ローデンブルグ戦ー5
2人は白燐の充満する地下室から階段を駆け上がる。
改めて自分の姿を見ると所々皮膚が焼けており、痛々しい。幸い回復ポーションはあと1個ある、とりあえずはこれで何とかなるだろう。
フィリアの方は幸運にも火傷跡は見当たらなかったが、頬には痣が出来ていた。
フィリアが何をされていたのかをロイスは一瞬で理解する。
しかし、フィリアを打った張本人は今頃有毒の煙に呑まれて息絶えている頃だろう。
「助けに来て下さりありがとうございます……すみません、また迷惑を掛けてしまい……」
「いや、俺の方が悪いよ……最注意してればこんな事にはならなかった訳だし」
「あ、あの……」
「どうしたの?」
「助けて貰った身でこんな事言うべきではないのでしょうけど」
彼女の声色が急に変わる。それは何か言いづらそうな雰囲気の物ものだ。
何か聞きづらい事を聞こうとしている、と言った感じだろうか。
「ロイスは無理に良い人を演じようとしていませんか?」
ロイスは彼女の不意な質問に対して、心臓を突かれた様な不思議な感覚が込み上げる。それと同時に何か聞かれては行けない様な焦りを感じる。
「そうなんですか? いえ、そうなんでしょう?」
「いや……」
「そんな事はない」
その言葉が喉まで出かかったが、何故かその言葉出てこない。
(いや、きっとそうなんだ……今の今まで自分でも気付かなかっただけで、ミリシアの時も、冒険者になったのも、パーティーを離れなかったのも……そしてフィリアも、もしかしたらシルフさんを助けようとしているのも、自分がそもそも此処に立ってるのも自分が良い人で思われたいだけなのかもしれない)
よくよく考えればそうだ。
彼は昔から困っている人を見つければ、此処でこの人を見捨てたら周りからロクでもないやつ、と思われるのではないかと思っていた自分がいた。
「……確かにフィリアが言う通りだよ、多分自分のエゴなんだと思う、きっと今まで自分でもわかんなかったんだ。
だからこんな酷い目にあってるんだろうね、もっと自分の意思を持っていれば良かったと思う。
けどなんでフィリアはわざわざそんなこと教えたの……? フィリアには何のメリットも無いと思うけど」
「そうですね。寧ろ貴方の気に触る可能性も考慮すれば言わない方が良かったですね」
「もしかしたら、それで気が変わってフィリアの手助けをしないって言うかもしれ無いのに」
「いえ、ロイスが何処か辛そうだったので……つい」
「……」
「それに……ロイスはそんな事しないって信じてますからっ」
フィリアそう笑みを浮かべてロイスに言い放つ。
「え……? あっ」
ロイスはフィリアのその言葉を聞いて暫く固まっていた。
そんな事しないって信じている。
こんな事言われたのはいったい何年ぶりだろうか。
ロイスがこんなに動揺しているのは何年間もあのパーティーにいたせいだろう、しかし何故こんなにこの言葉に感動しているのか自分にも分からなかった。
「どうしたのですか? 早く行きましょう」
ロイスはフィリアそう言われて我に帰る。
「あぁ……うん、ぼけっとしてる時間はないか」
「仮にもここの領主殺しちゃいましたしね、このままここにいれば面倒な事になりかねないです。本当は宿に戻って荷物を持ってきたかったですが、正直その時間も惜しいですね」
「それじゃあ今からケレテレスへ?」
「はい、途中ロイスの召喚した走る鉄の箱の中で休めば魔物にも襲われないでしょうし」
「確かにそうか、てか最初から俺がそうしてれば良かった気が……」
「過ぎたこと気にしてもどうにもなりませんよ 早く行きましょう?」
「うん……そうしよう」
そういうとフィリアはロイスの手を取る。
「この先の道に関してはそれなりに詳しいので私に任せてください」
そう言ったフィリアは微笑を浮かべた。そうして2人は屋敷を後にした。