第141話 交流戦に向けて
いつのまにか感想200件いってました。
カナンは天才である。
オレという影魔を発現させた事や多彩な能力を開花させる事もそうだ。しかしカナンの中でも真に類稀なるものは、純粋な戦闘の才だ。
「ぐっ、くっそぉ! 勝てる気がしねぇ!」
午後の体術の授業……そこでカナンは、クラスの男子どもを相手に無双していた。
「格上相手にムキになるのは一番ダメよ。搦め手でも使わないのなら、一瞬のチャンスを逃さずに全力を注ぎ込むことね。まともに戦っても勝てないんだから」
「でもカナンちゃん相手だとチャンスも隙も見当たらないんですけど……」
ごもっともだ。
今のカナンは膂力と技能だけで師団を何個も壊滅させられうる戦闘能力があるだろう。
そんなのを相手に『隙を見つけろ』等と言うのはかなりの無茶ぶりだと思う。
「ふぁ~……」
お昼ごはん食べた後だからか、眠くなってきたな。後ろでカナンが戦ってる様子を見てるけど、そもそもオレは生徒じゃないからな。厳密には授業に参加していないのだ。
何よりこの貧弱な肉体では体術なんて……
つーか、他にも従者連れてる生徒はいるはずなのに、オレ以外見かけないのはなんでだろう? もしかして学校にいる間とかは別の所で行動してる?
だとしたら恥ずかしいな……。
んむむ……ねむい。ちょっとだけ寝よう……従者なのに主を差し置いて寝るなんてどうかしてると思うけど……。
壁に背を預け、オレはうつらうつらと微睡みに吸い込まれていってしまった。
「……オーエンちゃん、カナンちゃんが先生と戦うよ」
「ん……うぇ?」
え、ちょっと寝てる間に何が起こった?
先生って、ネメシス先生?
あの赤茶のローブで全身隠した先生と? なんで??
「さあ、いきますよ」
「楽しもうじゃないの!」
戸惑っているオレを置き去りにして、二人の戦闘が始まってしまった。
カナンは無闇に飛び込まず、様子を見ている。
一方のネメシス先生は、属性を纏わせた魔力の弾を何個も自身の周囲に浮かばせた。魔弾を放つ・飛ばすのではなく、自分の周囲で待機させているのか。カナンに接近されるのを拒否しているようだ。
しかもあれら、全部上位魔弾だ。
「なるほどね、近づかれたくない訳ね。面白いわ」
カナンの顔が嬉しそうに歪む。
そして次の瞬間、瞬きする間に距離を詰めていた。
「む……!」
ネメシス先生はカナンの動きに対応し、雷を纏った【竜爪】をバックステップで回避した。
そして浮いていた魔弾をカウンターとしてカナンの懐におみまいする……が、カナンもそれらを爪で叩き落として無効化した。
「やるわね」
先生は再びカナンと距離を取ると、遠距離からちくちくと様々な属性の魔法で攻撃してくる。
しかしカナンもまた、魔法の攻撃を物ともしない。
もう一度接近すれば、カナンの勝ち。
しかしどうやって距離を詰めるか。
無理やり押し通すのは簡単だが、カナンはもう少し楽しみたいようだ。
「いいわ、弾幕勝負ね」
カナンは手のひらをペロリと舐め、手に魔力を伝導させる。
そして宙を裂くように手刀を振るうと、軌跡に紅い雷の弾がいくつも現れる。
それはゆっくりとカナンの周りに漂っている。ネメシス先生のものと同じようだ。
しかし、それだけではない。
「あーーーん」
大きく口を開き、魔力を集中させるカナン。
紅い光が球状に集まりそして解き放たれるは、広範囲を包む雷の幕だった。
更に漂わせていた弾を先生に向けて飛ばす。
「なんのこれしきっ!」
先生も結界で弾を防ぎつつ、カナンの気配を探ろうとしている。
カナンの狙いを察しているのだろう、防御しつつも隙は無い。
だが、その上をいくのが天才のカナンだ。
「残念、こっちよ」
「何!?」
雷の弾と幕で視界を塞ぎ、死角から一撃を。
先生が警戒していた事もカナンの狙いも同じだった。
しかしカナンが現れた場所は先生の想定していない所。まさに死角。
地面の中から飛び出したカナンは、先生に雷竜爪を食らわせた。
しかし先生は、手首でそれを受け止めた。絶対切断を発動していれば、完全に倒していただろう。
「ぐ、やりますね。さすがは――」
カナンの攻撃を防御し、先生の手首の手袋が雷に焼かれて破れていた。
その中身が一瞬、黒い骨のように見えた。しかし先生はすぐにカナンを弾くと、手を隠すようにローブの袖にしまった。
カナンは身を翻して先生と距離を取る。
構えは解かないが、戦闘はこれで終りだろう。
てかなんで先生と戦ってたんだ……?
