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第1話 影魔顕現

モチベーションが上がってきたので初投稿です。


注意! 主人公は7話あたりで女の子になります。

また、中盤頃からけっこうダークらしいです。

『頼みがあるんだ、主様(マスター)――』








 *






 ここはどこだろう?


 何も見えず何も聞こえず。けれど、柔らかくて熱いものが側でどくどく脈打っている。

 その感触だけが、唯一認識できた。



 すると突如、黒い世界に一条の金色の光が迸り、視界を切り開いた。

 するとそこから目映い光が溢れだし、それから少し遅れてびゅうびゅうと囁くように風が吹きつけてきた。


 そうして急に明るくなってぼやけていた視界が次第にハッキリしてくる。


『んう……?』


 すると、目の前で金髪金眼の少女の幼い顔が浮かび上がった。

 なにこれ、誰これ?


 彼女は金色の美しい(まなこ)を見開いて、まばたきもせずに真っ直ぐオレの目を見つめてきている。


  えーっと……そんなに見つめられるとオレ困っちゃうなぁ。


 せめて5年後に来てくれたら助かるな――と、ぼんやり思ったりしてふと気がついた。


 ……待てよ、目の前のこれって鏡じゃね?

  ま、まさか……このかわいい娘がオレ? 嘘やろ?



 ――『アマギ オウカ』がオレの名前。

 なんかいきなり前から変な軽トラに撥ね飛ばされたとこまでは思い出せるんだけども、どうも妙だ。

 なぜなら、名前や知識の記憶はあるのに、自分がどんな人間だったのかさっぱり思い出せない。

 まさか、頭打っておかしくなったのか?


 というかおしっこしたい。トイレはどこだ?


 ふん……あれ? 何これ……?


 金縛りのように、瞼ひとつぴくりとも体を動かせない。

 そもそも、鎖と繋がる首枷をつけられて、たとえ動けても自由が無い。

 更に、鏡には鉄格子のある狭くて暗い部屋の様子が映し出されていた。


 何やらかしたんだオレ? と混乱していたその時だった。


「よーし、あいつに一泡更かせてやるわ!」



 !?!?

 キエエエェシャベッタアアアァァァ!?!?



 口から『オレ』の意思とは関係なく、柔らかく繊細な声が飛び出した。


 鏡の中で、粗末な布切れを着た金髪の少女がはにかむ。

 毛先に僅かに赤みのある髪を手で梳かし、にんまりと白い歯を見せた。




 ―――




 オレには体を動かす権限がない。感じているこの視覚も聴覚も嗅覚も味覚も触覚も、全て少女(やどぬし)のものだ。なんだか盗聴とか盗撮しているような気分……


「あの魔術式……あれなら服に潜ませて……ふふふ、目にものをいわせてやるわ!」


 粗末なベッドに腰かけ、何かを企む少女をよそに、その頭の中でオレも考え込む。



 夢説。


 走馬灯説。


 あの世説。


 ……そして、転生説。


 走馬灯もあの世の線も多分無い。なぜならこんな記憶に覚えは無いし、体の奥から脈打つ鼓動を感じる。生きてる事は確かだな。


 となると、残るは夢か転生説だが……


 夢を夢だと自覚する夢――すなわち明晰夢。聞いた所によると、夢の世界は自分の思い通りにできるらしいが、これも違うな。

 だって、どれだけイメージしても美味しいピザを食べる事できないし。


 やっぱり転生だ。それも、意識だけがこの少女の中に。しかも意志疎通は取れそうもない。

 これからどうやって生きていけばいいのか……ピザ食べたかった。



 ともあれ、大事なのは状況把握だ。

 肉体の主導権は少女が持っているが、感覚は全て少女と共有してる。つまり、嫌でも同じ物を見て、聞いて、感じるしかない。

 何をとは言わないが、あんなこんな感覚も感じてしまうんだよ。うへへ。変態とかいうな。


 ちなみに、中から直接訴えかける事も無理そうだ。なぜって、散々騒いでいるのに少女の返事は全く無いからな。聞こえてないのだろう。


「いっちにーさーんし! うんしょっ、うんしょっ!」


 当の少女は、今さっきからなぜか柔軟体操をやっている。

 現在は鎖をじゃらじゃら鳴らしながら、前屈を頑張っている所だ。

 手のひらがぺったり床につき、めちゃくちゃ体が柔らかい。筋肉が引き伸ばされる感覚がとても心地よい。



 ……ん、誰だ? 格子の外から、ずった足音を立てて何者かが近づいてくる。この子の筋トレタイムを邪魔するつもりか?


