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第10話 デカ過ぎんだろ……

昨日は更新できず申し訳ない。記念すべき10話です!

「是非ともうちのパーティに……!」


 ギルド内で声をかけてくる連中のほとんどが、口を開けばそれだった。

 その度にカナンは


「先約がいるからお断りするわ」


 と言うのだ。

 先約とはつまり、コルダータちゃんの事である。それを察した冒険者は、コルダータちゃんを恨めしそうに、あるいは「なんであんな奴と……不釣り合い」等と言葉を漏らして諦めてゆく。

 コルダータちゃんは気にしていないみたいだったが、カナンはコルダータちゃんの悪口を言われる度に言った奴へ殺気を向けていた。


「次コルちゃんの悪口言ったら、その頭蓋握り潰すから」


「ひっ……」


 カナンの言葉に嘘は無い。マジでやるだろう。こいつらもそこまで馬鹿ではなかったのか、単にカナンの殺気に気づいたのか、冷や汗を流しながらそそくさと退散していった。


 さて、カナンは受付で、魔石集めの際に南西の森には近づいてはならない――と注意を受けたらしい。

 理由は、朝見たら森の一角が大氷塊で閉ざされててなんかヤバい――とか。

 これにはヤバい魔物である上位悪魔(グレーターデーモン)が出現した恐れがあるとのこと。危険なので、高ランクの冒険者を数人他の街から召喚して調査させるとか。


 悪魔だってさ。へー怖いねー。



「冒険者になるのってずいぶん楽なのね。もっと難しい審査があると思ってたわ」


 透明な水まんじゅうのような生き物を握り潰しながら、カナンが言う。


 カナンはGランク冒険者というものになった。Gランクとは、所謂仮免のようなものらしい。

 それを仮免から正式なものにする審査こそが、規定魔物の討伐だ。


 渡された紙に書かれた内容のターゲットを倒し、魔石をギルドに持ち帰る事が審査の流れである。紙には魔法がかかっており、ちゃんと自分が倒したかどうか記録されるようになっているらしい。おかげでズルはできない仕組みである。


 ちなみにカナンに課せられたノルマは、『スライムの魔石を10つ』と『Fランク以上の魔物の魔石を1つ』を自力で手に入れる事が指定されている。


「カナちゃんには退屈な作業かもしれないね」


「ほんとそうだよー、スライムってちょっとつつけばすぐ倒せるし、Fランク以上と言っても、大した魔物もいないし」


 郊外のだだっ広い原っぱに大の字で寝そべるカナン。暇なら、ちょっと検証してほしいことがあるのだが。


「なあなあ主様(マスター)。悪魔の姿に戻れるか試してみたいんだけど、手伝ってくれないか?」


「えっ、戻る!? ダメですよ!! せっかくカワいくなったのにすぐ戻るなんて!!」


「そうよコルちゃんの言う通りだわ! 絶対反対!!」


 言うほどオレってカワイイか? みんなから散々カワイイカワイイ持て囃されて、今日だけで一生分のカワイイを浴びた気分だよ。


「……戻れるのか検証するだけだ。この姿じゃあ戦闘力が落ちるからな。終わったらまた人化するからさ、頼む」


「むぐぐ……仕方ないわね。終わったらすぐに可愛い姿に戻ってよ? 約束よ?」


 残念そうだが、了承は得た。

 周囲に人はいないし、条件は問題ない。


「〝オウカ〟」


 カナンがオレの名を云う。特に変化は無い。


「じゃあ、〝戻れ!〟命令よ!」


「命令って……」


 これも特に無し。


 その後カナンは謎の呪文を唱えたり謎の踊りを披露したりしたが、結局姿が戻る事は無かった。


「まさかこのまま戻れないのか……? それはちょっと嫌だぞ」


「さすがに戦力が下がるのは看過できないわね……その姿になった要因に心当たりはないの?」


 そういえば、これってアビリティによるものじゃなかったか?

 魔法とは少し違う気もするけど、オレのイメージが何か関係している可能性も……


「やってみる」


「へ?」


 大切なのはイメージ。目を閉じて、心の中を手さぐりで探る。


 ……


 妙な感覚を見つけた。例えるなら、レバーかスイッチだ。明確に〝切り替える〟目的のものを、心というか頭の中で発見し、それを押し倒してみる。


「そ、そんな……わたしのおーちゃんが……」


 コルダータちゃんの残念そうな声が聞こえる。いつからお前の物になったし。

 そして目を開けてみると、二人がオレを見上げていた。


「ふーん。いつでもその姿になれるなら安心したわ。さ、用済みよ。はやく戻って」


 悪魔フォームのオレの扱いが雑過ぎる件について。

 ……魔法はともかく、身体能力がゴミカスな幼女形態の方にもメリットは一応ある。

 それは、時間制限が無い事だ。外に出ている間、魔力を消費せずにカナンの外部で存在が可能なのだ。魔法主体に戦うなら、こっちも捨てがたいと思う。

 あと、着ていた服はそのまま着ているので安心だ。


「わたし……やっぱりこっちの方がカワいくて好きですーっ!♡」


「うわなにをす――!!?」


 いきなりぎゅーっと抱き締めてこないで!? 外だからさすがにアンナ所やコンナ所をまさぐっては来ないけど、けど……!

