ローデンブルグ戦
「お、おい‼︎ お前大丈夫かよ⁈ おい‼︎」
ロイスは身体を揺さぶられ目を覚ます。
「……んっ」
目を開けるとそこには昨日カウンターにいた無愛想な男が心配そうにロイスを見つめていた。
自分の腹部を見て見ると裂けた服の間から無傷の白い肌が見える。
辺りを見渡してみると側に空の回復ポーションの瓶が置いてあった。どうやら男がポーションを使って傷を癒してくれた様だ。
「……うぐっ」
ロイスは立ち上がろうとするが視界が揺らぐ、恐らく血液を大量に流し、貧血になっているのだろう。
流石の回復ポーション言えど流れた血までは戻らないのだ。
「フィ、フィリアは……?」
「連れの女のことか⁉︎ 知らねぇよ、俺がこの部屋に来た時はもういなかったよ」
「わかった……」
ロイスはそう言うと、その場からのっと起き上がる。
「何処に行くってんだ?」
「フィリアを探しに行く……」
「傷口は治ったと言え、もう少し休んだ方が良いぞ⁉︎」
「そんなにゆっくりしてる時間は無いよ……」
ロイスは立ち上がり、外へ向かおうとする。
視界が揺らぎ、ふらふらするが歩けないほどでも無い。
「お前、本当に行くのか? そんな身体でか⁉︎」
「のろのろしてる暇なんて無いんだよ‼︎」
ロイスは男に怒鳴りつけ、部屋を飛び出していく。
背後から男が心配そうな口調で何か話しかけてきたが、気にしている暇などない。
「……俺のせいで」
自分に最も力があればーーーいや、その力は持っていた。
にもかかわらず、この事態を未然に防ぐ事ができなかった自分に苛つきを覚える。
ロイスはフィリアは何処へ拐われたのか考える。
その答えは、大した時間を使わずとも直ぐに出た。
「この街の領主……」
フィリアを拐ったのは奴で間違いない、それ以外に思い当たる節はない。
勿論、領主の屋敷など何処にあるかなどは分からないが、そんなのは大した問題にはならない。単純にこの街で1番大きな屋敷が必然的に領主の屋敷のはずである、後は周辺住民に聞き込みでもすれば良いだけだ。
ロイスは風稜館の外に飛び出すと、近くに人だまりが出来ているのが目に入る。
ロイスは彼等を無視し先へと進もうとしたが、彼等から聞こえてきた会話で足を止めた。
「あれが不死鳥か......」
「流石、王国最高峰の冒険者パーティーだな、風格が違う」
「しかし、噂では不死鳥のメンバーは5人だろ? 4人しか居ないんだが、どう言う事だ?」
「さぁな、別なところにいるか、死んだかだな、別に冒険者では普通の事だろう」
「ふーん。こんな連中でも死ぬ時は死ぬもんなのか……」
集まった聴衆達の隙間からパルティアの姿が見える。
それに続き、ミリシア、ドルブ、シルフの姿が見える。
「シルフさっ……!」
ロイスはパルティア達の元に飛びだそうとしたが、それをグッと堪える。
今ここで飛び出せば、厄介ごとになるのは当然、かなりの高確率で戦闘になる事だろう。
そうすればフィリアを追う事ができ無いかも知れない。
さらに言えば彼等の目的地はケレテレスの筈だ、別に行先が分かっているのならフィリアの問題を解決してからでも幾らでも追いかけられる。
(今はフィリアを助けるのが先にすべきだよな……)
ロイスは人集りから身体を反転させ逆方向に歩いて行く。
「……」
しかし、ロイスには一つ気になることがあった。
シルフが何か無垢なような、或いは清々しい様な表情を浮かべていたのを思い出す。
「ま、まさかな……」
ロイスの頭に最悪の事態を想定するが、それをかき消した。
「今はとりあえずフィリアだな……大丈夫、きっと大丈夫……だよな?」
ロイスはそう強く思い、先は進んでいく。