「やあやあ元気そうぢゃのう」


 赤く派手な服を着て、贅肉ダルダルで生活習慣病をコンプしてそうなおっさんが現れた。

 加えて、気色の悪いぬめついた視線を向けてくる。キモい。


「ぐふふ、やはりなかなかの上玉だ。マンティコアさまとはいえ、食わせるには少し惜しくなってきた。もっと近くで顔を見せてくれ」


「うぐっ……やめっ……」


 急に首枷が縮んで、少女の首を絞めつける。少女が急いで格子へ近づくと絞まりはすぐ戻った。

 どういう仕組みなんだ、この首枷。


「ハアハア……このすべすべの肌、未成熟の体……何より顔が最上級。やはり見れば見るほど素晴らしいのぢゃ……ハア」


「んむ!?」


 贅肉男が格子に突っ込んだぶよぶよの腕で顔を鷲掴みにしてくる。

 思わず唾吐(えず)く少女。手汗がネチョネチョしててイカ臭い……キめぇ。一体何を触った後なんだよ。


「最近は下の世話をする者も捧げてしまってなぁ。ぶふふ

 もう一度言うぞ。マンティコアの餌にされたくなければ、わしの妾になるのぢゃ」


 めかけ……妾!? コイツの性処理を、少女(オレ)がやらされるだと?


「う……ぃ……」


「どうした? 早く返事をするのぢゃ。これが最後のチャンスぢゃぞ?」


 死ぬか、妾になるかの選択肢。どうしようもないし、オレは少女の選択を尊重しようと思う。


「じ……」


「む? 聞こえんぞ」


「絶対、やだ!!」


「な……? ぎぇっ!?」


 お、おお!

 少女は、顔を掴む贅肉男の手のひらに獣のごとく噛みついた。口の中に鉄の味がじわりと広がってゆく。

 そこで贅肉男は咄嗟に格子から腕を抜き、噛まれた箇所を反対の手で押さえて転げ回っている。


「ぶぎゃああああ!! 痛あぁ! 痛いよぉ!!!」


「ぺっ! 私はいつか明星の女神さまに会いたいの! 死ぬ気も、めかけ? にもなるつもりも無いわ!」


 血と言葉を吐き捨てて、贅肉男を睨み付ける。


「このガキャぁ……!! 魔力すらろくに持たぬお前が、明星の女神(ステラデウス)に会うぢゃと?

 下らぬ馬鹿げた妄言ぢゃ! どうせ飽きたら殺すつもりぢゃったが、今晩お前をマンティコアに喰わせてやるんぢゃ! 己の無力さを噛み締めて死ねい!!」


「ふぁっきゅー! ここを抜け出して、お前のねくびを掻いてやるわ!!」


 そう攻撃的に応える少女に対し、贅肉男は懐から何かを取り出して見せつける。

 あれは……紙か? 細かい文字の書かれた書類だった。


「ぶふふ、どうかな。この契約書がある限り、奴隷のお前はわしの命令には逆らえないんぢゃよ。

 どれ〝今夜、マンティコアに喰われるその瞬間まで眠りについて動かぬこと〟と命令する」


「うく……ぜったい……諦め、ない……から……」


 贅肉男が命じた途端に、急激な睡魔が襲ってきた。少女の瞼が無理やり視界を覆い隠し、やがて外界の音や感覚も感じなくなり……


 これはまずいぞ、よくわからんけどこの子がいきなり死の危機に立たされている。

 何かできる事は……。




 ――ん、なんだここ?


