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応急処置セット



ロイスは身体を走る激痛で目を覚ます。

 すでに日が傾き始めており、上を見上げると空が真っ赤に染まっていた。しかし木々に囲まれる森の中は想像以上に暗い物である。



「なんで……俺、生きてんだ……?」



ロイスは自分の左腕を見る。

 肉がグチャガチャに裂けて、ほぼ原型を留めていない。

普通なら出血多量で死んでいる筈である、しかし運が良いのか或いは悪いのか、ロイスは死に損なってしまったらしい。




ロイスは近くの木の幹に身体を預ける。

 助からない、どうせここで死ぬのだ……と、ロイスは再び意識が飛びそうになる中、ある感情が湧き出てくる。

 




「こんなところで、死んでたまるかよ……!」



ロイスは身体を無理やり奮い立たせ、立ち上がる。

 こんな惨めな死に方でいいのか? こんな寂しく死んでいいのか? 言い訳がない‼︎





 しかし、もうこんな腕では冒険者をやるのは無理だ。もそもミリシアに一緒に冒険者になろうと言われた時断れば良かったのだ。それが一番の間違いである。

 ならば自力で村に帰り、別な事をしよう、こんな身体でも出来ることは何かしらはある筈だ。




ロイスは心もとないフラフラとした足取りで、一歩一歩前へ進んでいく。

 歩くたびに腕に衝撃が走り、足が止まりそうになる。ロイスはそれを踏ん張り歩き続けていたが、それも長くは続かなかった。



「くっ……駄目だ……! 痛くて動けない……」



ロイスは激痛に耐えかねて、その場に倒れ込む。



「せめて何か縛るものがあればマシなのに、クソッ‼︎」



やっぱり、ダメかもしれない。

 突発的に浮かんだ生への希望を段々と薄れ始めていた。




その時だった。

 無事な方の右腕に眩い魔法陣の様なものが展開し、赤い十字の紋章が刻まれた深緑のポーチが召喚される。



「なんだこれ、俺が召喚したのか? 俺のスキルは鑑定者だぞ。なんで召喚なんて……⁉︎」



ロイスは残った方の腕で器用にポーチを開ける。

 そこにはロイスが思いもよらなかった物が入っていた。


包帯に、止血帯、ガーゼに消毒液らしきもの、傷の治療に必要なものが粗方入っていたのだ。




「なんだよこれ……なんでこんな都合よく欲しいもの入ってんだよ、訳わかんねぇよ……今はそんなこと考えてる暇は無い、……よかった、助からかもしれない!」



ロイスは突然の出来事に笑みが溢れる、ポーチの中身を使い適切に傷口に手当てをしていく。

 もはや突然召喚された謎の箱など助かるなら、どうでも良かったのだ。




IFAK アメリカ陸軍応急処置セットー旧型。




ロイスの脳内にその様な言葉がパッと浮かび上がるが、一心不乱に傷の手当てを行う彼にはそれを気に留める事は無かった。 

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