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第147話 胸に誇りを

むねにかけて!むねに!

 それぞれが地上の森の中で戦闘を行う中、この一組だけは違った。


「くらーえー!!」


 幼い少女の体からアンバランスに肥大した竜の腕が、カナンに爪を振り下ろす。

 カナンはそれを回避しつつ、軽いジャブによるカウンターを織り交ぜてゆく。


 この二人が戦っている場所は地上ではない。

 交流戦が行われている森の上空、すなわち空中である。


「……で、なんでドレナちゃんの妹がこんな所にいるのよ?」


「お前なんかに答える義理は無い! この貧乳!!」


「貧乳……」


 胸も会話も弾まない。というか、カナンの言葉に耳を貸そうとしない。

 しかし、お喋りが嫌いな訳では無かった。


「お姉ちゃんは戦いにしか興味が無かった……そんなお姉ちゃんを越える事がぼくの夢だった。なのに、お前のせいで!!! お前を倒してお姉ちゃんを昔に戻してやる!!」


「やっぱり姉妹なのね、ほんとによく似てるわ」


「そしてぼくはみんなからちやほやされて、すっごい人気者になるんだ!!」


「うん?」


「だからお前は倒されろ!!!」


 そして唐突に繰り出されたドルーアンの攻撃がカナンを襲う。

 カナンは蹴りや拳の連打を同じく連打で相殺しつつ、隙を探る。


 空中には地面が無い。至極当然の事だが、それにより脚は本来の体を支えるという役目から外れる事になる。

 そうなると脚は攻撃の為のパーツとなり、純粋な手数……否、脚数が増える。


 二人の近接戦闘は、両手両足を駆使した独特な格闘方となっていた。


「うららららら!!!」


「はあああああ!!!」


 本気を出したドルーアンはカナンをも上回るパワーとスピードを誇る。

 更に、100年以上もの経験の差がある。


 この勝負、カナンに不利と思われていた。


 しかし……



「だんだん読めてきたわ」


 カナンは類稀な天才である。

 身体能力、動体神経、反射能力etc……数多く持ち合わせる戦闘の才の中で、最も光輝くもの。


 それは〝眼〟である。


 眼より先に手が肥える事は無い。

 他者の動きを見て盗み、己の力とする。

 カナンの数多くの才能の中でも抜きん出た〝戦いの才能(センス)〟である。


「ば、バカな?!」


 その眼の前では、100年やそこらの経験値など数秒で埋まった。

 カナンの成長速度は、凡夫の100倍以上と言っても過言ではない。


 ドルーアンは、まさかカナンが自分と互角以上に渡り合えるとは思ってもいなかった。


 カナンが強いとは疑っていなかった。しかし、自分が姉を追いかけてきた100年もの経験値が覆されるとは、予想外の事態であった。


「む、ぐ……ぬあああ!!!」


 当初は防戦だったカナンが、10秒後にはドルーアンを圧倒し始めていた。


 だがドルーアンにはまだ、カナンに見せていないものがある。



炎竜尾鞭(デスフレアテール)!!」


 それは尻尾だった。

 白熱した炎を纏ったドルーアンの尾が、股の下から飛び出しカナンの腹部を狙う。


 カナンにとって完全に意識外の一撃。対応できるはずがない。


(勝った……!)


 しかし。

 カナンは物ともせずに、その尻尾を掴んだ。


「……で?」


 カナンの手がじゅうじゅうと音を立てて焼ける。

 しかしカナンは表情ひとつ変えず、そのままドルーアンをぶん投げた!


(なんで反応できる……!? なんでなんでなんで!?)


