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そして、置き去りに



翌日、パルティア達は草原から暫く歩いて、森の中を進んでいた。



「はぁはぁ……」



ロイスは相変わらずシルフ以外の全員分の荷物を持たされており、凄まじい重量がロイスを襲う。身体中が虐待と筋肉痛で歩けないほどに痛む。

 しかし、此処で倒れるわけには行かないのだ。こんなところで置いて行かれたら魔物に襲われて生きて帰ることは出来ないだろう。



「荷物を持とうか? 足が震えているぞ、流石に限界だ」


「大丈夫です、シルフさんまで巻き込みたくありませんから……」



前にシルフがロイスの事を庇い過ぎてしまい、パーティー内のヘイトが一時期ロイス並みにシルフに向けられていた時期がある。とは言えシルフはパーティーに必要な逸材であったため、ロイスの様に虐待を受ける事は無かったが、あからさまな嫌がらせは受けていた。

 だから、これ以上シルフに迷惑をかける訳には行かないのだ。




「……森を抜けたら休憩しよう、本当は今にでも取りたいが、こんな森の中では無理だな」


「は、はい……」



ロイスはシルフの励ましを受け、今一度身体に力を入れる。

 筋肉が泣き叫ぶ様に激しい痛みをあげるが、グッと堪える。



「にしてもおかしいわね、さっきから魔物に遭遇しないわ……」



そんなロイスを横目にミリシアは探索魔法を辺りに展開しながら呟く。



「確かに、いつもなら2、3回は遭遇するはずなんだがな、たまたま運が良いだけじゃねぇか?」


「だったら、良いんだけどね」



ミリシアはどこか不安そうに言い放つ。

 そしてミリシアの不安は直ぐに的中することになる。



「待って、 何かがこっちにものすごいスピードで向かってくる、東南の方向‼︎」


「東南の方向か……ミリシアと役立たず(ロイス)は後ろに行け‼︎ ドルブとシルフと俺は前で戦う、ミリシアは魔法で援護を頼む‼︎」



リーダーであるパルティアは的確に指示を出し、瞬時に体制を整える。

 その感、僅かにものの数秒程度だ、並みの冒険者にできる速さの動きではない。こればかりは世界有数と謳われるだけはあるだろう。




それから、暫くして森の奥から影で構成された狼の様な化物が飛び出してくる。



「シャドーウルフ⁉︎ ダンジョンの最奥にいる魔物だろ、なんでこんなとこに……⁈」


「今はそんなのどうでもいい、ミリシア‼︎ 援護を頼む、ドルブはヘイトコントロール、俺らはその間に攻撃するぞ‼︎ 奴には通常攻撃はきかん、気を付けろ‼︎」


「嗚呼、わかった」



シルフとパルティアは剣を抜刀し、シャドーウルフに視線を合わせる。



「ガウアァァ‼︎」

「導撃盾」



シャドーウルフはパルティア達に向かい、飛びかかってくる。

 しかし、ドルブの身体が数度点滅するとシャドーウルフは吸い込まれる様に攻撃がそちらへと逸れる。



「グガァウ‼︎」

「ぐっ……!」



シャドーウルフはドルブの大盾にタックルをかます。

 ドルブは身体を大きくのけ反らすがなんとか耐える。



呪縛サーベイランス



ミリシアが呪文を唱えると、光の鎖が現れ、シャドーウルフの身体に巻きつき雁字搦めにする。



付与火イグナイト‼︎」



パルティアが付与魔法を唱えると剣に炎が宿る。



「どりゃぁ‼︎」

 


パルティアはそのまま、シャドーウルフを斬りつける。



「ワォーーオォン‼︎」



シャドーウルフは悲鳴を上げ、体液とは呼ばぬ様なドロっとしたドス黒い液体が溢れ出る。



「シルフ、後は任せた‼︎」


「わかった、聖牙突セイクリットファング!」



シルフは聖属性を帯びた剣をシャドーウルフへと突き刺す。

 闇属性の権化の様なシャドーウルフには致命的なダメージへとなるだろう。



「ガァァ……アゥ……」



シャドーウルフは掠れたような鳴き声を上げ、その場にドサっと倒れ込む。



「取り敢えず倒せたみたいだな……」


「なんでこんなところに大物が居るのよ、そりゃあ他の魔物も居なくなるわけね」


「それで? シャドーウルフってレアな素材とかあんだっけ?」


「おい、ロイス」


「は、はい……なんでしょう?」

 


「お前、あの化け物から高値で売れそうな素材がないか鑑定しろよ、俺のスキルの全能でもできるんだが、せめて役には立てよな?」


「わかりました……」



ロイスは背負っていた荷物を下ろし、シャドーウルフの死体へと近づいていく。



ロイスはシャドーウルフにスキル【鑑定】を発動する。数少ない自分のスキルを使う機会である。

 一通りシャドーウルフを鑑定してみたが、特に売れる様な素材がある訳ではない様だ。



「いえ、特にはありませんでした……」


「なんだよ面白くねぇな、早く荷物もてよ、先急ぐぞ‼︎ ただでさせ遅れてんだ、皆んな行くぞ‼︎」





  ロイスが荷物を背負おうとした時だったーーー。



「ガァァァ‼︎」



シャドーウルフが突如として起き上がりロイスの左腕へと噛みつく。

 


