷が増えてないかしら?」


 遠目だからオレにはよく見えないけど、視力の高いカナンにはハッキリ分かるらしい。


 それからシーバルくんはこっちの方に寮があるのか、うつむきながら近づいてきている。


 たしかに顔の痣とか増えてるような……。



「あっ……」


「また会ったわね、シーバルちゃん」


 シーバルくんがこちらに気づいたようだ。


「そ、そうだね……2人ともどうして、ここに……?」


「ちょっと調べたい事があってな。まあ大したことではないんだが」


 キョドってるシーバルくんは、年齢はカナンより二つ上なのに年下にさえ見えるくらい萎縮している。コミュ障って大変そうだな。


「そうなんだ……」


「ところでさ、また怪我してるんだな。大丈夫か?」


「だ、大丈夫! 何でもないからっ」


 む、なんだ急に声を張り上げて。

 触れられたくない話題だったらしいな。

 仕方ない、ここでこの話はおしまいだ。


「ああ、そうそう丁度よかったわ。それ以外の事で少し聞きたい事があるのだけれど」


「な、なに……?」


「鏡にまつわる変な事とか噂って聞いたことあるかしら?」


「鏡……? 別になにもない、けど……」


 ふーむ、何もないか。

 やっぱ振り出しからぜんっぜん動けないなぁ。


「あ……でも――」


 お? 何か思い出したのか?

 シーバルくんがそんなそぶりを見せたその時の事だった。


「うぃ~っす、シーバルくぅん? こんなところで何してるのかな~?」


 オレたちとシーバルくんとの会話に、勝手に男子生徒の集団が割り込んできた。


「ざ、ザードくん……」


 そのなかでも一際身長が高くてキザぶったヤツが、シーバルくんに馴れ馴れしく絡んでいた。ザードというらしい。


 友達……ではなさそうだ。

 シーバルくんの表情は暗く、ほのかに怯えの色が見える。


「おーう、で、シーバル。こいつらはお前の何? 妹?」


「か、カナンちゃんとおーちゃんは……」


「友達よ」


 戸惑うシーバルくんに助け船を出すように、カナンが即答した。


「ふーん? 何処の学科? 名前と年齢は?」


「魔導戦闘学科1年のカナンよ。11歳ね」


「オレはその同伴者のオーエンだ」


 名乗りつつも、カナンはあいつに警戒心を持って対応する。


 あいつらのオレたちを値踏みするみたいな視線が粘っこくて気持ちが悪い。



「ちょっと幼いが、めちゃめちゃ可愛くね? 同伴者も良い感じだ……」


「1年生って事はこれから発育して……いいねぇ」


 あー気分悪い。

 こんな所さっさと離れてしまいたいな。


「カナンちゃん、君は貴族の出身かな? ご両親の名前は?」


「貴族なんかじゃないわよ。それに両親は生まれた時から居ないわ。おーちゃんも同じ」


「へぇ? 平民の家どころか両親すらいないとは……くくく」


 ザードはカナンとオレを見て、嬉しそうに下卑た笑みを浮かべた。

 ろくでもない事を考えてる事が丸わかりだ。


「少し幼いが、これから成長する事を考えればなかなかの上玉だ。カナンと言ったか、俺の女にしてやる」


「え、待ってザードくん!?」


「シーバル、お前もたまには良いもん連れてきてくれるじゃねぇか。ありがとうなぁ!」


 はぁ?

 カナンを勝手に自分の物にしようとしてるだぁ? ふざけんなよ。


 シーバルくんも驚き、さすがに反発しようとしている。


「へっへっへ、大人しくするんだカナンちゃん? ザードさんに逆らえばどうなるか……知りたくはないだろ?」


「……」


 オレたちはわらわらと男子生徒どもに囲まれてしまった。

 シーバルくんは割り込んで、どうにかこちらを助けようとしてくれてはいるが、あっさり突き飛ばされて転んでしまう。


「それに、同伴者の魔人も小柄だが良い体つきをしてる。悪くない、食いがいがありそうだ……へへへ」


「あ?」


「さて。俺はグラム王国の伯爵家産まれの、ザード・ベッグリンだ。つまりとぉっても偉い家の長男なんだ。

 すなわち……お前のような下民に断る権利は無い。カナンも同伴者の魔人も、2人揃って俺の妾になれ。飼ってやる」


「ちなみに断ったらどうなるのかしら?」


「断った事を一生後悔するようになるなぁ? 2人とも離ればなれにはなりたくないだろう?」


 あっ、ダメだ。

 カナンに絶対に言ってはいけないことを、こいつは言ってしまった。


「ああそう、わかったわ」


「くっくっく、それじゃ早速これから壊れるまで輪姦(マワ)し――」


「わかったわよ、それが遺言なのね?」



 ――ヤバいぞ。うちの主様(ますたー)が、キレた。



おーちゃんを狙おうとする者は万死に値する


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― 新着の感想 ―
[一言] 火葬じゃねえ、闇魔法でチリ一つも残すな。YesロリータNoタッチ
死体袋一つ追加で。 あと、土葬するのは世界に悪いので全部火葬しましょう。灰とか残り滓は袋にぶち込めば良い。
[一言] イジメの主犯はもれなく死刑!どうせ大人になってもあの頃は若かったんだ、そらゆえの過ちさ悪いと思ってるよテヘペロ!くらいしか思ってないんだろうし大人になっても碌な奴にはならないからザード君はタ…
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