風稜館ー2
ロイスとフィリアは食料品や回復薬など他冒険に必要なものを、買い込んで風稜館まで戻ってきていた。
「にしても、色々あって疲れたね」
「そうですね、私も街なんて久しぶりですし、気を張っていたので疲れました……」
フィリアはそう言い背筋を思いっきり伸ばす。
「そう言えばこの宿の隣に銭湯がありましたよ? 折角ですし入っていきましょう、次いつ入れるかわかりませんしね?」
「確かに、肌もベタベタするにお風呂にはいりたいかも……」
ロイスは何日前に身体を洗ったかなど覚えてない程だ、もしかしたら相当臭いのかもしれない。
「もしかしたら、俺って臭かったりする?」
「まぁ、私も何日も入ってないので人の事言えませんが……正直臭います……」
「うっ……」
ほんのりと自分でも自覚していた事ではあるが、異性に面と向かって言われるとかなり複雑な気持ちになる。
フィリアは冒険者なんてだいたいそんなものだとフォローを入れるが傷つくものは傷つく。
罵詈雑言の類はすでに慣れてるのだが、この手の耐性はほぼほぼない。
「鍵があるとは言え部屋に誰も居ないのは無用心ですし、私が待ってますんで先入ってきて良いですよ」
「うん、ありがとう……じゃあ先に行ってくるよ……」
ロイスは多少はーーーと言うか、かなり落ち込みながらも近くにある銭湯へと向かった。
「ふぅ……」
それから三十分程度して風稜館の真横にある銭湯から部屋の前まで戻ってきていた。
「取り敢えず死ぬほど身体洗ったし、流石に大丈夫だよな……」
ロイスは自分の身体の臭いを嗅ぐ。
特に変な臭いはせず、むしろ石鹸のいい香りがする。
ともかくいつまでもこうしているわけにはいかないので部屋の中へと入っていった。
「お帰りなさい、久しぶりのお風呂はどうでしたか?」
部屋に入るとフィリアがベット上に座っていた、どうやらロイスが帰ってくるのを待っていた様だ。
「うん、とても良かったよ、流石にもう臭くも無いと思うけど……」
「ええ、大丈夫だと思いますよ、石鹸の良い香りがしますし」
「なら良かった……臭いも消えたみたいで……」
ロイスは石鹸をまるまる一個消費する程身体を磨きまくったなど口が裂けても言えないと強く思う。
そしてロイスはふと、部屋を見渡してみると、ベットが一つしかない事を思い出す、かなり狭いベッドでどう見ても1人用だ。
ならば床ーーーというか硬い地面で寝慣れてる自分が床で寝るべきだろうと思う。
「そいやベット一つしかないけど、どうする? 俺別に床で寝るけど……慣れてるし」
それを聞いたフィリアは薄らとした笑みを浮かべる。
「何言ってるんですか……一緒に寝るんですよ? そんな片方ばっかり床に寝させるなんて出来ませんしね」
「でも、狭かったりしない? それに俺臭うかもしれないし」
「お風呂入ってきたのに臭うわけないじゃ無いですか? そう恥ずかしがら無いでください……」
「んまぁ……冒険仲間として、普通なんだろうけど……」
「じゃあ、それで良いですね? 私はお風呂に行ってきますね」
フィリアがそう言い、部屋を出ようとドアを開ける。
そこには黒装束を纏った2人の男が立っていた。
「探したぜ、フィリアのお嬢さん?」
男の1人は邪悪な笑みをフィリアに向ける。
「ッ……!」
フィリアは男達を見た瞬間顔色を変える。
フィリアは咄嗟に部屋の隅に置かれた狙撃銃を手にしようと身体を反転させる。
しかし、その瞬間、1人の男が素早い身のこなしで動き。ファリアの首筋をひとつきする。
フィリアは気を失い、その場に倒れ込む。
「フィリア‼︎」
ロイスは咄嗟に銃を構えようとするが、もう既に遅かった。
それよりも速い速度でもう片割れの男が距離を詰め、腹部に短剣を突き刺す。
「うぐっ......!」
男は素早く短剣を抜き取る、それと同時に赤い血液が勢いよく溢れ出す。
ロイスは身体の力が急に抜けていくのを感じる、せめてもの抵抗で拳銃に再び手を伸ばそうとするが力が入らない。
「うっぐっ……ふ、フィリア……⁈」
ロイスはだんだんと視界が暗くなっていくのを感じる、これも2回目の経験である。
ロイスは男達はフィリアを担ぎ上げ、その場を立ち去ろうとするのを薄れゆく意識の中で見る。
ロイスは連れて行かせないと腕を伸ばすがそれは叶わず、意識が完全に暗闇に落ちた。