第105話 おーちゃんはココも弱い
イチャイチャえちえち性癖展開だけにするのも何なんで重大情報をそれとなく仕込む変態
あれからテントの中でくつろぐまで色々と忙しかった。
ワイバーンの死骸を回収して回ったり、後は多重結界を張り直したりおひるごはんを食べたり。
そうして今、ラフな格好に着替えてようやくくつろぎ始めた所だ。
「はふぅ……」
「やっぱりおーちゃんを撫でてる時が一番落ち着く……」
そしていつも通りのぎゅーっからのなでなで。
力では絶対に敵わないので、こうされている間は無抵抗に限るのだ。そもそも嫌じゃないけど。
「ところで、捕まえた魂はまだ食べないのか?」
「あらそうね、おーちゃんが可愛い過ぎて忘れてたわ」
「あぅ……そうなのか」
カナンの背中から伸びる黒い鎖が、空中で無数の珠を捕まえている。
これは【魂喰】の効果で、食べるまでストックされている魂たちだ。
カナンはその中から魂をひとつ指でつまんで取り出すと、舌の上に乗せて飴玉みたいに転がす。やがて飽きたのか、ころころ転がし喉奥へごくりと落として飲み込んだ。
……そんな所を、なぜか口を開けたままオレに見せてきた。一体何がしたいのか……。
なんかちょっとエロいと思ったのは口には出さない。
「ごくっ……おーちゃんも食べる?」
「うぇ、オレはいいや……」
美味そうに食べてるもんだから、見ててちょっとお腹が空く。しかし食べたいとは思わないな。踊り食いはあんまり気が乗らないし……。そもそも食べられるのか知らないしな。
それに、久しぶりにまともに戦って少し疲れた。ちょっとだけお昼寝でもしたい気分だな。
「じゃあ、食べ終わるまで膝枕してあげるわ!」
「はぇ? どうして?」
「嫌だったかしら?」
「べ、別に嫌じゃないけど……」
ニヨニヨしながら太ももの上をポンポン叩いて誘ってくる。
うう、寝る時に密着で抱き締められてるくらいなんだから、膝枕ごとき今さらどうという事もない。
「あうぅ……これでいいんだろ?」
「ふふ、なんだか子犬みたいね」
正座したカナンの膝の上に、あお向けに頭を乗せた。横向きだと角が邪魔だからな。
しかしカナンの太ももって意外と柔らかいんだな……。
なんだか、落ち着く……
「ちょっと、寝る。食べ終わったら起こして……」
「わかったわ。よしよし……」
上から優しくなでなでされて、オレの意識は微睡みに吸い込まれていったのであった。
*
『ん……』
ここは……。
オレが立つ場所は、色とりどりのガラス貼りの壁が囲む円柱形の足場。
ガラス貼りの壁は全てが八柱の天使を象ったステンドグラスとなっている。
久しぶりに来た気がするぞ、アスターのいるステンドグラスの塔だ。
前に来た時はなぜかアスターがいなかったけど――
「よっす、なのだ!」
『お、久しぶりだなアスター』
純白の肌と髪に、透き通るような白のワンピースを纏った少女が、椅子に座った形で現れる。
「またアクセスを妨害されてしまってなー、こっちに干渉するのに手間取ってたのだ」
アクセス……。前にもそういう言い方をしていた事がある。
そこでふと、ひとつの仮説がオレの中で生まれた。
「……アクセスって言い方、もしかしてこの世界ってマト〇ックス的な仮想空間だったりするのか?」
「はぁ? 映画の見すぎなのだ。
わたしが言うアクセスっていうのは、情報体のわたしがキミの意識に干渉する事なのだ。訳あって肉体ごとは来れないのだ。また記憶からプリンよこせなのだ」
お、おう。
ふざけて言っただけなのに真面目な顔で怒られちゃったぞ。
とはいえ幼女に凄まれてもそんなに怖くはないし、今はまたどこからかプリンアラモードを取り出して頬張っているが。
「もぐもぐ……久しぶりの甘味、サイコーなのだ!」
使いこなす以前までは【魂喰】の能力の補助をしてくれていたアスターだが、もしかして今回干渉してきたのはプリン食べたいが為か?
「てかアスターに肉体ってあったんだな。普段は何してるんだ?」
「もぐっ、んぐっ!? げほげほごっほごほ」
情報体とやらも喉を詰まらせるのか……。
アスターは呼吸を頑張って落ち着かせると、急に真面目な風を装って話し始めた。……色々もう遅いけどな。
「……何もできないのだ。わたしの肉体もなにもかも、もうほとんど死んでいるのだ。
朝も昼も無い真っ暗な場所で、ただひたすらに守り続けているだけなのだ」
「……守ってるって? 何を?」
「〝螟ァ縺�↑繧句ー∝魂〟……を」
聞き取れなかった……訳ではない。かと言って、アスターが支離滅裂な事を言った訳でもない。
〝認識〟できなかったのだ。その言葉を、言葉らしきものを。
「え、今なんて……?」
「あぁ、やっぱりダメなのだ。直接話そうとすると認識障害が起きてしまうのだ。けど、キミとカナンちゃんの存在がもっと強くなれば……。あの子――明星の女神でさえ成せなかった事を、いずれは――」
そう話すアスターの顔が、一瞬悲しげに曇る。
「待っ――」
オレは何かを言おうとしたものの、そこで意識が途切れてしまったのであった。
*
「おーちゃん……おきておーちゃん」
「にゃむ……あぅ?」
瞳を開けると、すぐ上から覗き込んでくるカナンの微笑む顔が現れた。
朝……じゃないな。カナンの膝枕の上で、少しお昼寝をしてたんだった。時間は40分くらい経ってるくらいかな。
「おはよ、おーちゃん」
「ん……おはよう主様。食べ終わったのか?」
「うん、食べきるまで思ったより時間がかかっちゃったけどね」
捕縛していたワイバーンの魂を全部平らげたようだ。
そしたら上からまたなでなで。最近カナンのスキンシップが更に過剰になってきている気がする。
「んー……なあに主様?」
「ふふふ、ぎゅってさせて?」
むぎゅう。背面から被さるようにぎゅーっと抱き締められた。
起きたらさっそくこれかよ。まあ……嫌じゃないけどな?
