第158話 最強のサメ
100万pvですってよ奥さま。
追記:2022-5/6
サメの高位能力の権能に【分割思考】を追加しました。
どす黒い雲の下、オレたちは常に激しい雷雨と強烈な暴風に吹き荒らされていた。
『ディオォォォォォォ!!!』
『はああああああああ!!!』
小山くらいはある巨体の暴風大竜鱶と、それに匹敵する大きさの黒い剣がぶつかり合う。
オレの魔法で造り出したそれは、現時点で出せる最大火力と言っても過言ではない。
こいつの技名は何にしようかな。
うーん、そんなの後でいいか。『おーちゃんすぺしゃるわんだふるアタック』とでも呼んでおこう。
……オレの強度階域は第七域の上位だ。真の特S級にかなり近いと自負している。
その上で同じく第七域のカナンと、それに近い実力を秘めたジョニーちゃん。
この三人がかりでも倒せないとは、暴風大竜鱶恐るべしだ。
『ディィオォォォォ!!!』
サメの野郎の押し返す力が強まった!?
まだ全然余裕じゃねえか! クソ、こっちはもう限界だってのに!
ビギビキと地鳴りのような何かが砕ける音が聞こえてくる。
果たしてその音はサメの体を砕く音なのか、それとも――。
そして、この鍔迫り合いを制したのは――
広大な黒い刀身に亀裂が入り、そして砕けへし折れる。
『ディィオォォォォ!!!』
――制したのは、暴風大竜鱶だった。
残り魔力の大半で造ったあの剣でさえ、ヤツに傷すらつけられなかったのだ。
異常だ……。なんで傷すらつけられない? 硬い訳とも何かが違う。
《呼称名:暴風大竜鱶の能力の解析が完了しました》
やっとか。さっき視た時に能力だけ解析できてなかったんだよな。
これでヤツの防御力の正体が分かりそうだ。
《――高位能力:【荒天に吼えるもの】
権能一覧:『天候支配』『高位風魔法』『無限再生』『分割思考』『絶対防御』》
え、高位能力……。やっぱり持ってたか。
各種耐性の他にはこの能力しか持っていないようだが、その権能が厄介そうだった。
『心象』を使わずとも周囲を自分に有利なフィールドに変えてしまう【天候支配】や高位系の魔法もそうだが、一番ヤバいのは【絶対防御】だ。
これは文字通り、『絶対』の防御を体現する能力らしい。
空間の繋がりの連続性を断ち切る事で、いかなる攻撃も暴風大竜鱶の体には到達できないというものだった。
たとえどんなに干渉力の高い魔法であろうと、断絶された空間と空間を飛び越える事ができなければ無意味なのだ。
『空』を操る暴風大竜鱶の力の究極形って事か……。
更に、運良くダメージを与えられても【無限再生】ですぐに癒えてしまう。
オレたちの全力の攻撃も、ヤツの前にはほとんど無意味だった……。
『ディィグォォォォォ!!』
『ぐあっ!?』
真空波が飛んできてオレの胸辺りに直撃した。
【魔性の瞳】の効果で、どこから来るか視えてはいる。しかし速すぎて避けられない。
「おーちゃんっ!?」
『だ、大丈夫だ……。まだ動ける』
とはいえ、残りの魔力も僅かだ。
やはり最初に〝心象〟をやっとくべきだったか?
