第102話 鬼に金棒、カナンに魔力
そういえば目標にしてた5000ptをいつの間にか突破してました。ありがとうございます。
上空を飛び回る飛竜の中でも、一際大きくて目立つ個体が3体。
最上位飛竜。
強度階域換算で第6域に上る、かなり強い魔物だ。
体長は20メートルを超えるだろうか。真っ赤な鱗に包まれたその体は、背中から尾にかけて背骨に沿うように、刺のような角がいくつも並んでいた。
そんなカナンに匹敵する強敵が3体もいて大丈夫なのかって話だが、同じ強度階域とはいえ向こうは六域の下位。対するカナンは六域上位の中でも七域寄りだ。
更にはオレもついているし、負ける事はないだろう。
それよりも、さっさと倒して結界内の加勢に向かいたい所だ。
「〝部分召喚〟」
幼女フォームのオレの召喚を一旦解除してから、部分召喚状態へと移行する。この形態になると、カナンの肉体の五感を全て共有するので連携しやすいのだ。
幼女フォームは魔力をあまり消費しない省エネ形態なものの、身体能力がゴミカスなのでガチめのバトルには向かないのである。
それに、翼あるのに飛べないしね。
幼女フォームでも飛べたりしたらカナンと空中散歩を楽しめたりするんだろうけどな。
《能力:【浮遊】の獲得を観測しました》
えっ、いやまたそんな簡単に……。
まあ確認は、こいつらを倒したあとでだ。
「ゴルオォッ!!!」
一体のワイバーンの口内から、かなり高密度の炎弾がこちらへ落とされた。
【大火炎】の能力で作り出した炎属性の魔力の塊のようだ。明哲者と魔性の瞳で視たところ、時間差で大爆発する……みたいだな。
さっき結界内に入り込んでたヤツも使ってた、当たれば厄介そうな魔弾だ。
――当たればな。
「遅いのよ!」
カナンはタンッと跳躍し、火の玉が地上に落ちる前に刀で斬った。
地上で爆発させるよりも被害が少なくなると判断してのことである。
そしてその狙いは上手くいった。
目の前に新しい恒星ができたかのような、そんな爆炎を背に、オレはカナンの背中に黒い翼を生やして飛翔した。
『まずは、私たちがコイツらにとって脅威だって事を認識させなきゃね』
『ああ、派手にいこう』
まさかカナンが飛べるなんて思っていなかったのだろう。
3体の飛竜の一体の顎の真下まで潜り込んだカナンは、【竜鎧】を纏わせた拳で真上に飛び上がり一撃。
「くらえっ!!!」
バキッ……グシャァッ!!
「ゴァッ!!!?」
カナンの一撃を食らったワイバーンの下顎が、しけたクッキーみたいにひび割れた。
「思ったより頑丈ね」
普通のワイバーンなら今ので首が飛んでくはずなんだが、さすがに強いな。それでも、脳震盪でも起こしたのかそのまま落下していってるが。
「後ろ」
『わかってる』
追撃しようとしていたら、もう一体の最上位飛竜がカナンの背後から爪を振り上げて接近していた。どうやら【竜爪】を纏っているようだ。
だから何だって話だけど。
『主様に触れられると思うなよ!』
オレはワイバーンのものよりも大きな両腕をカナンの後ろの空間に顕現させて、爪の攻撃を黒いガンレットで防いだ。魔力の込められた攻撃じゃなきゃ効かないもんね!
