第161話 あとしまつ
一体何が起こったのか少し纏めよう。
オレたちと特級モンスターとの戦闘に大海の女神が介入してきた。
そして女神さまは特級のサメをボッコボコにすると、オレたちを元の港町の沖まで転移してくれた。
……なんで?
女神さまはカナンを見て〝面白いもの〟と言っていたような。もしかしてうちの主様ったら神様たちから人気?
だが、そんなこと今は考えても仕方の無い事だ。
「カナンちゃぁん!! オーエンちゃぁん!! 良かった無事で……!!」
「あんな爆発程度で死ぬとは思ってなかったけど、さすがに焦ったわよぅ」
一時はどうなる事かと思ったが、誘拐された生徒たちは誰一人欠ける事なく帰ってこれた。
誘拐犯とワルス商会の奴らはまあ、生き残ってるやつならいるんじゃねーの。
あいつらは生きてても死んでてもどうでもいい。
分身野郎……名前は確か、ああそうだ。
アルから聞きたい事はあらかた聞き出したしな。
よほどカナンが恐ろしいらしく、聞いてもないことをベラベラと。
「あ、あぁ……良かったフィアーノ! 無事だったかい!!」
多数の冒険者らが見守るなか、捕まっていた生徒たちが続々と船から降りてゆく。
その中で、薄桃髪のフィアーノちゃんに真っ先に抱きついた一人のイケオジ冒険者がいた。長い顎髭をたくわえた、壮年のおじさん……に見えて、実は30代らしい。
何度か冒険者として一緒に依頼をこなしたこともある。
フィアーノちゃんの父親、クラッドさんだ。
「あのねパパ……あの子に助けられたんだよ」
「カナンちゃん……ありがとう、娘を助けてくれて」
フィアーノちゃんは巻き込まれ体質なんだろうかね。切り裂き魔に襲われていたり、誘拐されたり。
今回どうやらフィアーノちゃんは意図的に狙われたらしい。
――アルから聞き出した話だ。
魔人や戦闘学科の生徒を誘拐するようにという指令だったが、唯一フィアーノという戦闘学科でもない普人の少女も捕まえるように指示されていたらしい。
恐らくだが、クラッドさんがとある国の有力な貴族の血を引いている事が関係してるのかも。知らんけど。
「全く、今度の休日にでも黒幕をぶっ飛ばしに行ってやろうかしら」
「その黒幕の居場所が分かればいいんだがなぁ」
*
船が港に着くまでの間、カナンはロープで四肢を拘束された銀髪の青年を尋問していた。
「知っている事を話してもらうわよ」
「は、はい!! 話します話します!!!」
銀髪の青年……もとい、アルが吐いた情報を纏めよう。
――国際マフィア『イオ・メルベドス』
麻薬の売買や闇奴隷商売、希少生物の密猟や魔石を狙った魔人狩り……ありとあらゆる犯罪を斡旋し、裏社会を支配する組織。
「お、俺は雇われの下っぱなんだ……詳しい事は知らねえ!!」
……らしい。
あまり多くの情報は知っていなかったが、それでも無いよりは良い。あるいは口が堅いだけか。
ワルス商会については、マフィアの傘下だという事くらいしか分からなかった。
そのうち物理的に潰すとしよう。
どうやって学園に侵入したか、についてはこうだ。
『ガイズ』という男の息子が学園に生徒として在籍しており、アルはその同伴者として入ったらしい。
異質物については、〝騎士〟が持ち込んだという。
……騎士。
その正体をアルは知らないらしいが、自ら今回の計画に協力したという。
船の転移陣は騎士の魔力で仕掛けたもので、転移と同時に爆破する事で船が沈んだと思わせる策略だったらしい。
「つっても、まさか特級モンスターの縄張りに飛ばされるなんて……。話が違う……」
「で、親玉はどこの誰なのかしら?」
「し、知らない……言ったろう、俺は下っぱなんだって……」
ふーむ、まあそりゃそうか。捕まる可能性のあるヤツに重要な情報を教えたりはしないか。
「だ、だが……大幹部がこの国のどこかに潜伏してるって話は聞いてるぜ……」
「ふーん? それだけでもじゅーぶんだわ。生かしておいてやるわよ。けど助かったとは思わない事ね?」
「あ、あぁ……」
顔面を真っ青にして、アルはカナンに怯えながら頷く。
国際マフィアのイオ・メルベドスか……。
ぶっ飛ばしてやりたいところだけど、巨大な組織相手にそう上手くはいかないだろう。
ま、オレたちにはオレたちにできることをするだけだ。
「今度の休日にでもその大幹部の居場所を突き止めて、突撃しに行こうかしらね」
「……」
カナンの独り言にアルは何も言わない。
情報さえあれば、マフィアの偉い奴だろうと本当に取っ捕まえられるかもしれないな。うちの主様はとっても強いんだから。
*
アルとごろつきどもを憲兵に引き渡した。
一応聞いたところ、マフィアについてアル以上に詳しい者はいなかった。
憲兵さんいわく、マフィア絡みの事件は毎年のように発生しているらしい。そして事件の実行犯を捕まえても大抵が下っぱで、幹部級は捕まると半日もしない間に自害するか暗殺されるかのどちらかだという。
これのせいで、このマフィアの尻尾を掴めていないのが現状だとか。
しかし奴隷商売か。カナンも半年前は奴隷だったし、ひょっとしたら関わってるのか?
