第103話 襲撃を終えて
感想が百件いってました。ありがたい。
爆炎がワイバーンの頸の中で迸り、その巨大な頭部を勢いよく消し飛ばした。
「やった……!」
強敵に勝利した喜びも束の間。
頭を失った最上位飛竜の巨大な胴体が、あたしの上へ倒れ込んでくる!
「ヤバいヤバいヤバい!!」
あたしは急いで剣を首から引き抜いて、全力で駆け出した。
……と、危うく潰されそうになったものの何とかギリギリ脱出できたので、誰が何と言おうと完全勝利! なーんか締まらないけどね。
「ふぅ、カナンちゃん達の加勢に向かいたいけど……」
勝利はしたけどまだまだやる事は残っている。
ここでヘバる訳にはいかない、のに……。
「けほっ、エリナ……」
「ごめん、しばらくこうさせてくれ……」
辛うじてリナリアの元にたどり着くと、胸の中で崩れるように膝をついてしまった。
くっ、無茶をしたせいか体に力が入らない。あたしの魔力ももう底を尽いてるし、リナリアだって格上に歌唱魔法を何度も使った負荷を受けているハズだ。
「美しい戦いだったが、私も力を使い果たしてしまったようだ……」
一番ダメージを食らっていないクラッドさんだって顔色が悪い。魔力残量はあと僅かみたいだしね。
改めて、今まで戦った中で最強の敵だった事を認識させてくる……。
これじゃあ加勢に行くどころじゃなさそうだ……
「エリナ。加勢なんて、必要ないのかもよぅ?」
「え?」
リナリアに言われて結界の外に視線を向けたその瞬間、あたしは信じがたいものを見た。
大空を真っ赤な閃光が覆い尽くす、この世の終わりかと思わせる光景を。
あまりの眩しさに瞼を閉じ、やがて視界が戻ったのは数秒後のこと。
そこでは、それまで蚊柱のように飛び回っていたワイバーンどもの姿が、消えてしまっていたのだった……
「はは……馬鹿げてるよ……」
今の術式はまさか、人間が発動させるには千人の魔術師が数時間詠唱をしなきゃならないっていう、広域雷魔撃?
あり得ない。けど、そうとしか思えない程の大魔法だった。
それを、オーエンちゃんの魔力を使ったとはいえ、一人で発動させるなんて……。カナンちゃんって本当は魔王か何かなんじゃ……
そういえば、かの『黒死姫』は紅い雷の大魔法を連発して狂信国を滅ぼしたと聞いた。そしてその後の黒死姫の消息は不明だっていう。
まさか……ね。
なんにせよ、カナンちゃんたちが敵じゃなくて良かった。あたしは、心底そう思うのであった。
*
「終わったわね。お疲れ様」
「おつかれ主様」
目の前には、四肢と翼とマズルを氷漬けにされたワイバーンの姿があった。
ワイバーンは金色の眼球でぎろりとこちらを睨みつけるが、氷に阻まれてそれ以上の動きはできていない。
襲撃してきたワイバーンの群れを殲滅し、最後に残ったコイツをオレの氷結魔法で今しがた拘束した所である。
コイツには【魔力順応】という能力があり、魔法で拘束するのは少し手こずるかと思ったが別段支障は無かった。
体表に魔力を受け流す特殊な結界を纏い、術式オンリーのような干渉力の弱い魔法なら完全無効化できるという能力らしい。瞬間的に干渉力を高める事で、より上位の魔法のダメージも軽減できるとか。
オレやカナンの発動した魔法とは干渉力に差がありすぎて、意味が無かったようだ。
しかし、エリナリアやクラッドさんの魔法攻撃はほとんど無効化してたらしく、だいぶ苦戦させていた。
――ちなみに〝干渉力〟というのは、魔法とか能力が『事象を引き起こそうとする力』そのものの強さだとか。
そして、術式よりも能力を介したものの干渉力の方が、ずっと強力なんだってさ。
なので同じ属性の上位魔弾同士でも、ぶつかり合った時は干渉力の高い能力を介したものの方が勝利する事が大半らしい。
これは能力同士でも同じで、干渉力のより高い方が低い方の事象を上書きしてしまうとか。
なんか難しい話だね!