「ああうぅあぁ‼︎」



ロイスは余りにも激痛に声にもならない様な悲鳴を上げる。シャドーウルフはお構いなしにぶんぶんとロイスを振り回す。



聖牙突セイクリットファング‼︎」



シルフは咄嗟にシャドーウルフの眉間に剣を振りかざす。

 振りかざされた剣は眉間の丁度真ん中を貫き、シャドーウルフは今度こそ生き絶える。



「ロイス⁉︎ だ、大丈夫か⁉︎ ……お、おい……う、腕……が……」



ロイスの腕はほぼ原型を留めておらず、言い表すならグチャグチャとしか言いようが無い有様だ。


「うわっ、こりゃひでぇ」


「グロ……骨見えてるし」



ドルブとパルティアはグロい物は見ていられないという風に、顔をそむける



「ミリシア、回復魔法を! 早く‼︎」


「言われなくてもやるわよ」



ミリシアはロイスに回復魔法をかける、しかし一向に治る気配は無い。



「駄目……全然治らないわ、恐らくはあの魔物の特性ね、回復が妨げられてる」


「嘘だろ、腕を怪我した奴隷なんて使いもんにならないぞ⁉︎」


「どうする置いてくか?」



その時だった、パルティアはとんでもない爆弾発言をかます。



「そうだな、走れなくなった馬は捨てる、当然の事だ」


「こんな怪我人、魔王討伐には連れてけねーしな」


「流石に捨てるのは気が引けるけど……まぁいいかしらね」



パルティアの爆弾発言に対してドルブとミリシアは賛成と言った感じであった。しかし当然ながらシルフは反対する。



「お前ら、正気か⁈ 仲間を捨ててく? こんな森の中に……? ロイスを殺すつもりか⁉︎」



シルフは激昂してパルティア達に怒鳴り散らす。



「連れてくわけにもいかねぇだろ、本当に役立たずになっちまった雑魚およぉ‼︎」


「パルティアの言う通りだな」


「シルフ、仕方ないわよ、諦めましょう?」


「黙れぇ‼︎ ロイスを、置いていくなら私もここに残る‼︎」


「シルフ……さん?」



シルフはロイスを庇う様に立ち塞がる。

 ロイスは痛みで意識が朦朧とする中、シルフを見る。

彼女の足をよく見るとガクガクと震えており、彼女とてパーティーリーダーであるパルティアに逆らうのは恐怖心があるらしい。



「それは困るな……パーティーの攻撃の要が居なくなるのはきついって」


「なら、ロイスも連れて行け‼︎ そしたら私も行く、それが条件だ‼︎」


「あーもうめんどくせぇ」



パルティアは後頭部を掻き毟る。



「なぁミリシア、眠らせる魔法は使えるか?」


「まぁ使えるけど……」


「シルフにその魔法使え‼︎」


「成る程ね、わかったわ」



ミリシアはシルフに手をかざす。



「くっ……不味い、ロイス逃げよう‼︎」

昏睡スリープ



シルフはロイスを背中に乗せて逃げようとするが、それよりも早くミリシアの魔法が発動する。



シルフは気絶するように昏倒し、その場に倒れ込む。



「シ、シルフ……さん⁈」

「おい、離せよ」



ドルブはすかさずロイスからシルフを引き剥がし、肩に担ぎ込む。



「しかし、シルフが起きたらどうすんだよ? 絶対暴れるぞ⁈」


「それは問題無いわ、私が記憶操作の魔法でロイスとの関わりは無かった事にしとくわ」


「それはいい、もう二度とロイス、ロイス言わなくなるしな、シルフ唯一の欠点が無くなるわけだ!」


「それじゃあ行くぞ、ただでさえ時間がないんだ、それにロイスの視線が気持ち悪りぃしな」



そしてパルティア達はその場を立ち去ろうとした時だった。



「ん?」

「まって……行かないで……」



ロイスは無傷の方の腕でドルブの足を掴む。

 しかし無慈悲にもドルブは気持ち悪りぃんだよ、と言い放ちロイスを振り払う。



「死にたくない……置いていかないで、助けて……!」



ロイスは恐怖と悔しさ、それを遥かに上回る死への恐怖で真っ青になり手が震え、涙が止まらなく。



パルティア達はそれを気に止める事なく先へと進んでいく。

 彼らの姿が消えるまで、ロイスは助けを求めるが彼らは振り向こうとすらしない。彼らの姿はいずれ森の奥へと消えていった。



「なんでだよ……許さない、許さない、許さない‼︎ 殺してやる、絶対にっ‼︎」



ロイスは胸に強く誓う。

 しかし出血多量で意識が今にも途切れそうなほど朦朧としており立ち上がる体力すらもはや無かった。



「なんで俺ばっかり……こんなはずじゃ無かったのにっ! 嫌だ……死にたくない……助けて……シル……ふっ……」



ロイスは遂に意識を失ってしまった。

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