第104話 ワイバーンの発生源
二日連続投稿じゃオラァ!!
「……ガ?」
途端に自身の体を覆う氷が解け、キョロキョロ見渡し困惑するワイバーン。
それをオレとカナンは離れた所の木陰から覗いていた。
「こう見ると、巨大なドラゴンでもなんだか可愛げがあるな」
「そうね、けれどおーちゃんの方がずっと可愛いわよ」
「うぬぬ……」
そんな真顔で大真面目にオレを可愛いと言ってくれると困るわ。嫌じゃないけど。
……おっと、そうこうしてたらワイバーンに動きが。
「飛び立ったわね。おーちゃんの新しい能力の検証がてら、追跡するわよ」
「おう」
何となく空中散歩とか楽しそうだなって思ってたら獲得しちゃった新能力、【浮遊】。
翼を軸に、オレとオレに触れている対象に浮力を授ける能力……らしい。
オレ以外のものが浮かぶには、オレが触れ続ける必用がある。なので、今回はカナンに背負ってもらうつもりだ。
ちなみにもしも飛行速度が遅かったら、普段通り部分召喚でいくだけだし。
「ん……ふんっ!」
背中に力を込めてみると、ゴスロリメイド服の隙間からばさりと黒い翼が広がった。
普段は手のひらよりも小さくコンパクトになっていた翼が、今や大鷲の翼よりも大きく広がっている。
オレは今では長く伸びた黒い尻尾も隠さずに出してるし、第三者から見たら悪魔っ娘っぽい見た目してるんじゃないかな。
そういえばこのゴスロリメイド服、カナンの服と同様こうして翼を生やす事を前提にした構造をしてたらしい。破れないのはありがたい。初めての発見だな。
「さ、私の背中に乗って」
オレは前傾姿勢のカナンの背中にまたがると、肩に腕を回して(カナンが)落ちないようにしっかり掴まった。
そして、翼に【浮遊】を込めて飛び立った。
「おぉ……!」
「凄いわおーちゃん!」
翼をはためかせる度に、ふわりふわりと高度が上がってゆく。
羽ばたかずに広げれば、それなりの速さでの滑空もできるみたいだ。
部分召喚時よりは劣るものの、ワイバーンの追跡には十分な速度だ。
それに加えてカナンの【空中跳躍】も加われば、強い慣性が加わってかなりの速度が出る。
「この依頼が終わったら、空中でこの前の続きでもしたいわね。ね? おーちゃん!」
「うぇ、あぅ!?」
「うふふ、嫌だったかしら?」
「うぅ……嫌じゃないけど……」
「なら決まりね! さっさと親玉をぶっ飛ばしましょ!」
いっつも悶々としてるなオレ。
未だに慣れないぜ、この気持ちは。
オレとカナンは、悟られないようワイバーンと一定の距離を保ちつつその後を追うのであった。
それから20分くらいした頃だろうか。岩山をいくつか越え、その中でも一際切り立って高い崖が見えてきた。するとワイバーンは高度と速度を落としながら崖へ近づいてゆく。
「あそこに何かあるわね」
「ああ、ありゃ洞穴……か?」
切り立った崖の中腹に、ワイバーンの身体がいくつも入れそうな大きな穴がぽっかりと口を開けていた。
一見ただの大きな洞窟か横穴に見えるのだが、それにしては何か不自然な雰囲気を感じる。
するとワイバーンは、飛びながらゆっくりとその穴の中へ入っていったではないか。
どうやら、あそこが飛竜どもの巣で間違いないようだ。
「……あら?」
「どうした?」
急に驚いた様子のカナン。
「変ね……私の【広域探知】から反応が消えたわ」
「なんだって?」
カナンの探知範囲は最大で直径10kmに及ぶ。
そこから急にワイバーンの反応が消えたとなると、対象が絶命したか、あの洞穴に探知の効果を遮る何かがあるか。
「とりあえずあの洞穴の中を覗いてみましょ?」
「だな」
オレたちも洞穴の入り口に着地して、恐る恐る中を覗きこんでみる。
パッと見ただの洞窟のようなんだが、奥の方からかなり濃い魔力を感じるな。
周囲に敵はいない。
警戒しつつ、足元に散らばる動物の骨を踏みながら更に奥に入ってみる。
うぇっ、虫とかすごいいるな。さすが洞窟だ。
「ひうっ!?」
「おーちゃん!?」
「だ、大丈夫……。首に水滴が……」
いやごめん。ほんとにびっくりした……
そんなこんなでそこそこ進んだ辺りで、辺りの様子に変化があった。
「分かれ道ね。それに壁が赤くなってきたわ」
「あぁな。あと、ここでの魔力の流れかたが変だ」
「ふうん、変って?」
ここに来てから感じていた違和感と既視感。それの正体は、【魔性の瞳】で視たらわかった。
ここ、魔力が満ちているどころか、壁や床の中を枝や根のようにびっしり張り巡っているのだ。それはまるで、生き物の体内のように。
「……体内って、実際に見た事あるの?」
「あるよ。主様のお腹の中でな……」
「あら、そうだったわね」
ぺろりと舌を出しながらお腹を擦るカナン。
縮められてカナンに飲み込まれた時、内臓の向こうに魔力を運ぶ静脈が透けて見えた事を思い出したのだ。
見えかたとしては、この洞穴の壁の状態とかなり近い。
「とはいえ壁も普通に岩だしな。ほんとに生き物って訳じゃ……。となると――」
既視感はなにもカナンの体内だけではない。
溢れるほどの魔力があり、かつ大量の魔物が発生する。
「主様。【広域探知】で洞穴の外の事はわかるか?」
「分からないわ。壁に遮られていても普通は認識できるハズなのにね。これじゃまるで――」
まるで、空間ごと外部と隔絶されているように。
そもそもだ、あの岩山はそこそこ高かったが幅はそこまでない。なのにこの洞穴は、結構な距離を進んでもまだ奥がある。
「……なるほどね。おーちゃんが何を考えているのか解ったわ」
薄々脳裏に浮かんでいた仮説を、いくつもの要素同士が繋がり確信へと変えてゆく。
「そう、ここはたぶん……〝迷宮〟だ」
*
「迷宮だってぇ?!」
そう驚き叫ぶのは、いくらか顔色の良くなったエリナさんだ。
拠点へと戻って諸々を三人に報告したら、それは驚かれた。オレだってびっくりだ。
「聞いたぶんには野良の迷宮みたいだけれどぉ?」
野良? なにそれ?
