第129話 触手プレイ? 違います、採寸です
おまたせ
いつもの宿で、カナンの腕の中でゆっくり寝ていると――
『厳正なる審査の結果……カナン様は合格となりました。おめでとうございます』
【収納】する事なく机の上に置いていた学園都市への腕輪型通行証から、合格を告げる無機質な声が発せられた。
と同時に、そこから発せられた光が空中に文字を浮かび上がらせる。
「にゃ!? なになに?」
「びっくりしたわね……。こんな急にお知らせが来るなんて」
試験が終わって帰る直前、確かにこの腕輪みたいな通行証から通知が来るとは言われていた。が、まさかこんなハイテクな感じで来るとは……。
とりあえず、空中に映し出された文字を読んでみる。
――魔導戦闘学への編入は今日から半月後。
――制服の採寸と同伴者の登録のため、一週間以内にもう一度学園を訪れる事。
色々と書いてあったが、ざっくりこんな感じだ。
蛇足だが……今まで〝半月〟とか〝一月〟とか色々言ってたが、厳密には違う。
実はこの世界の〝一月〟は女神になぞらえて7つしかなく、それぞれ52日間ある。
オレの中であれこれ言ってる一月は30日間なままなので、オレの感覚では二月半は過ごしている。
が、この世界の数え方ではオレがカナンの中で目覚めてからまだ2ヶ月も経っていなかったりする。
ちなみに今日の日付は〝豊穣の月 45日〟だ。
豊穣の月は一年の真ん中の月で、地球でいう6月下旬~8月の上旬にあたる時期だ。だいたい夏休みが明けた時期に編入生を入れているって所かな。
閑話休題。
――という訳で、再び学園都市の〝魔導戦闘学〟の校舎へやってきたオレたち。
通知が来てから2日後の豊穣の月 47日だ。
「やだ、なんだかむずむずするわ」
「気のせい気のせい」
狭い個室で、カナンは体の採寸を受けていた。
身長を計り、メジャーで3サイズも記録され……。今の格好はパンツ以外に何も着ていないのである。
幸い、他にこの個室にいるのはオレくらいだが。
魔法の道具が自動で計測してくれるのだ。なんと便利な事だろうか。メジャーが勝手に浮かんで身体を計ったりするのである。凄いな。
「……終わったわね。あぁ、くすぐったかったわ」
「大変なんだな、オーダーメイドって」
「何他人事みたいに言ってるのよ、おーちゃんもやるのよ?」
「え?」
……うん。
やはり、こうなる定めなのか。
「あうぅ……」
下着以外ぜんぶひん剥かれて、むき出しの身体にメジャーが触手みたいに巻き付いてくる。うう、同人誌じゃないんだから……。
「これでお揃いの制服を着られるわね、おーちゃんっ!」
そう。
なんと、生徒の同伴者として学園へ通う人も、希望すれば制服を着られるのだという。
そして、希望制なはずなのにカナンの中ではもう確定事項である。
別にいいけどね!
そうして採寸が終わったら、今度は試着だ。
なんとこの制服、専属の仕立て屋さんの手にかかれば一瞬でできあがったのである。
沢山の糸と布の山がしゅるしゅると編み合わさってゆき、5分足らずで採寸通りの制服の完成である。魔法ってすげぇ……
しかもこれ、特殊な糸で編み込まれており、魔力を吸収すれば着用者の成長に合わせて大きさも変わるのだという。なんてこったい。
「どう、おーちゃん?」
蒼いチェック柄のプリーツスカートに、半袖の白いワイシャツ。首もとには蒼い龍の模様が描かれた黒いネクタイが垂れている。
爽やかな印象が、ただでさえ美少女なカナンをスタイリッシュに引き立てている。
「すごい、カッコかわいいよ主様!」
「ありがとうおーちゃん。じゃ、次はおーちゃんよ」
「へ、あう!?」
そして、オレも着る事となった。
年齢にしては高身長で大人びていたカナンとは違い、ちんちくりんな幼女のオレに似合うのか? と思っていたが、普通に似合ってるわ。
サスペンダーがついている事により、スカートがきれいにフィットする。
更に、シャツの背中にはオレの翼用のチャックつきの穴が開かれている。また、スカートの腰部分にも尻尾を出す用の袖口がついている。これはありがたいな。
ちなみにだが、カナンのものとは違い、大きなリボン型のネクタイで色は赤色だ。
色の違いは同伴者と生徒の区別をつけるためらしい。リボンなのは完全にカナンの趣味である。ネクタイの種類を選べるのだ。
「かあいい……」
「あの娘かわいいな……」
あぅ、うう……
周りを通りかかった人がみんなオレを見て可愛いって言ってくるんだけど。
そんなにかわいいのかと鏡を見てみると、確かにとんでもなく可愛い女の子がそこにいた。