 吹っ飛ばされるドルーアンは考える。

 まさか本当に姉のドレナスがカナンに敗北したのかと。


 正確には当時のカナンは今よりも弱く、おーちゃんと力を合わせて辛うじての勝利だった。


 しかし今ならばドレナスとも互角に渡り合えるだろう。


 ましてやドレナスよりも一段劣るドルーアンなどは――



「くそ~! 許さないぞ、この貧乳淫乱サイドテールめ!!」


「淫乱じゃないわよこの露出狂!」


「貧乳ってのは認めた! やーいこの貧乳!」


「ちょっと!!」


 カナンの言葉などろくに聞かず、ドルーアンは次の手に出た。


「燃え尽きちゃえ! くははははは!!!!」


 ドルーアンの頭上に特大の火球が現れた。

 まるで太陽がもうひとつ現れたかのようなそれは、カナンへと投げつけられる――


『おーちゃん、少しだけ手伝って』


『了解だぜ』


 カナンは火球を前に、避けるそぶりさえしなかった。

 おもむろに手を掲げると、そこにオーエンの黒い手の先が現れる。


 それが火球に触れると、黒いもやのようなものが包み込み萎ませてゆく。


 状態を〝停滞〟させる【闇魔法】で、炎の流動するエネルギーを停滞させたのだ。そうすれば、火球は力を失い小さくなってゆく。


 だが、ドルーアンにとって火球は囮だ。

 本命は火球を防いだカナンへの不意打ち。


 背後から回り込むようにして、カナンに襲いかかる。


「炎竜王爪っ!!」


「ふんっ!」


 カナンは【竜爪】を纏わせた右腕でドルーアンの炎を纏った一撃を防御した。


 だが、先程よりも威力がある。炎を纏った事で強化されたのだ。

 カナンの右腕が一瞬で焼け、骨まで露出してしまう。


「チッ……」


 防ぎきれないと判断したカナンは、【空中跳躍】による踏ん張りを解除して自ら吹っ飛ばされた。


「認めてあげるよ! お前は強い! でも、ぼくの方がもーっと強いもんね!」


 ドルーアンは吹っ飛ぶカナンに先回りして、更にもう一発食らわせようとする。


 しかし


「気が早いのね」


「はっ!?」


 攻撃を受ける寸前、カナンはなんと空中で受け身をとってドルーアンの一撃を回避した。

 そして僅かな隙にドルーアンの剥き出しの腹部へ掌を押し当てて


「〝竜掌発剄〟」


「ぐふっ!?」


 今度はドルーアンが吹っ飛ばされた。

 しかも、一瞬で吹っ飛ばされた軌道に追い付いている。


 ドルーアンが体勢を立て直す隙すら与えずに、カナンは追撃を加える。


 爪を、蹴りを、拳を。


 しかしどれも有効打には欠ける。

 体勢を立て直させないようにはしているが、さすがは竜王の妹。とんでもない防御力だ。

 更にギリギリで防御までしている。


 ならば――


「くらえっ!」


 カナンはドルーアンを勢いよく蹴って吹っ飛ばさせた。


 ドルーアンはしめたと思い、体勢を立て直そうとするが――


おーちゃん(・・・・・)


 カナンは人差し指を上から下へと向けた。

 その次の瞬間――


「ぬっ!? ぐあああああっ!!?」


 上から下へ、巨大などす黒いものが通過してドルーアンを叩きつけた。


 おーちゃんの拳である。

 カナンは一連の連撃の〆に、おーちゃんの一撃を用いたのだ。


「今の連携なかなか良かったわよね? うふふ、おーちゃんったらまた……」


 脳内でおーちゃんと会話しながら、カナンは地面に叩きつけられたドルーアンの様子を見に行こうとした。


 しかし


「きゃっ!?」


 突然、真っ赤な熱線が地上からカナンへ放たれた。

 ドルーアンが反撃してきたのだ。


「ぬぐぅ……もう怒った」


「驚いた、まだ元気なのね」


 あれだけの攻撃を食らって、ドルーアンは大したダメージを受けていないようだった。


「もう許さないんだからね、この貧乳! まないた!!」


「あんたねえ……さっきから貧乳貧乳って、貧乳の何が悪いのよ! 貧乳は希少価値があるって言ってたもん!」


「希少価値ぃ? プークスクス、少なければ価値があるとでも?」


 なぜか貧乳へのこだわりを見せるドルーアン。彼女自身もまた貧乳なのだが、自覚は無い。


「もうっ! おーちゃんも何か言ってやって!! 魔人召喚(オウカ)!」


「え、オレ!?」


「誰その子?」


「私の使い魔よ。今は人化させてるけど」


 唐突な人化召喚に戸惑いを隠せないおーちゃん。それどころか、一触即発なデリケートな話題のど真ん中である。火中の栗だ。


「さ、おーちゃん。貧乳の素晴らしさをあの子にも伝えてあげるのよ」


「はぇ!?」


 貧乳の素晴らしさとは。

 おーちゃんは考える。ここで貧乳について語るのは簡単だ。しかしそれでは面倒臭くなるだけである。


「あー……。貧乳って、別に悪いものじゃないし……。大小どっちにも良さがあるっていうか、大小なんて人の好みだし? そこに愛があれば大きさなんて関係ないんじゃないかなぁ……?」


 当たり障りの無いように、そーっと答えるおーちゃん。

 カナンが怒る事は無いだろうが、これ以上会話がこじれてしまってはもう見ていられない。


「あぁおーちゃん……。さすがはおーちゃんね、愛があればなんて良い事言うね……。よしよし、今夜はご褒美いっぱいあげるわね♡」


「うぅ、主様(ますたー)……抱きつくのは帰ってからにして……」


 そもそも貧乳が希少価値だのと吹き込んだのはおーちゃんである。

 おーちゃんを抱いてたカナンが、おーちゃんが巨乳好きだったら満足させてあげられないわね……等と思い悩んでいた時に励ました言葉が発端である。


 それからというものの、カナンは自らの貧乳に自信を持っていたのだ。文字通り無い胸を張って。


「でもそいつ巨乳じゃん。歳に似合わず大きいじゃん! 持つ者が持たざる者に従っていて、お前はそれでいいの!?」


「は? 誰が持たざる者よ? おーちゃんが良いって言ってくれたこの胸を、これ以上バカにはさせないわ!!」


「あうぅ……」


 戦うのは敵同士だから仕方ない。

 しかしなんだか申し訳なくなって頭を抱えるおーちゃんであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] これは攻撃のほぼすべてを魔法に任せて仙術は全部防御に任してるからカノンちゃんでも抜けないのか。じゃあアビリティも防御を意識してるのかな
[気になる点] ドルーアンが強いのはわかるけど、今のカナンちゃんがそこまで苦戦するのがなんでだろ? [一言] 貧乳にしろ巨乳にしろ超乳にしろどれも資産価値です、大切にしていきましょう。
[良い点] 初めておーちゃんの大雑把なサイズが明かされる……! おーちゃんは巨乳!おーちゃんは巨乳!
2023/09/16 04:22 退会済み
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