第114話 用心棒って大事だよね
3連投稿!!
3連といえば、ソラつっよ。3連コンボえぐい
「わー! おきゃくさんだー!!」
重苦しい空気に包まれていた茶室の引き戸を開けたのは、オレよりも更に幼い蒼髪の少女だった。
「あー、こらこら。パパお客さんとお話し中だからねー?」
「……パパぁ!?」
イルマのおっさん、子供いたのかよ!?
いやでも前に妻がいるとか言ってたような。
「こらイレナ! 勝手に入っていっちゃダメでしょ!!」
「ね、姉さん!?」
蒼髪の少女を追って茶室に入ってきたのは、ロングスカートにエプロンを身につけた赤い髪の女の人だった。
というかその角と翼と尻尾からして、ドレナスさんのお姉さんだという事は言われなくても分かった。
「え、ドレちゃん!? どうしてここに!? まあいいわ、久しぶりーーっ!!!」
「うわっ!? ひ、久しぶり……!」
彼女はドレナスさんを見るや否や、がばっと飛びかかるように抱きついた。
「ママー、そのひとだあれ?」
「ママのね、大事な大事な妹よ。ずうっと会いたかった……」
「姉さん……」
感動の再会か。なんだかんだでカナンのきまぐれは、正解だったのかもな。
というか、今この子ママって言わなかったか?
「あー……。改めて紹介しよう。この子は俺の娘のイレナた……イレナちゃんだ。そしてこっちはもう分かってるだろうが、妻のドレアだ。ドレナスの姉貴でもある」
「なるほどね……」
わー、修羅場と紙一重ー。
「良かったドレちゃんっ……さてドレちゃん! なんであの時あんなに意地っ張りな事したのか言いなさい!」
「うぐ、あれはあの時ワタシのプライドが許さなかったというか……」
「もう! けど、こうやって会いに来てくれたって事は、ちゃんと反省したのね? そこは偉いわ」
わー、ドレナスさんが下手に出てる。
ドレアさんだっけ。ドレナスほど力は強くはないけど、口がとても強い。
「それで二人とも。その子たちとはどういう関係?」
「え、まさか俺も叱られるパターンか……? この子たち、カナンちゃんらはドレナスをボコして連れてきてくれたんだ」
「カナンはワタシの主だ! ワタシはこの子の力になると誓ったのだ!!」
「ふーん? あなたドレちゃんよりも強いのねぇ? それで、ドレちゃんを従えてるのは本当?」
オレとカナンの顔を交互にじっと見つめてくるドレアさん。
ドレナスさんより優しそうでいて、怒らせたらとても怖そうだな……。
「勝手に配下を名乗っているだけよ。いずれはなってもいいけれど、今はもう少し考えさせてほしいわ」
「な、そんな……!?」
「ごめんねドレナちゃん、いきなりはさすがに困るのよ。まずは友達から、ね?」
「……だ、そうよ?」
「わ、我が主ーーーっ!!!!」
「この子はわたしがしっかり教育しておきます。一月くらいしたら引き取りに来てね」
……という訳で、ドレナスさんは泣きながらドレアさんに強引に連行されていってしまった。
もはや犬か何かなんじゃないかという扱いだが、オレは主様との時間が削られずに済んで内心ほっとしている。
「じゃあ私たちはお暇してもいいのよね?」
「あぁ。またいつでも来ていいぞ。次に来たときは、俺たちの娘と遊んでやってくれ」
「ふふふ、わかったわ」
そうしてオレたちは、ドレナスさんを置いて城を去るのであった。
なんだかオレあまり喋ってない気がするが、主様の側にいることが仕事なので問題ナシ。
*
3人で行って2人でギルドに戻ってきた。
霊峰と街は往復に三時間近くかかるんだよな……。昨日は夜遅くまで戦ってたし、魔力量も動けるくらいには回復したけどまだ3割弱だ。
