ケレテレス
ロイスとフィリアはケレテレスの付近まで来ていた。
潮の香りが漂ってきており、近場に海があるのだろう。
付近の小高い丘に登ってみると、遠目に何処までも続く壮大な海が広がっていた。その沿岸部には海岸沿いを覆い尽くす様に大規模な街が広がっていた。
「あれがケレテレス……一体何十万人居るんだ……?」
ロイスは眼前に広がる異常な程巨大な湾岸都市を見て驚嘆する。
ロイスはケレテレスは栄えている街とは知っていたのだが、まさかここまでとは思っていなかった、もしかしたら王都に匹敵する規模、若くはそれ以上かも知らない。
「上から見るとかなり大きな街だったんですね、この規模は魔大陸でも中々ありませんよ」
とフィリアは言ってはいるが内心はロイスとは違いフィリアはこの光景をさほど凄いとは思っている訳ではなかった。
寧ろここより自分の故郷の方が立派である、と思ってるくらいだ。
「ロイスはこれからどうするのですか? 私は妹を探しますけど、手伝ってくれるなら嬉しいんですが……」
「勿論手伝うよ、この装甲車のおかげでパルティア達より早くつけたみたいだし」
ロイスは近くに留めてあった装甲兵員輸送車に目を呉れる。
「それにしてもロイスのスキルは不思議……と言うか謎ですね。この鉄の塊もどう動いてるか分かりませんし、この銃も火薬や魔力を込める必要も無く取手を引くだけで連射出来ますしね」
フィリアは背中に掛けていた九九式狙撃銃を手に取りまじまじと見つめる。
彼女の身長からは幾分か大きく、パッと見使いづらそうだが本人曰く寧ろ使いやすい大きさとの事だ。
「俺もこの能力が急に使えるようになってさ、寧ろこのスキルがなんなのかこっちが教えてほしいくらいなんだよなぁ……元のスキルの鑑定者の面影なんて無いし」
「不思議な事もあるのですね、そんな事例聞いたことありません……転移ともまた違う感じですし」
「転移……か、確かに転移者が高度な文明を持ち込んだりするって聞いたことあるけど、元々この世界の住人なんだよね」
「今こんな事気にしていてもしょうがありませんね、時間もそこまである訳でも無いですし早く行きませんか」
「確かにそうだね、装甲車はここに置いて街まで行こう」
2人は兵員輸送車を前の様に目立たない所に隠し、ケレテレスへ向かって行った。
ケレテレスは元々は大した規模では無い都市で、それが急激に発展、膨張したので、都市の周りには外壁が存在していなかった。
とは言えモンスターも態々こんな大都市を狙って襲撃しようとはしない、例外もいるがこの街は前線基地でもある。
有象無象の無名冒険者から誰もが聞いたことある様な英雄的冒険者がごった返しており、それに加え軍隊も常に数万規模で常駐しているのだ、ケレテレスに近づこう物なら一瞬で討伐されるだろう。
その為、検問も無くすんなりとケレテレス内部に入る事が出来た。
ケレテレスは活気付いており、その殆どは冒険者や様々な人間の国の兵士達で一般人らしき人はちらほらといる程度である。
「これからフィリアは何処を探すつもりなの?」
「とりあえず、奴隷の販売所を片っ端から漁ってみます。とは言えこの都市にはそんな場所は四ヶ所しか無いのですけど」
「けど、もう何処から買われてしまったと言う可能性は……?」
「私はスキルが異常だったので大金を積まれて特別に速攻買われたのですよ……普通はオークション等を通して売買されるので未だここに居るはずです」
「なるほど、それだったらここにいるはずか、その売り買いされてる場所は何処にあるのか分かるの?」
「一番近いところにあるのは、海沿いにある所の筈です。私も捕まっていた身ですから確証は無いですが……近くに大きな灯台がありました、多分それを目印にしていけばいけると思います」
「わかった、じゃあそこに行こう。出来ればパルティア達が来る前に見つけ出したいしね」
ロイスとフィリアはケレテレスの街中を暫く歩き回り、坂になっている所を見つけ、上から街を見下ろした。
ロイスが辺りを見渡すと海沿いに他の建物より数倍は高い灯台が建っているのに気付く。
「もしかしてあの灯台が?」
「そうです、あの真下に奴隷の取引所がある筈です」
ロイスは灯台の下辺りに目を凝らしてみると、石造りの倉庫の様な建物が目に入る。
その建物は平家ではあるもののかなり大きく土地の面積だけで言えばその辺の城くらいの大きさだろう。
ロイスとフィリアはその建物こそが奴隷の取引所であると確信した。2人はその灯台へと向うことにした。