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第164話 ふしぎなピアノ

「待てやゴルァ!!?」


 黄昏時の街の中、まさかの実在した推しに遭遇した帰りの少年――シーバルは突然数人の男子生徒らに取り囲まれてしまった。


「ぼ、僕?!」


「そうお前! お前だこのうすらチンカス野郎!!!」


 メガネをかけ、猫背気味な集団……シーバルが拾った冊子の作者を含むオタクの群れであった。


「お前!! お前はカナおーの何なんだ!!? 答えによってはぶち殺ーす!!! 正直に答えろ!!」


「へ、えぇ!?」


 一難去ってまた一難。シーバルは再び大きなピンチを迎えていたのであった。








 *








「ねぇ聞いた……? 展望室のピアノの噂……」


 クラスの女子たちがヒソヒソとそんな話をしてるのが聞こえてくる。

 何やら最近魔法学科では、ホラーな噂が流行ってるようだ。


 学科問わず各所に都市伝説的な噂がいくつかあるらしい。

 その中でも魔導戦闘学科の都市伝説は、シンプルで分かりやすいものだった。



「深夜2時にそのピアノを弾くと、呪われるんだって……」


「きゃー、怖ーい!!」




 ありきたりというか、どこにでもありそうな噂だ。

 だが、前にリースリングちゃんが言っていた「特定の対象にたくさんの人が恐怖を抱くと、そこに魔霊が発生することがある」という事を聞くと割と洒落にならないのではないか?


 とは言っても、これくらいで魔霊が発生してたらもうそこらじゅう魔霊まみれだろうから多分平気だ。


「ふーん、なんだか面白そうね。放課後に最上階に行ってみましょう?」


 面白そうとは。

 しかしまぁ、この世界では死後魔物に転じる事もあるからな。

「呪われる」のが本当だとして、カナンに呪詛は効かなかったりする。カナン自身が「死後転じた魔物」の因子を複数持ってるからだ。


 オレたちは放課後、最上階の展望室へと登ってみることにした。



「で、ここが例の展望室か……壮観だな」


 高層ビルのような校舎の最上階、そこは360度学園都市を一望できる造りになっていた。

 下を見れば、街々がパノラマのように広がっており人なんて黒い粒のようにしか認識できない。

 都庁とか東京タワーとかもこんなだったっけな。


 そんな窓際には机と椅子が設置されており、そこで課題をこなす生徒もいるようだ。


 その傍ら、ピアノの音が響いてきた。


 音のする方へ進むと、白いピアノが設置されていた。


 これが例の「呪いのピアノ」か。こんな景色の良い所じゃあんまり呪いとは縁遠そうだ。


 あと、「お好きに弾いてください」と書いてある。ストリートピアノ的なものなんだろう、けっこう色んな人が弾いてるようだ。現に誰かが弾いてるし……


 あれ、ジョニーちゃん?


 制服の上から真っ黒なコートを纏った黒髪の吸血鬼少女、ジョニーちゃんがピアノを演奏していた。


「おや、2人とも展望室に来るとは珍しいな」


「ジョニーちゃんとはよく居合わせるわねぇ。私たち、そのピアノにいわくがあるって噂を聞いて見に来たのよ」


「いわく? んあぁ、夜中に弾くと呪われるっちゅー噂か。そら夜中にいきなり勝手にピアノ弾かれたら誰だって怒るやろ? ま、放課後に弾くくらいは問題ないって。何か弾いてみん?」


「ピアノって触ったことないわよ。弾きかたはわかるけど」


 そう言うとカナンは、椅子に腰掛けピアノの鍵盤に指を置いた。


 ポロン……


 心地の良い音が響く。

 するとカナンの手が、鍵盤の上でゆっくりと踊りだした。


主様(ますたー)?」



 黙々と、ピアノはどこか聴き覚えのある旋律を紡いでゆく。

 不思議で切なくて、懐かしくて。


 そう、それはまるで……まるで、ステンドグラスの塔で流れるあのオルゴールのような旋律で――




「――すごい、何の曲なんだ?」


「んー、わかんない。体が自然に演奏してたのよ」


 体が勝手にってそれはそれで怪異なんだが。


 ん……?


 傍らで聴いていたジョニーちゃんが、なんか凄い固まってるんだが?


「なんで……なんでカナンちゃんが、その曲を……」










 *










 陽の光が格子窓から射し込んで、狭く薄暗い牢の中を照らしていた。

 牢にはピアノと少女がひとり。少女は紅い瞳以外肌も髪も雪のように真っ白で、白いワンピースを纏っていた。


 そんな儚げな少女のいる牢へ、小さな黒髪の子どもが銀の格子の向こうの闇の中に現れた。


「また、来たの?」


「うん! ねぇ、おねえちゃんはどーして閉じ込められてるの?」


「それはね、私が罪人だからだよ」


「悪いことしたの?」


「ううん。でもね、私が外に居るとみんなが困っちゃうんだ。私はナイト・ウォーカー家にとって、生きてちゃいけないから」


「ふーん、ボクにはよくわかんないや」


「今はわからなくていいのよ。ジョニーもあんまりここへ来るとお父さんに怒られちゃうよ?」


「へーきだって! ねえねえ、おねえちゃん! 今日もピアノ弾いてくれる?」


「ふふっ、仕方ないわね」


 少女は小枝のようにか細い指で、鍵盤をなめらかに踊らせた。


 優しく切なくどこか懐かしい旋律を紡ぎ出す。


 世界で彼女しか知らないその曲を、今日も幼いジョニーの為に。











 *









「ジョニーちゃん?」


「はっ!?」


 どうしたんだろ? ジョニーちゃんったら放心してたみたいだな。


「すまんすまん、ちと昔の事を思い出してな」


 え、急に昔の事って。

 あからさまに今のカナンの曲について何か知ってそうだったが、それ以上何か聞いても適当にはぐらかされるだけだった。












 その日の晩。



 あれ……どこだここ? 真っ暗で何も見えない。

 いつも通りカナンにぎゅーってされながら寝てたはずなんだけど……


「おーちゃん? ここどこかしら?」


主様(ますたー)?」


 隣にはパジャマ姿のカナンが立っている。

 夢か……? けどステンドグラスの塔ではない。カナンと同じ夢の中って珍しいな。


「とりあえず進みましょ?」


「そうだな」


 手を繋いで、闇を進んでゆく。


 するとやがて、闇の中に白くて四角いものが現れた。


 これは……ピアノ?

 放課後にカナンが触ったあのピアノだ。


 まさか……






『おい、お前ら』




 突然、背後から何かに話しかけられた。

ようやく更新ペースを戻せそうです。テラリア恐るべし……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 真っ白ってアスターちゃんかしら。アスターちゃん再登場待ってます!!!
[良い点] 対立ちゃんが死んで落ち込んでいたところにこの話で元気がもらえました [一言] おーちゃんかわいい
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