それはそうとして
「あぅ……あぁ、そうだ主様。また夢の中にアスターが出てきたんだ」
「アスちゃんが? 久しぶりね、どんな調子だったのかしら?」
「相変わらずプリン食ってたな。ただ今回は、意味深な事を伝えてきたんだ」
〝オレとカナンにしかできない事〟とやらを、共有しておくべきだと思ったのだ。
「明星の女神でさえ成せなかった事を、オレたちならできるって。具体的に何とは教えてくれなかったよ。……いや、言えなかったんだな」
「女神様を差し置いて私とおーちゃんにしかできない事……。わからない事だらけね。それにしてもその口ぶり、アスちゃんは明星の女神様と関わりがあるみたいね?」
「あぁ。つまりアスターが積極的に関わってくるオレや主様も、何か関連があるのかもしれないな」
そもそも、オレの前世がよくわからないのだ。
地球という世界に〝アマギ オウカ〟という名前で生きていた。ただそれだけしかわからず、それ以上の記憶は無い。
もしかすると、そこに何かがあるのかもしれないな。
「いつか私もアスちゃんに会ってみたいわね」
なぜアスターはカナンに会えないのか。そこがよくわからないが、多分オレの方がアクセスしやすいのかも。
これ以上は考えても答えの出る問題じゃなさそうだ。
それから時間は過ぎ――
夕方まではカナンのお勉強に付き合った。この世界の歴史や計算だとか、色々な事を知らない文字の教科書を読むカナンに、オレは文字の読み方を少しずつ教わっていた。
夕方頃には夜ごはんのカレーを作るため、大きな釜に具材とあらかじめストックしていたルーを投げ込む。
そこに、今回はワイバーンのお肉を入れてみた。
食べた感じ、ワイバーンの肉の食感も相まってチキンカレーっぽい味わいだったな。
反応はかなり好評だった。
その後は少し談笑し、みんなそれぞれのテントへ帰ってゆく。
クラッドさんに一人で寂しくはないかと聞くと、奥さんの能力でいつでも会話ができるから寂しくは無いらしい。
リナエリは……。うん。
体格の良いエリナさんに小柄なリナリアさんがぴったり抱きついて、耳元で甘い声で囁く様子を目撃してしまった。
その後、頬をピンクに染めてぼんやりしたエリナさんを、妖しく笑うリナリアさんが手を引いてテントに連れ込んでいた。
……うん。エリナさんなら【防音】の術式使えるし、まあ大丈夫だろ。
「さて……。書き直したぞ主様」
「はへぇー……と。ありがと、おーちゃん」
オレは今、カナンの舌先の魔方陣を書き直した所だ。
今日の戦いで広域雷魔撃という強力な術式を発動させ、昨日書いたぶんはもう滲んでほぼ消えていたのだ。
「……それじゃあ今度は、私たちもお楽しみの時間よ♡」
するとカナンは口を閉じると共に、おもむろにオレの頬に両手を添えて――
「ふーっ……」
「はにゃんっ!?」
にゃっ、耳がぁっ!?
おみみにふぅっと、温かくてしっとりした、主様の吐息が……!
「ふふ……やっぱりおーちゃんはお耳が弱いのね?」
「はふぅ……あうぅ……」
軽く息をかけられただけなのに、なんでこんなにぃ……。なんで、なんで……
確かお昼くらいに、寝る前になったらオレのおみみをはむはむしたいとか言ってたような……
既にひくひくしてまともに動けないオレへ、主様は更に追い討ちをかける。
「はむっ」
「あぅっ……うぅ……?!」
オレのみみの付け根のかたいトコロを、生暖かくて柔らかくてじっとりとしたものがやさしくなぞってきて……何度も、なんども、その口でお耳を優しく容赦なく攻めてくる……。
ぞくぞくってしていて、それでいて、それでいて、きもちよくて……
「はふぅ……はふぅ……あぅ?」
ふと、なぜだかおみみからカナンの口が離れていってしまった。
気がつくと床に押し倒された体勢になっていて、真上からカナンが無言で微笑みながら見下げてくる。
「あぅ……な、なあに? あぅ、主様……」
「ふふ……」
少し口角を上げるだけで、カナンは何もしてこない。
なにも、してくれない。
いいや、何をするべきなのか、なにをしてほしいかわかってる。
蕩けたオレの頭の中に、選択肢なんてなくて――
「お、お、おねがい主様……もっと、もっとやって……」
「ふふふ、おーちゃんはおねだり上手ね♡」
主様の口が再びオレの顔の横へと近づいたら、そこからは、もう。
その後オレがどうなっちゃったのかは、よく覚えていない。
ほんとはガッツリえっち寸前くらいのきわどい事をさせてたけど、さすがに規約が怖いので耳だけが犠牲になりました。
それでも問題がありそうなら修正しますんで許してちょ。
そのうちノクターンで書くかも。