「おーちゃんったら難しい顔してるわよ? かわいいわね」
「んー、難しいこと考えてた」
色々考えてたけど、まあいいや。
今日は昨日の騒動の影響で学校はお休みなのだ。
200人もの生徒が誘拐された後、大量の悪魔が学園を襲った。
ドレナスさんらのおかげで死者はいないが、建物や施設への被害は大きい。
諸々の復旧のために4日ほどお休みになった。
交流戦の途中だったんだけどな、三年生……かわいそうだ。
「ん~、どっか行くか主様?」
「そうねぇ、今日はお部屋でごろごろしてたいわねぇ」
そう言うとカナンは、オレの頭をなでなでしながら抱き寄せる。
くんくん髪の匂いを吸われては、かわいいかわいいと呟いている。
昨日は特級モンスターと戦うわ色々ありすぎてヘットヘトだったからな。帰ってきてシャワーも浴びずにすぐ寝ちゃった。
だから、いつものを昨晩やれてないのである。
その反動で朝からこんな調子だ。
「んふ~、おーちゃんの濃ゆいにほい……たまらん」
いつもの倍くらいは吸われてる。
シャワー浴びてないからけっこう臭うと思うんだけどなぁ、それがまたいいらしい。
けど、カナンの匂いだってなんだかいいなぁ。
落ち着くっていうか、安心するっていうか……
『わぁがあるじぃぃぃ!!!』
うわっ!?
いい空気の所に唐突にドレナスさんから大声の念話が脳内に響き渡った。
『な、いきなり何よ!?』
『すまない、だが……だが! 昨日はあれからワタシに何の連絡も無かったではないか!! ひどいではないか!!』
あ、そういやドレナスさんめっちゃ頑張ってたのにすっかり忘れてたな。
『あー、悪かったわね。ありがとうね、学園を守ってくれて』
『ワタシだけではないぞ、ドルーアンも共に戦ったのだ! 我が妹ドルーアンも、我が主の配下に加わるか悩んでいる様子でな!!』
思念でもやかましいなぁこの人は……。
しかしあのドルーアンちゃんまでもがカナンの配下にとは。やはり姉妹なんだな。
『えぇ……すごくめんどくさそうね。で、伝えたいのはそれだけかしら?』
『むむ、そうだった。昨日〝騎士〟に会った事を伝えるのだったな』
『騎士だって!?』
事の元凶とも言える〝騎士〟。
大結界に封じられていた準特級モンスターの七王の封印を解き、学園に悪魔を解き放った張本人。
『騎士がな、何やら物騒なモノを盗み出したようだぞ? 何らかの異質物と……気配で解ったが、大怪蟲の核だ。少なくともこの二点を盗み出しておった』
『大怪蟲って何よ?』
『人間どもの言う〝特級モンスター〟だ。200年前、〝嫉妬ノ蟒蛇〟と相討ちになった恐ろしい存在だぞ』
と、特級モンスター……竜巻サメでもうお腹いっぱいなんだが、またそのうち戦う羽目になるのか……。
『大変ね……伝えてくれてありがと』
『ありがたきお言葉! 我が主!!』
満足したのか、そうしてドレナスさんは念話を切った。
脳内ですげー大きな声で喋られるのはなかなかびっくりするな。
「ふぅ~、さぁて続きよおーちゃん♡」
「あうぅ……」
再びカナンの髪吸いが始まった。
背中をなでなでされながら髪の匂いをくんくんされて、角の付け根を甘噛みされて……
「よしよし……そのまま目を閉じててね……」
そうして次に目を開けると、カナンの姿が山のように大きくなっていた。
「あぁ、おーちゃん……♡」
「ま、主様? まさか……」
小人形態はどうやらカナンの意思で切り替えられるらしい。オレの意思でもできそうだが、カナンの意思が優先されるようだ。
「うふふ……おいしそ♡」
いや、待って。
なんでそんな目で見てるの? なんでそんなに涎を垂らしてるの?
い、嫌な予感が――
161.5話をノクターンにとーこーするために書くわよ!
どんな事をするかはとてもここでは書けないわよ!!
追記:6/1日にノクターンへカナおーのシュリンカーものを投稿します。シュリンカーが分からない人は調べようね!!
更なる追記
ノクターンにまた番外編を投稿しました。例によってここにリンクは貼れないので、nナンバーだけ記載します。
n9624hq