はやく宿に帰っておふとん入りたい……。
「――はい、こちらが依頼達成の報酬となります。大金なのでお気をつけて」
「ありがと」
確かな重みのある小箱を受け取るカナン。
その中には、500万ゴルドという現金が入っている。
今のオレたちからすればあまり使いどころが無いが、かなりの大金だ。その辺の冒険者の年収の倍近くはある。
受付嬢さんもあまり目立たないよう小声でそっと手渡してくれた。
中には1枚で十万ゴルドの価値がある大金貨が10枚1セットで5列並べてある。
「おーちゃん、収納おねがい」
「はいよ」
そっと手渡された小箱を即収納に納める。お金は全部オレの収納の中に入れると決めているのだ。ポケットにお金を入れててひったくりに遭っても困るしね。
ちなみにだが、リナエリとクラッドさんは先に同額の報酬を受け取っていたらしい。会えると思ってたんだが、一足遅かったな。
ひとまず、今日の用事はこれで済んだので、オレたちはギルドを出て久しぶりに宿へ帰る方向に歩きだした。
まだ足に力が入らなかったりするし、かなり体に疲れが溜まっている。はやく温泉入りたい……。
……しかし、今日はもうひと波乱ありそうだ。
それは人気の少ない薄暗い道に差し掛かった時のこと。
「おーちゃん、私から離れないで」
「……ああ」
さっきから、少し後ろを何者かが付いて来ている。人数は3人くらいか。
最初はただ単に行く道が同じだけかと思った。が、こちらが歩く速度を落とすと向こうもそれに合わせるし、速めると速くなる。
「おーちゃん、あいつらを誘い込むわ」
「……うん」
オレの手をきゅっと掴んで、カナンは暗い道から逸れた所にある、鬱蒼とした林の中に走り出した。
するとヤツらも走って追いかけてくる。
明らかにこちらを狙っているな。
「はは、わざわざ人気の無い場所までありがとなぁ?」
それは、柄の悪そうな人間の青年だった。着ている服は所々破けているが、不潔さは無い。おそらくそういうファッションだろう。しかしお洒落とは思えないな。
いわゆる、チンピラと呼ばれる人種だった。
「……コイツがSランク冒険者? ただのガキじゃねえか」
「いーや、情報通りだ。金髪のガキと黒髪の魔人のガキ。間違いねえぜ」
「……私たちに何の用? 早く帰りたいんだけど」
「ふっふっふ……お嬢ちゃん、早く帰りたかったら出しな。ギルドでもらった、報酬の金を」
なるほど、カツアゲか。平和なこの国でもあるんだな。
ふむふむ、全部で3人。全員とも第二域か、冒険者ではなさそうだ。
「嫌よ。なんで初対面のあんたらに渡さないといけないのよ?」
「おおそうか? じゃ、これを見ろ。ふっふっふ、痛い目には遭いたくないよなぁ?」
3人の内のリーダー格とおぼしき奴が懐から取り出し向けてきたのは、やや刃の長いナイフだった。
……いやまさか、そんなものでオレたちを脅そうとしてるのか? いやいや、さすがに他に何かあるだろ。
「さっさと出しやがれ、金なんてガキなんかが持ってても持ち腐れなんだよ」
あー、うん。ナイフだけっぽいわ。
他の2人にいたっては拳をポキポキ鳴らしてるし丸腰だ。
オレらが子供だから言うことを聞くだろうと。
さすがに馬鹿過ぎる……
「……ねえ。それを私に向けるって事は、相応の〝覚悟〟があるって意味よね?」
「はぁ? 何言ってんだ? 意味わかんねーよ」
「分かりやすく警告してあげるわ。今すぐ私たちの前から消えなければ、命の保証は無いわ」
えぇ、殺すのはさすがにまずくないか?
