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風稜館

すいません、投稿が大分遅れました()




「ロイス、此処なんてどうですか?」



フィリアは風稜館と書かれた看板が貼られた建物に指を指す。

 お世辞にも綺麗とは言えない外見の古びた宿は、外見の割には人の出入りが多かった。彼等の服装から察するに下級の冒険者や行商人達が利用しているのだろう。

 


「きっとあそこなら宿泊料も安くてお財布にも優しいですよ、無駄遣いは出来ないですしね」


「嗚呼確かにそうだね、じゃあそうしようか」



二人は風稜館の中に入って行く。

 風稜館の中に入ると、カビ臭い匂いが充満する薄暗いフロントが目に入る。

 カウンターの男に泊まりたいと言う趣旨を伝えると「二人で銀貨二枚だ……」とか細い声でボソッと答える。



「これでお願いします」



フィリアはそう言われると金貨を一枚男へと渡す。

 

「金貨……」


男はロイスとフィリアを不思議そうに凝視する。

 どうやらこんなボロボロの衣服を纏っている二人が金貨を持っているのが不思議だったのだろう。



「まぁいい、ほらお釣りだ」



男は深く考える事でもないと考えたのか、表情を戻し、カウンターの下からお釣りの28枚の銀貨を渡してくる。

 


「部屋は二階の1番左だ」



男はそう言うと部屋の鍵を渡してくる。

 真鍮製の鍵は長年使われ、所々擦り減っており、この宿が如何に古いかを感じさせた。



 二人は部屋の中に入ると、8畳半程度の広さのカビ臭い部屋に質素な寝台の上に汚い布切れ、使い込まれた机、それ以外には何も無い様な小汚い部屋だった。

 しかしカビ臭いのにも関わらず、意外と窓から光が差し込んでおり、夕焼けが部屋中を赤く染め上げていた、カビ臭さの原因は他にもっとあるのでは無いかと思う。



「なんか、部屋までかび臭いですね……こんなんだったらもう少しお金払っていい宿に泊まれば良かったですね」


「そう……? いや、まぁそうだよね」



ロイスは村の家だったらこれ以上に臭いと言いそうになったが、街育ちのフィリアに行っても伝わらないだろうと思い、喉まで出かけたその言葉をグッと抑える。



「それで、ゆっくりしたいんですけど買い物に行きましょう、あんまり夜遅くなると店が閉まっちゃいますしね……」


「うん、そうしよう、流石にこの服も血生臭いし」



ロイスは部屋の窓から外を見る。

 日はほとんど沈み、夕焼けの赤色もだんだんと暗くなり、夜が訪れようとしていた。

 ここは宿の街の様だし、ある程度日が沈んでからも店はやっていそうな雰囲気はある、しかしそう遅い時間までやってるとも思えない。



「服以外にも食糧も買いに行きましょうよ、流石にロイスのスキルで出せる乾いたパンみたいなのだけだと健康に悪いですよ?」


「そうだね、ついでに食料と買いに行こうか」  



ロイスは風稜館を出て、フィリアに手を引かれるまま夕暮れ過ぎの街を進んでいく。

 フィリアはこの街の領主の館に幽閉されていたそうだが、基本的に牢の外に出た事はないらしく大した土地勘はないそうだ。

 しかし、この道は一回だけ通った事があり、ここをまっすぐ行けば商店街らしきものがあったとの事だ。



(にしても人が多いな、あたりは酒場ばっかだし……)