いや、ダメだろう。
暴風大竜鱶の体が大きすぎる。オレの心象結界はせいぜい直径50mくらいしか広げられない。これでは閉じ込める事ができず、不発に終わっていた可能性が高い。
『ディオォォォォォォォン!!』
暴風大竜鱶が嵐のように咆哮すると、一帯の空気がヤツを中心に渦を巻き始め……
「ヤバいわね。一旦逃げるわよ!!」
ジョニーちゃんも一旦暴風大竜鱶から距離を取った。
……やべえ。
また、大量の竜巻を発生させやがった。最初の時と同じ状況だ、ヤツ本体は一際大きな竜巻の中にたて込もっている。
オレもカナンももう大きな魔法は出せないし、ジョニーちゃんの魔法では火力が足りない。
このままだと船もオレたちも海の藻屑にされてしまう……。
クソ、無数の竜巻と雷がオレたちを追いかけてきやがる。
もはや暴風大竜鱶を倒すのはおろか、退散すらさせられない……。
ヤツは好戦的というか、縄張りに入った相手に容赦しない性質なのだろう。船が縄張りから抜けられれば見逃してくれるだろうが、ヤツの縄張りは数百キロに及ぶらしい。
その前に沈没だ。
「……ワイが一か八か〝心象〟をやる。その間に船の転移陣を起動させるんや。船全体は無理でも、生徒みんなを飛ばすくらいはできるやろ」
ジョニーちゃんもやはり〝心象〟を使えるらしい。
さすがと言うべきだが、暴風大竜鱶にどこまで通じるのか。
そもそも時間稼ぎにジョニーちゃんを犠牲にするなど、オレもカナンも許しはしない。
「そんなのお断りよ。一か八かなら、私にだって秘策はある。……正直かなり危険だけどね」
『……あぁ。最後の手段だな、あれは』
秘策……いや、あれは禁忌だ。
【影葬】を使って黒死姫に変身すれば、暴風大竜鱶とも互角以上に戦えるだろう。
【絶対防御】にはどうやら【絶対切断】が有効なようだし、黒死姫のものならばダメージを容易に与えられるかもしれない。
だが、黒死姫になると理性と自我を失った暴走状態に陥ってしまうのだ。
最悪、ジョニーちゃんを含めてみんなを巻き込んでしまうかもしれない。
だが、転移陣でみんなを避難させられているのなら心置きなく変身できる。
アイツを倒した後で、誰かがオレたちを止めてくれると信じて……。
「ジョニーちゃん。船に戻って船内にある転移陣を起動させて。私たちの心配はしなくていいから」
「何や……何をする気や?」
「ふふふ、見たら驚くわよ。ま、見れる距離にいたら死んじゃうんだけどね」
「それこそ却下や。何か知らんが、かなりリスクの高い事をやろうとしてるんやろ? ダメや。後輩を守るのが先輩の役目や、ここはワイがやる!」
譲らないな……。
だが、どっちかがやらなきゃ全滅は免れない。
『ディオォォォ! ディィィィオォォォォォォォ!!!』
竜巻が更に何十本も周り中に発生してきた。もう迷っている場合じゃない。
黒死姫は、強者に引き寄せられる性質があるとルミレインが言っていた。
この場で変身しても、暴風大竜鱶がいる限りはジョニーちゃんを狙う事は無い。そう踏んだ。
「後は頼むわ」
「やめるんやカナンちゃん!!」
ありがとう、ジョニーちゃん。
オレもカナンも、ジョニーちゃんの事嫌いじゃなかったぜ。
元気でな。
「〝Зеркало,о зе――」
〝禁忌〟を発動させる呪文を、唱えかけたその時だった。
「っ!?」
突如海中から蒼く光る何か巨大で長いモノが飛び出し、暴風大竜鱶の体に噛みついた。
あれは……龍? しかしなんだあれ、デカ過ぎる!?
それは暴風大竜鱶の巨体すら霞む体躯の、真っ青な龍のような何か。
それは鯉のような鮫のような、さまざまな魚の特徴を有する独特な姿。うーん、サメの特徴が特に濃いな。更には数キロにも及ぶ長い体はウツボのようだ。
そして何より、理解してしまう。
心と理性と本能が、アレとの次元の差を。
そこにいるだけで、空間が歪むほどの存在感を。
暴風大竜鱶とは比べ物にならない、圧倒的な力の差を見ただけで感じてしまう。
それはまるで、この海そのものがあの龍の一部かのような錯覚をもたらし――
そしてオレは、【明哲者】の解析結果を見て自分の正気を疑った。
《解析中……一部情報の閲覧を認可されました。解析が完了しました。
呼称名:大海の女神・化身『蒼神龍』
種族:最上位聖神霊》
サメにはもっと強いサメをぶつけんだよ!!!!