渾身の攻撃が防がれて驚いた様子のワイバーンの頭部へ、すかさずオレは拳を叩きつける。
「ガァッ……!?」
完全に予想外だったのだろう。カナンが殴った時みたいに墜落こそしなかったが、大きく怯んで体勢を崩していた。
その隙を見逃すカナンではない。
「邪魔よ。落ちて」
その空を覆い隠すような翼の根本に、絶対切断の一閃が迸る。
そうして翼を失くした飛竜は、大地へとなす術なく墜ちてゆく。
「とどめは任せるわ」
『了解した』
カナンの周囲に氷の結晶が浮かび上がる。それはだんだんと大きくなってゆき、やがて尖った巨大な氷の柱となる。
翼を失い地面の上で這いつくばる哀れなトカゲへ、氷の槍が雨のように降り注いだ。
最上位飛竜の一体はそうして絶命したのであった。
「もぐ……大味でまあまあね。獣王のよりはマシかしら」
捕らえたワイバーンの魂を飲み込みながら、カナンは次の獲物に目を向ける。
残るは雑魚と2体の最上位飛竜。どちらか一体を生け捕りにするつもりだ。
「どっちを残そうかしら……」
『下でノびてる奴でいいんじゃないか?』
それはさっきカナンが顎に一撃加えて気絶させたヤツの事だ。よほど当たり所が悪かった(?)のか、いまだに失神したまま地上に倒れている。
「じゃ、それにするわ。なら……他はいらないわね」
『そう、なるな……』
……カナンの中で、ジェノサイドスイッチの入る音が確かに聞こえた。
「あはっ! あははははっ!!」
この場にいるのは最上位の飛竜だけではない。
下位~中位、所々に上位種も混じった雑魚ワイバーンの群れが、カナンへと襲いかかる。
……が、カナンに近づけば【絶対切断】の斬撃によって次から次へとスパッと膾にされてしまう。
かと言って火球も当たる前に掻き消されるか、当たっても【竜鎧】に防がれ全く効いていない。
もはや雑魚ワイバーンどもにとって、カナンを攻撃する手段は皆無に等しかった。
「ねえ、遊んでよ。私、最近暴れ足りないのよ」
カナンは近づいてくる雑魚を粉微塵に切り刻みつつ、無邪気な笑みを浮かべながら最上位飛竜に接近してゆく。
「ゴルォッ!?」
この様子に恐怖を感じたのか、最上位飛竜は、カナンを近づけさせまいと火球を何発も何発を放ってきた。それは雑魚どもが吐き出すものよりも数段威力も高く、トラックくらい消し飛ばせそうな破壊力を持っていそうだった。
が、それだけだ。
さっきも使っていた大爆発する火球は、放つまでに少し溜める必要があるみたいだな。まあ放たれても何の問題も無いが。
「ふふ……一緒に楽しく踊りましょ?」
カナンは刀を一旦鞘に納めると、柄の部分に手を添える。
それは、師と仰ぐ人物も使っていた技のひとつ――
「〝閃剣〟!!」
鞘の中で溜めた力を解放するように。
抜き放たれた刀身と同時に、火球を弾きながら一気に距離を詰め、最上位飛竜の翼に居合いの一閃。
〝閃剣〟
それは、前にルミレインが使っていた居合い斬りを見よう見まねで再現して、カナンなりに改良を加えた技である。
ちなみに技名はオレがつけた。
「ガッ……!?」
「ふふ、うふふ……。おーちゃん、打ち上げて」
『了解』
カナンが何をしたいのかわかった。
オレは言われた通り、翼を失って落下していくワイバーンを体の下から〝蹴り上げた〟。
そしてカナンは、十数メートル上へ吹っ飛んだワイバーンへ攻撃を仕掛ける。
「あははははっ!!!」
「グッ! ギャッ! ギイィッ!?」
ワイバーンの周囲を高速で飛び回りながら、カナンはさまざまな方向から何度も何度も攻撃に攻撃を丁寧に重ねてゆく。
【竜爪】や【絶対切断】を纏った一撃一撃の衝撃は、ワイバーンの体が落下する勢いすらも殺して空中に留まらせ続けた。
回避不能、怒濤の連撃はしばらく続いた。
「――これでおしまいよ!!」
ボロ雑巾のようになったワイバーンへ向けて、カナンは口を開ける。
そして、口の中でバチバチと何かが弾ける感覚が広がってゆき――
これは……雷撃魔法か!
オレがカナンの舌先に描いた魔方陣の魔力を利用した、一回限りの必殺技。
それをカナンはワイバーンへ高位雷魔弾の形にして放とうとして……いるのかと思ったのだが――
「広域雷魔撃!!!!!」
『!?』
紅い雷がカナンの口の中から飛び出すと一気に放射状に広がり、目の前の見える範囲内全てを赤一色で包み込んだ。
な、なんだこの魔法……?
魔弾術式ではない、もっと高等なやつっぽい。カナンは魔力無いなりに術式について勉強してたって聞いたけど、ここまで……。
「……ふう、片付いたわね」
『えげつないな……』
眼下では、黒く焼け焦げた最上位飛竜だった物体が地上へ落下していく様子が見えた。
そして、さっきまでそこら中にいた雑魚ワイバーンの姿が一匹も見当たらない。
まさか今の広域雷魔撃とやらで全部消滅したのか?
その時、背後で〝魂喰〟の黒鎖に捕らえられている魂の数がどっと増えた。
いや
いやいや
どう考えても火力がおかしい。
本来持つはずだった魔力が全てオレに行ってしまっている、のがカナンが魔法を使えない理由なのだが、魔力があるとこんな事ができるとは……。
鬼に金棒、カナンに魔力だな。
それから地上へと降り、オレは部分召喚からいつもの幼女形態に移行した。
やっぱ自分の体って落ち着くよな。
「ふう、疲れたから今夜はおーちゃんを堪能するわ。お耳はむはむしてもいい?」
「はにゃ!? へ……いい、よ……?」
「やったぁ! 寝る前の楽しみができたわ」
……毎度の事だが、どうしてこう幼女形態の時のオレって押しに弱いんだろう。
それを誤魔化すように、オレは未だに動けなくなっているワイバーンを氷結魔法で拘束するのであった。
大天空!! テオザケル!!
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