サスペンダーが幼さを引立て、首もとの大きな赤いリボンが可憐さを際立たせる。
角も翼も尻尾も、なにもかもが可愛さを引き立てるアクセントだ。更に頬を赤らめて恥じらう表情が、とんでもない破壊力を放っていた……。
「こ、これが……オレ?」
「そう、おーちゃんは人を惑わすくらい可愛いのよっ」
男としての自信を失くすような発言なのに、なぜだかまんざらでもないオレがいる。もう、心まで女の子になってきちゃったんだな……。
頭を振るって変な実感を吹き飛ばす。
ここでは、制服に勝手に手を加える事は許されていないものの、それ以外に装飾品を身に付けたりするのは問題ないらしい。なんなら刺青までOKだってさ。すごいね。
「ちょっと待って、あそこの子可愛くない!?」
あうぅ、生徒たちからの注目を集めてしまっているようだ。通りがかりの女子生徒たちがきゃぴきゃぴしながらオレを見てくる。
「おーちゃんの可愛いさに気づくなんて、良い目をしてるわね」
なぜか誇らしげなカナン。
カナンだって、相当かわいいと思うけどな。
それにしても、元気に嬉しそうなカナンを見ていると、なぜだか胸の奥がきゅんとする。
「ふう、それじゃあ次は同伴者申請ね」
制服の試着も終えて、次の目的地へと移動する。
同伴者申請とは、校舎内でオレがカナンと一緒に過ごすために必要な申請だ。
同伴者は各生徒一人につき1名、連れる事が許されている。同伴者は生徒ではないが、一部の授業に共に参加できたりと生徒に準ずる立場であるという。
これを申請すれば、校内でもカナンと正式にイチャイチャできるって訳だ。
その申請を行っている受付へと向かっている時の事である。
「おや、カナンちゃん。合格おめでとうやで」
制服の上に黒い厚手のコートを纏った少女、ジョニーちゃんと廊下で再開した。試験の時はお世話になったな。
軽く挨拶を交わすと、ジョニーの視線はオレへと移った。
「ところでその可愛い子ちゃんはどうしたんや? 妹……じゃなさそうやな」
「あぁ、この子、おーちゃんは私の同伴者よ。この間の試験の時に私が出した影魔の魔人ね」
そう説明するカナンに、ジョニーは不思議そうな顔をする。
オレの存在が不思議、といった感じだ。
「ちょっと待て、キミが影魔の魔人やと? それはほんまか?」
「え、オレ? そうだけど、それがどうしたんだ?」
「……異例、や。この事はあんまり口外せーへん方がええで」
口外を控えた方がいいって、何やら不穏だ。オレの存在って、もしかしてすごく希少なのか?
「……まず、〝人化〟するにはな、魂の核である心を宿している事が必須条件なんや。
つまり召喚者の魂の一部を媒体に生み出す影魔にはな、心は存在し得ないんや。普通は手足が意思を持って動き出したりはしないやろ?」
普通の〝影魔〟には心が無い。心が無ければ人化できない。
なのに、どうしてかオレには心がある。こうして人化までできる。
確かに、ジョニーの言う通りなら不思議ではある。
「確かに不思議ね。これからこの事はここだけの秘密にするわ」
「それがええ。これから何か困った事があったらいつでも相談しに来るとええで」
ジョニーちゃんにお礼を言って別れ、オレたちは同伴者申請の受付へと向かった。
手続きはごく簡単なもので、書類を書いたり、手を機械にかざしてオレの魔力波長とやらを登録するだとかそんなくらいだった。
そして、申請はその場で通った。
「おーちゃん……これから一緒に制服を着られるのよっ! 楽しみね!」
むぎゅう。嬉しそうなカナンに抱きしめられて、ちょっと苦しい。でも悪い気はしない。
けれど、そうか。ジョニーが言ってた事が少し分かった気がする。
オレはカナンの一部でもあるんだ。魂同士が繋がっている。
だからカナンが嬉しいと、オレも一緒に嬉しくなる。オレが悲しいとカナンも悲しくなる。オレたちは、二人でひとつの存在なのかもしれないな。
人目も気にせずオレを抱きしめるカナンの感触に、胸が温かくなるのを感じていた。
色々と立て込んでいて更新が遅くなりました。申し訳ない。
次回はとうとう編入です。カナンちゃんは果たしてクラスメイトと馴染めるのか。
『面白かった!』
『更新遅いぞコラ』
『おーちゃんカワイイ』
『エタるんじゃねえぞ……』
等と思っていただけたら、ページ下部の星ボタンを押したりTwitterやLINEのようなSNSで拡散していただけると助かりますし世界が幸せになります。うぃーあーざおーちゃん




