ローデンブルグ戦ー3
日が沈み、辺りが闇夜に包まれた頃。
ロイスは街の郊外の森の中にある高い煉瓦塀に囲まれた屋敷の前にいた。
「ここか……」
街の人に領主の屋敷がどこにあるから聞き込み等をしたのだが、それでも大した苦労をする事なく辿り着く事が出来た。
「おい、貴様、此処で何をしている‼︎」
屋敷をぼうっと眺めていたロイスに辺りを巡回していた傭兵らしき人物が怒鳴りつけて来る。
「此処は領主様のお屋敷だぞ、餓鬼が遊びに来る場所じゃねぇんだ、早く帰れ‼︎」
ロイスはそれに対して拳銃で容赦無く傭兵を撃ち抜く。
「ぐはっ……ぬっ……!」
銃弾は心臓の辺りを貫き、男は断末魔をあげるとその場に倒れこんだ。
「な、なんだ⁈」
「急に破裂音がしたぞ‼︎」
銃声を聞きつけ辺りにいた2人の傭兵が此方へと近づいて来る。
幸い辺りが暗いこと、木々が遮蔽物となりロイスにはまだ気づいていない様だった。
ロイスは2人の傭兵達に的確に一発ずつ銃弾を撃ち込む。
1人には頭にダイレクトに命中する、恐らくは即死だろう。
もう1人の方は肩を銃弾が貫いた。
「うぐっ……! な、なんだぁ‼︎」
傭兵は突然の肩の痛みにその場に倒れこむ。
そこにロイスは迷わず二発の銃弾を更に撃ち込む。
ダァン‼︎ ダァン‼︎
「あがぁ……うっ……」
その銃弾は傭兵の胸と腹部を貫き、絶命させる。
「後は壁の中か」
ロイスは辺りを見渡して他に人影がいない事を確認すると、眼前にある門に向かって柄付手榴弾を投げる。
ドオォァァン‼︎
凄まじい破裂音が響き渡り、木製の大きな扉の下部が粉々に粉砕し人ひとりがやっと通れる程度の穴が開く。
小柄なロイスにはその穴は何の問題も無く潜り抜ける事が出来た。
門を抜けた先には庭が広がっていた。
目の前には大きな噴水がありその両脇は花畑となっていた。
正面にある屋敷の窓のいくつかに灯りがつき、何やら慌ただしそうな声が聞こえてくる。
恐らく今の爆発音で中にいる傭兵やらその他の使用人が異変に気付いたのであろう。
しばらくすると屋敷の正面玄関から雑多な武器を持った男達がわらわらと湧いて出て来る。
ロイスはそれに対してMG34汎用機関銃を瞬時に召喚し、斉射する。
ダッァダッァダッァダダッァダッァダンダッァダッァダッァダダッァダッダダ‼︎
機関拳銃の比ではない炸裂音と煙が辺りを覆う。
正面にいた男達は身体の彼方此方を貫かれ、バタバタと倒れていく。
自分が何故死んだのかも理解する暇もないだろう。
当然その背後にある屋敷にも容赦無く銃弾が飛んでいき、壁には穴が開き、窓ガラスは割れていく。
銃声に混じり、ガラスの割れる音が微かに聞こえて来る。
まもなく、ドラムマガジンの弾が無くなり、銃声はパタリと止む。
しばらくして、煙が晴れるとそこは地獄の様な光景が広がっていた。
数多の銃弾を浴び、原型を留めていない無数の死体、煉瓦造りの壁は一部崩落し、窓ガラスも木っ端微塵になっていた。
(冒険者になる前は動物の死骸を見るのも無理だったのに、今は人の死体を見てもなんとも思わないなんて……俺は本当に人らしい心を持っているのだろうか?)
ロイスはそんな事をふと思いながら、銃弾で穴だらけになった死体の塚を踏み越えていく。
「今はそんな事を考えても仕方ないか……」
ロイスは開き直り、崩れた壁から屋敷の中へと入る。
屋敷の中はガラス片や崩れた煉瓦の欠片や粉塵が真っ赤なカーペットを汚していた。
「こんな狭い所で、これは取り回し悪いな……」
ロイスは汎用機関銃を辺りに投げ捨てると、小柄で尚且つ機関拳銃より扱いやすい銃をイメージする。
そうすると細長いフォルムの鉄の塊が召喚された。
シュマイザーMP40
と言う短機関銃という物に分類される武器らしい。
ロイスはMP40を構えながら、廊下を進んでいく。
しばらく道なりに進んで行くと、目の前に黒尽くめの格好の男が姿を表す。
昨晩、ロイスの懐にナイフを突き立てた二人組の男の片割れだと理解する。
ロイスはすかさずMP40を構えて、目の前の黒尽くめに乱射する。
ロイスは男が蜂の巣なり死ぬだろうと予測していた。
しかしその予測は外れる事になる。
カァン‼︎ カァン‼︎ カァン‼︎ カァン‼︎
男は飛んでくる銃弾を素早い身のこなしで回避し、避けれない銃弾は短剣で弾いて行ったのだ。
「え……嘘⁈」
ロイスは余りにもの出来事に絶句する。
あんな目に見えない速度で飛んで行く鉄の塊を避け、更には短剣で銃弾を弾いていくのだ、その光景はロイスの予想の範疇を越えていた。
男は尋常では無い速さで距離を詰めて来る。
恐らくスキルによる物だ、ロイスの知る限りでは【盗賊】か【超走者】のどちらかだろう。
男はロイスの懐に短剣を突き刺そうとする、ロイスはそれを左手で防ぐ。
ロイスの左手は切り落とされ、スパッと床に落ちる。
男は続いて短剣を首元に突き立てようとするが、よろけてギリギリで回避する。
男は再び短剣を突き刺そうとして来るのを、ロイスはMP40で弾幕を貼り、男を牽制する。
しかしその弾幕は長くは続かなかった。
「弾切れ⁈」
所詮は30発のボックスマガジンである。
適当に乱射すれば直ぐに弾切れを起こすだろう。
マガジンを入れ替えてる隙に男が間合いを一気詰め、ロイスを押し倒す。
男はロイスの残った右腕を片手で抑え付ける。
「こずらせやがって……けど、まぁいい、残念だな、地下室までいけなくてよぉ……」
男のニタリと微笑を浮かべる顔がマントの隙間から見える。
「地下室? 一体地下室に何が……?」
「もう関係ないだろ? これから死ぬんだからな」
男は短剣をロイスの首元に振り下ろそうとする。
(もうだめか……)
ロイスはそう思い辺りを見渡す。
ふと自分の左腕を見ると、切り落とされた腕が再生しているのに気づく。
「そいや左手、フィリアにスライムにされていたのか、通りで痛みが無かった訳だ……でも、これなら……」
ロイスは懐にしまっていた拳銃を左腕で取り出すと、男の胸部目掛けて射撃する。
「うぐっ⁈」
撃たれて男の力が弱まった隙に男の拘束を解いて起き上がる。
「回復‼︎」
男は回復呪文を唱えると、胸部の出血がみるみる治っていく。
ロイスはそこに構わず何発もの銃弾を浴びせる。
ダァン‼︎ ダァン‼︎ ダァン‼︎ ダァン‼︎
銃弾は頭部、胸部、腹部を次々に貫いて行く。
「うっ……がぁ、が……」
男はそのまま床に膝から崩れ落ち、絶命する。
「地下室か、きっとそこにフィリアが………」
ロイスは地下室に向かう事にした。
この男の口ぶりからフィリアがそこにいると確信した。