閑話休題。
多重結界は、術者の意思で特定の対象に絞って出入りさせるのが可能だったりする。
ので、何も遮るもの無くカナンは結界内に帰ってきた。
「エリちゃんたち大丈夫?」
「な、なんとかね……。ギリギリ倒せたよ……」
「わ、わたしも、けほっ……大丈夫よぅ」
エリナさんがだいぶ疲弊しているのと、リナリアさんも歌唱魔法で色々無理をしたのか喉を痛めている。
クラッドさんは魔力を使いきったくらいで目立ったダメージは無いが、それでもだいぶ疲れているように見えるな。
その奥に、頭の無い最上位飛竜の死体がうつぶせで倒れているのが見えた。
「何とかなったみたいね」
「リナリアとクラッドさんのおかげで色々助かったよ。あたしだけじゃ何もできなかった」
「否、私は何もしていない。二人の美しき連携が勝利に導いたのだよ。私はただ効きもしない魔法を飛ばしただけだ」
「いや、ワイバーンの弱点を教えてくれたじゃん? それに風神飛燕での牽制もだいぶ助かったし」
「しかし、実際にワイバーンを倒したのは二人だ。私には決定打となる技が無かったのだよ」
なんかお互いにお互いを褒め合ってる?
どうもどっちもいい感じの活躍をしていたようだ。しかし双方譲らない。
言い争いになりそうな所で、リナリアさんが間に割って仲裁していた。
「器用ねぇ。魔法の氷漬けでしっかり拘束されてるわぁ」
「ふふん、さすがはおーちゃんよね!」
「大きな魔力を繊細に扱う技術……それもまた美しい」
褒められるとなんかむずむずするのどうしてなんだよぅ……。そしてなんでカナンが誇らしそうなんだ。
そんなオレたちは、氷漬けにしたワイバーンをどうするか考えていた。
「このままここで拘束解除するのは少し危険よねぇ」
生け捕りにしたワイバーンが転がっているのは、結界で守られているとはいえ拠点のすぐ側である。
うーん、拠点との距離を考えて拘束すりゃあよかったな。
「それなら遠くに運べばいいだけよね。私とおーちゃんなら運べるし」
「まあ、そうなるな。そういう訳でオレと主様はこいつを遠くに運んで放つ。後は作戦通りだ、三人は休んでいてくれ」
という事で、オレとカナンは氷漬けにしてやったワイバーンのすぐ側までやってきた。こいつをここから少し離れた所に運ぶつもりだ。
どうやって運ぶかって? そりゃオレの部分召喚を使うに決まってるだろ。
またもや幼女フォームを解除して、部分召喚へ移行。
それからオレはカナンの側に両腕を顕現させてワイバーンの体を掴み空中へ持ち上げた。
部分召喚はカナンの側でしか発動できないので、カナンも【空中跳躍】で一緒に宙を移動する。
拠点から少し離れた所にほどほどに開けて平らな所を見つけたので、そこに置いて氷漬けを解除してやる事にした。
そっとワイバーンの体を地面に置いてやったら、その場から離れて木陰から覗きこむ。
「……魔人召喚」
「にゃっ!?」
前触れもなくいきなり幼女フォームを召喚されてびっくりするオレ。
「な、何を……?」
「追跡がてら、新しい能力を試してみたらいいと思ってね?」
「あ、あぁ、そういや確かにちょうどいい……のか?」
それはさっき入手した【浮遊】の事だ。色々便利そうな能力なんで、ここで検証するのはまあアリだろう。
「あぁ、やっぱりおーちゃんに触ってないと辛いわ……」
「あぅ……そっちが目的だったかよ……。じゃあ、ヤツの拘束を解除するぞ?」
禁断症状なのか頬擦りしてくるカナンを横目に、オレはワイバーンの体を包む魔法を解除するのであった。
本格的なイチャイチャを書けなくて禁断症状が出てる……