「そうね。私も大迷宮以外には入ったことないけど、何か違う感じがしたわ」
「えーっと、野良って……」
「大迷宮でないぶん階層は浅いだろう。が、襲撃に来たようなSランク並の魔物が闊歩していると見た方が良いだろう」
もしかして迷宮って種類があるのか? いやまあ大迷宮があるなら大きくない迷宮もあるんだろうけどさ。
「なあなあ、普通の迷宮と大迷宮の違いって、何だ?」
「あらら、そういえばおーちゃんは知らないはずよね。教えてあげる。
まず、この前入った大迷宮は文字通り巨大な迷宮ね。その果ては未だ誰もたどり着いた事は無いらしいわ」
「果て? あぁ、オレたちが壊した核は確か中間地点みたいなやつなんだっけ」
「そうね。あれの先にも大迷宮は広がっていたはずよ。それで、普通の迷宮は大迷宮よりもずうっと小さいものよ。小さくて半日もあれば踏破できるくらいのね」
「なるほどなるほど。しかしずいぶん詳しいんだな?」
「本でいっぱい読んだのよ。帰ったらおーちゃんにも何か読み聞かせてあげるわ。
……ここからは蛇足よ。一説には大迷宮は次元の歪みや亀裂が形になったもので、普通の迷宮は〝そういう形態の魔物〟らしいわ。形は似てるけど別物って事ね」
魔物?!
つまりオレらは魔物の体内に攻め入るってことになるのか……。
「なるほどな、また体内か……」
「〝また〟って、オーエンちゃん入ったことあるのか?」
「んー、まあ前に主様の中にな……」
どんだけあの一件を引きずらなきゃならんのか。もう一回縮んだりしたらカナンはまたオレを食べようとしてきそうだな。消化耐性とか窒息耐性とかあるし……
閑話休題。
「普通の迷宮とはいえ、私とおーちゃんだけで攻める……って訳にもいかないわね。どれだけ敵がいるかも分からないし、私たちは持久戦には向いてないもの」
魔力の問題である。オレの魔法による攻撃は連発すればいずれは魔力が枯渇してしまうし、そうなれば部分召喚すら出せない。
襲撃に来た奴らの力量を見るに、温存しながら戦えるほど容易とは思えないしな。
カナン単体でもかなり戦えはするが、最上位飛竜みたいのが10体も束になってかかってこられたらさすがにキツイ。
「私がギルドに応援を要請してみよう。とはいえ直近のSランクを2人も送ったのだから、これ以上はあまり期待できないが……」
「ありがとうねクラッドさん。ま、その時はここにいる皆で攻略するしかなさそうだね」
もう一人のSランク冒険者というオイカワ……。あのクソ野郎はムカつくが、せめて協力関係でいたら迷宮攻略が楽になるかもしれない。
と考えていると、ふいにあのロゲリスとかいうお付きのロリコン大男を思い出した。
……うぅ、無理だな。論外だ。
「では、皆も疲れているだろう。今日の所は休んで、迷宮攻略は明日以降にしよう」
「そうさせてもらうよ……。はぁ、今日は既にだいぶ疲れた……」
切り株に腰かけるエリナさんはだらんと脱力して、木のテーブルの上に突っ伏した。
リナリアさんも喉にけっこうなダメージを受けてるし、クラッドさんは魔力切れだ。回復するのにそれなりの時間がかかりそうだ。
そうして各々、解散して各自のテントで休むのであった。
「それじゃ、またキャンプの続きね」
「だなぁ」
一気に緊張がとけて、そんなに疲れてはいないのになんだかオレも脱力感がすごい。
そんなオレを、カナンが後ろから抱きしめてくる。うん、いつもの調子で安心だ。
そう、いつもの調子。
この日の晩、まさかあんなことやこんなことをされるとは思ってもいなかったのであった……。
次回はおみみはみはみ回の予定。着実におーちゃんを雌化させてゆく。
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おーちゃんカワイイ(発作)