殺しちゃったら死体の処理とかしないとだし、色々面倒だ。
……ん? 心配するのそこか? まあいいや。
「主様、いくらなんでも殺しちゃうのは可哀想だと思うな」
「んー、しょうがないわね。おーちゃんに免じて半殺しに留めといてあげるわよ」
という話を聞いたチンピラたちの中から、ぶちっという音が聞こえた気がした。
「ガキだから優しくしてやってりゃ調子に乗りやがって。何だその口は? どうやら少し痛い目見ねえとわかんねーみたいだなっ!」
するとチンピラどものリーダーは、そのナイフを使う事なく反対側の拳を振り上げた。
「……馬鹿ね」
「……あ? うわああああっ!?」
カナンは迫り来る拳の手首を捕まえると、ぐいっと引っ張って軽々投げ飛ばした。
「な……な、なにしやがった!?」
何が起こったのかわからず、想定外の事態に半ばパニックになりながらチンピラの一人はカナンの胸ぐらを掴んできた。
「触んないでよ、キモいわ」
「ごるしっ!?」
すかさずカナンはその手を振り払い、そいつの股間を思い切り蹴りあげた。
そいつが怯んだその隙に、今度は顔面に拳を叩き込む。
どうやら失神させる程度に加減していたようだ。じゃなきゃスイカ割りになってただろうからな。
「ぜ、絶対許さねえ……!! 犯して痛め付けて跪かせて、魔人の方は奴隷商に突き出してやる!!!」
「……あ?」
最初に投げ飛ばされた方のチンピラが起き上がり、青筋を立てながらこっちに迫ってくる。
「あ、あいつヤバいっすよギドさん!」
「うるせぇ!! ガキに嘗められたまんまでいられるか!! ぶち犯してやる!!」
すると、その手に持つナイフが蒼く光り、何やら青白い結晶のようなもので包まれる……。
「へへ……どうだ驚いたか! こいつはただのナイフじゃねぇ、魔剣なんだよォ!!」
「へぇ。……で?」
「チッ、つくづく気に食わねぇガキだ! 土下座して謝れば奴隷商には引き渡さないでおいてやるぜ?」
あのナイフ、魔剣なのか。
が、どうやら質はそこまでじゃないようだ。
魔剣――。魔鋼やアダマンタイト等の特殊な魔法金属を鍛えて作る剣の事だ。使用者の魔力出力や身体能力を強化したり、剣そのものに能力を持たせる事もあるという一味変わった武器なのだ。
魔剣が魔剣たりうるには、魔石を核にする必要がある。
――と、以前メルトさんから教わった。
ちなみにカナンが持っている刀〝紅影〟も純魔鋼製の魔剣ではあるが、魔石はあえて入れていない。魔力をそもそも持たないカナンには、無用の長物なのだ。
閑話休題。
あいつが持っているナイフ、調べてみると確かに魔剣のようだ。しかし刀身の魔鋼は純度が低く、恐らく核に使われている魔石もせいぜいDランクモンスター程度のものだろう。
「主様。一応聞くが、手助けはいるか?」
「あんな玩具ごときに手助けは必用ないわ。けど、心配してくれてありがとね」
軽く頭を撫でられてちょっと嬉しい……。
一方のチンピラのリーダーはというと、それはもうブチギレていた。
「ゼッテェ殺す!!!! 食らええ!!!!」
奇声をあげながらナイフを振ると、びゅっと音をたてて三日月状の氷の刃が発射された。
オレが使ってる氷刃の威力を劣化させたような技だな。
カナンは一応それを横に避けて様子を見る。
「はは、どうだっ! 怖いだろ! 跪いて俺たちの言いなりになるなら、まだ許してやってもいいぜ!」
「ぎ、ギドさんさすがに……」
「うるせぇ!! てめえも刻んでやろうか!!?」
「ひっ、すいやせん!!」
本人の力は全く大したことないのに、あのナイフの力だけで周りに威張り散らしているようだ。
「で、それだけかしら?」
「あ゛ぁ゛!? どうやら本当に死にてえようだな!!」
そしてギドとやらいうチンピラは、ナイフを何度も振り回しながらカナンに襲いかかってきた。
いくつもの氷の刃が迫り、端から見れば絶体絶命……だが、そもそもカナンは避ける必要すらないのである。
「……は?」
カナンは、氷の刃をぱしっと片手で受け止めて見せた。
その光景に状況が理解できず、動きがとまるチンピラども。
「さっさと帰りたいから、終わらせるわね」
「は? ナイフがっ!? ひ、ひぃっバケモ――」
ぐしゃっ。
迫り来る氷を全て切り刻み、ナイフはへし折り、【威圧】を軽く発動させながらチンピラのリーダーの顔面に蹴りをぶつけた。
「ひ、ひいいぃぃ!? 命だけは……命だけはぁっ!!!」
最後に残った気弱そうなチンピラは、既に股間から温かいものを垂れ流し泣きじゃくっていた。
さすがのカナンもそれを痛め付ける趣味は無いので、至近距離から【威圧】をぶつけて意識を奪う程度に留めるのであった。
「ふう、宿に戻ったら久しぶりの温泉よ。あ、そのナイフ回収しといてくれる?」
「ん? ああ」
オレは地面に落ちた砕けたナイフを【次元収納】に取り込んだ。
しかし、まさかカナンにカツアゲしてくるヤツがいるとはな。やっぱドレナスさんを用心棒として側に置いといた方がいいのだろうか。
けどなぁ、うーん……
ま、いいや。
今はそれより主様と久しぶりにおんせん入りたくて仕方がない。
わくわく……!
次こそは……次こそはイチャイチャさせるっっ!!(固いケツイ)