「合格です。いやはや、腕を上げましたね」
「……? まあいいわ、これで私を交流戦に出してくれるのよね?」
「ええ、他の希望者の実力次第ですが」
え、交流戦に参加する審査みたいな事やってたの?
というかカナン、交流戦出たかったんだな……。
その後もカナンと同様、希望者たちが先生を相手に戦ったりしたのだが、先生に手も足も出ていないようだった。
ネメシス先生、かなり強いぞ。完全な死角からのカナンの一撃を受け止めるし、魔力もある。
しかもだ。
オレの【明哲者】を弾いているのだ。
何者なんだ?
このクラスの生徒も誰一人として、ローブの下を見たことが無いらしい。
ネメシス先生は、性別も種族も何もかもが謎に包まれている。
何はともあれ、結局交流戦に出場するこのクラスの代表はカナンで決まりのようだった。
そして放課後。
他クラスの代表らと顔合わせに行く事になった。
心底めんどくさそうなカナンだが、この交流戦というのはチームで戦うものらしいので仕方がないのである。
「やだわー、今日は帰っておーちゃん吸いしたいのに」
「あうぅ……」
オレの匂いを堪能したいというカナン。
どこを吸うかはカナンの気分次第だ。あんまり恥ずかしい所じゃない事を祈ろ……。
さて。オレはカナンの影の中で待機しつつも、外の様子を眺めていた。
ここは……第一会議室だな。そこに一年生の各クラス代表者が集まり小さな円卓を囲む席に座っていた。
「君が第2組の代表者、カナンくんだね?」
「そうよ。遅れてたみたいね、悪かったわ」
部屋へ最後に入ってきたカナンにまず声をかけたのは、金髪の少年だった。
歳は14くらいだろうか。ゆるい癖毛に蒼い瞳で顔立ちは整っており、どこか気品がある。多分どっかの貴族のお坊ちゃんなのだろう。
他にもあと三人いる。
気が強そうなツンツンした赤い髪の少年。
栗色の毛をした、曇った瞳から幸薄オーラの溢れる女の子。
あと、机に突っ伏していびきをかいてる紫髪の少年だな。こいつは見覚えがある。確か編入試験にもいたやつだ。
「さて、これで全員揃ったね。それじゃあ改めて――」
他の戦闘学科との交流戦は、3日間に渡って行われる。
1年は初日、2年は二日目、3年は三日目。
同じ学年同士……つまり1年は1年のみのチームで対戦する。
交流戦のルールはいたってシンプル。
広大なフィールド上で、一チームに一つ水晶が与えられる。
敵チームの水晶を破壊し、最後まで水晶を守りきっていたチームの勝利となる。
つまり、水晶という王将を守りながら敵の王将を取るゲームである。まるで将棋だな。
ただし、相手は一チームだけではない。
仙術学科と物理戦闘学科……敵は二チームだ。
他の二チームが戦っている最中に漁夫の利を狙うのもよし、攻めこんで叩き潰すもよし。
これはただ腕っぷしが強いだけでは勝てない、戦略性が必要となる戦いだ。
「これも〝戦い〟ね。楽しみだわ」
カナンにとって初めてとなる新たな形式の〝勝負〟。
カナンは未知の戦いに思わずぺろりと舌なめずりをするのであった。
オヤブンのカナンちゃんは邪悪な力に満ち溢れている!!