 顔に柔らかいソレを押し付けられると息ができない!

 てか無視しないで助けて主様(マスター)ぁ!!









 ――









「さーて、スライムの魔石も10個ゲットしたし。あとはFランク以上の魔石よ」


 ぐったり倒れこんでいるオレにカナンが報告してきた。

 そういや魔石ってガラス玉みたいな形してたな。さっき見た、建物のレンガに埋め込まれてたのも魔石だったのか?


「そもそもー、魔石って何~?」


「あ~らおーちゃんは勉強熱心で偉いさんね~! 魔石っていうのは、魔物が持つ臓器の一種よ。体内の魔力を制御したり溜めたりする役目があるらしいわ。加工すれば魔道具とかの素材に使えるんだって。

 ちなみに人種の中には魔石を持つものもいて、そういう人たちは〝魔人〟と呼ばれるのよ」


「へぇ~、じゃあ今のオレも魔人なのか?」


解体(バラ)して中身を見れば分かるかもよ?」


 ひえっ!?


「い、言ってみただけだから! それだけは勘弁してくれ!」


「ふふふ、冗談に決まってるじゃん」


 カナンが言うと冗談に聞こえないぜ全く。


 それから野原をいくらか散策したものの、スライムくらいでめぼしい魔物は全くいなかった。場所が悪いのかもしれない。動き回って見渡すカナンを横目に、退屈していたオレとコルダータちゃんはぼんやり空を眺めていた。


「鳥がぐるぐる飛んでるなぁ。どれくらい高く飛んでるんだろなー」


「さぁねー。そういえばおーちゃんって飛べたんですよね。凄いですねー」


「はは、実は飛べるなんて思ってなくってな、オレもビックリしてたんだ。まだ鳥みたいに上手くは飛べないなー」


 他愛も無い会話をしながら空を旋回するあの鳥をぼんやり観察していると、ふと妙な事に気づいた。


「なんかあの鳥、デカくね?」


「高度を下げたから大きく見えるんじゃないですか?」


「多分そうだが、それにしてもなんか……ん? あの鳥、こっちに向かって来てね?」


 鳥がぐんぐん高度を下げるごとに、どんどん体が大きくなってゆく。いや、周囲に大きさを比べる物体が無かっただけで、最初からそれだけ大きかったのだ。

 最終的にはなんと、小型飛行機を超えるサイズになっていた。デカ過ぎんだろ……


「あれ……まさかオレが狙われてる?」


 目の前に迫る特大サイズの猛禽の爪に、オレの思考は停止しかかっていた。


「おーちゃんっ!!」


 その刹那。

 オレは横から突き飛ばされ、巨大な鷲の足はオレの代わりにコルダータちゃんの胴を握っていた。



 ……



「ど、どうしようカナちゃん……」



 ……えぇぇぇぇぇ!?



「い、今助けるぞ!!」


 こういう時こそ変身だ! 幼女(オレ)が変身するのは魔法少女じゃなくて怪物だけどな!


 一瞬の暗転の後、オレは翼に力を込めて飛び上がった。バサッと体が浮き上がり、ぐんぐん高度を上げてゆく怪鳥の後を追いかける。


 ――ダメだ、オレより速くて追い付けねぇ!

 猛禽類は獲物を高所から落としてから食べる習性があるんだっけか。高く昇る前に仕留めねぇと!


 【氷刃】! 切り裂け!!


 オレの手のひらから氷の刃が発射され、怪鳥の右の翼に命中する。


「キュエエエエエ!!?」


 翼が根元から切断されて、怪鳥はバランスを崩しきりもみ落下していった。


 コルダータちゃんも怪鳥の足から離されて絶賛落下中である。

 まずい、さすがにあの高度から地面に叩きつけられたら……


『うおおおお、間に合えええええ!!!!』


 全力で高度を下げようとするが、しかし小回りが利かない。クソが!


 もうダメか―――に思えた次の瞬間、奇跡は起きた。


「――ギリギリセーフね、怪我は無い?」


「カナちゃん!」


 よ、良かったぁ……!

 主様(マスター)が地上でコルダータの体をギリギリで受け止め、そっと降ろした。


 オレはそっと地上に降り立ち、二人の機嫌を損ねる前に幼女の姿に戻る。

 すると、コルダータちゃんの様子が少しおかしい事に気がついた。


「うぅ、ごめんなさい……」


「急にどうしたのよコルちゃん!?」


 コルダータちゃんは、ぼろぼろと大粒の雫を流しながらオレとカナンへなぜか必死に謝ってきたのだった。


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