 微睡みの感覚を通りすぎ、気がつくとオレは1人で立ち尽くしていた。暗く深くて美しく、どこまでも広い星空の世界に。


『何がどうなってるんだよ……』


『――その子を、助けたいか?』


 ふっと、暗闇から声が返ってくる。


 そしてオレの目の前に突如現れたものは、髪も衣も白く光る幽霊のような少女だった。








 *




 


 カナカナと、物寂しげな虫の声の合奏で目が覚める。

 息を吸えば、森独特の甘い葉の香りが鼻を通り抜ける。

 見渡せば周りは木々が取り囲み、枝の隙間からは赤紫の空が覗かせている。


 夕暮れ、かしら。



「あれから何があったっけ。うーん……よく思い出せない」



 ジャラリ。


 うぐ……足と首の枷のせいで自由に動けないわね。

 そうだ、思い出した。

 私はあのクソデブに眠らされて、マンティコアの餌にされそうになってるのよ。

 さしずめここはマンティコアの餌場、だろうか。


 辺りの地面には、白い細い枝のようなものと球状のものが散らばっている。よく見るとこれは……ガイコツ!?

 どれも私と同じくらいの大きさからして、子供の骨みたいね。


 アイツ……ここで一体何人もの子を……


 けれど、私がここで怒った所で何かが変わる訳もない。


 ふと、さっきまで聞こえていたヒグラシが静まりかえっていた。

 その上、急にざわざわと木々がざわめきだす。


「なに……あれ……?」


 それは、人の顔とサソリの尾を持った獅子の魔物――



「ぅあ……ウぁまソウな、ニくだ」



 人を食べる怪物、マンティコア。


 森の奥から、人面の獅子がよだれを垂らして迫っていた。


 笑みを思わせる耳まで裂けた口に、焦点の合わない目でじっとりと見つめてくる……!


「くっ……!」


 逃げ出そうともがいても、両手足の枷に繋がれ動けない。

 がしゃがしゃ鎖を引っ張る内に、マンティコアの大きな顔が目の前に降りてきて……。


「ぐべ」


「うっ……」


 ねとねと滴る長い舌で、味見でもするようにわたしの顔をべろりと舐められた。

 それから、口がまるで虎ばさみのように開くとひどい臭いが鼻を刺し、ノコギリ状の黄ばんだ歯列に挟まれた暗闇が迫ってくる。


「ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛」


「いや……だ」


 嫌だ


 嫌だ


 嫌だ!


 私の人生、まだひとつもたのしい事をできていないのに!


 こんな所で終わっちゃうの?


 誰か、誰でもいい。

 この世界を、こんな世界でも、私に生きていていいって、言ってくれるなら……。



 ――悪魔にだって邪神にだって、魂を売ってやってもいいわ!!





『――いいだろう』





 ぐしゃり。


 瞼を閉じた暗闇に、水気の入った固いものが潰れる嫌な音が聞こえた。



 あれ……どうなっちゃったの、私?


 痛くない。

 苦しくもない。


 一体何が――




 恐る恐る眼を開けてみると、そこでは信じられない事が起こっていた。


「ぐ……ゲげェ?!」


 ――私へ噛みつこうとするマンティコアの顔面を掴み、強引に押さえ付ける巨大な黒い右腕。




 ――私は願った。

 神でも悪魔でも何者でもいいから、手を差し伸べてほしいと。



『よく、頑張ったな』


「えっ……」


 〝ソレ〟は、まるで私の影のように背後で佇んでいた。



 ソレの黒く金属質で巨大な左腕が差し伸べられて、私を優しくそっと包み込む。


 ソレが動けば、ジャラリと鎖の擦れる音がする。


 ソレは、黒いコートを着て背中からコウモリのような翼を1対生やした人型の生き物だった。


 手足と頭は鎧のような甲殻に包まれ、頭には1対の直線的な角が生えている。また、金属製の竜の頭骨のような形状の顔面には、鋸状の歯が並ぶ耳まで裂けた嘴があった。


 ソレは、見るからに邪悪なバケモノだった。


 けれど不思議と怖くはなくて、むしろ安心感と高揚さえ――


「な……何が……」


『悪いが話は後だ』 


 そう静かに言うと、ソレは私を守るようにマンティコアに立ちはだかった。



ブックマークや星評価が押される度に作者が裸でブリッジしながら発狂する呪いにかかってます。一言だけの感想でもうれしくて発狂するよ。


追記。2021-9-10

1~4話を大幅改稿しました。一部描写の変更や追加、設定の変更などを行いました。不評なら戻すよん。

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新手のバケモノでワロス
よし、2週目読むか。 小説をもう一度読み直すとか初めてなんだよなぁ
[気になる点] 「この契約書がある限り、奴隷のお前はわしの命令には逆らえないんぢゃよ」 って言っているのに、妾にするための命令はできないんか。
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