ロイスがあたりを見渡すと既に薄暗くなっていた。

 建物に目を向けると驚くほど人が多く、また酒場も多い。

 酒場から溢れる光が道を薄明るく照らしており、楽しげな笑い声が聞こえて来る。



「ここなんてどうですか? まだやってそうですし」



フィリアはそう言い指を指す。

その先にあったのは、道沿いにある石造りの建物だ。

 そのとき店前のランプに火をつけようと店主らしき男が姿を表す。



「おっ、お客さんかい? なら良かった、日が沈んでからもやっている服屋はウチくらいですよ、ゆっくり見て行ってください」



店主にそう言われ、二人は店内へと案内される。

店内は薄暗いながらもランプで照らされており、一応ながら陳列されている服をなんとか見る事ができた。



「お客さん、その格好から見るに冒険者でしょう? こっぴどくモンスターにでもやられたみたいですね」



店主がそう尋ねて来る。

ロイスは「はいそうですよ、モンスターに襲われて……」と答える。

あながち嘘ではないがそのあとパーティーメンバーに捨てられたなど口が裂けても言えない。



「それではこれなんてどうでしょうか? 冒険する上ではこれがいいかと」



店主はそういうと服を渡して来る。

黒をベースとした服に、上から羽織る薄手のコートと一体になった物である。



「いかがでしょうか? 少し値段は張りますが魔法の庇護が込められており多少の怪我は防いでくれますよ」

 

「そうですか、幾らくらいになりますかね?」


「金貨一枚になります」


「金貨一枚ですか……」



魔法の込められた服と考えれば相応の値段であろう。

 しかし、金貨一枚と言うのは簡単に出せるものでは無い、ロイスはフィリアの顔を伺う。



「良いんじゃ無いんですか? 此処でお金を出し渋っても仕方ないです」


「そうだよね、それじゃあフィリアが言うんだし、それください」


「お買い上げありがとうございます」 



店主はそう言うと、ロイスにその服を渡してくる。



「それで其方のお嬢さんをどう致しましょうか? 見たところ回復術師か魔物使いとお見受けしますが……或いは賢者でしょうか?」


「まぁ、そうですけど……なんでそうと思ったのですか?」



そう聞かれたフィリアの表情が少し険しくなる。

 その瞳は敵意を店主に対して向けていた、しかし敵意剥き出しなのは流石に不味思ったのかその表情は普段のものへと戻っていく。



「いえ、此方の方が服が血塗れなのに怪我が一切無かったので……薬草やポーションであんな早く回復するとも思いませんしね、だからと言い高度な回復魔法が使えるようにも見えませんし、そうなると命と引き換えにどんな傷ですら回復されるハーフスライムを使役したと考えたので」


「なるほど、そう言うことでしたか……中々に人を見る目がお有りみたいですね、にしてもとても詳しいみたいですけど?」


「私も昔は冒険者だったもので、ある程度は分かるのですよ」



店主は笑顔を浮かべながらそう言い放った。

 それを聞いて納得せざるを得なかったフィリアは表情を完全に緩める。



「そうなのですね、変なことを聞いてすいませんでした」


「いえいえ、私も余計な事を言ってしまいましたので、代わりと言っては何ですがお安くしときます」


「そうですか……ありがとうございます」



フィリアは陳列された服に目を向ける。

 フィリアは少ないながらも装飾が施されたローブを手に取る。

 冒険するうえで普通の服よりは使い勝手がいいし、ぱっと見で魔術師感も出るだろう。



「すいません、これはいくらくらいですか?」


「銀貨10枚のところですが8枚でお譲りします」


「それじゃあ、私はこれにします」



フィリアは店主と共にカウンターに向かうと、金貨と銀貨を渡し会計済ませ、後ろを振り向く。



「予備の服はまた近いうちに買いましょう、万が一お金が足りなくなるかも知れ無いですから」


「そうだね、そうした方が良さそうだね」


「そう言えばお二人方は何処かの宿にでも泊まってるのでしょうか?」


「近くの風稜館と言う宿ですよ」


「そうですか、此処はいい街ですのでゆっくりして行ってください」



店主とそう言った会話を交わした後二人は店を後にする。

 二人が店を退出した後暫く静寂が続く、男が口を開いたのはそれなりの時間が経過してからだった。



「……あいつらは近くの風稜館にいるそうですよ」


「そうらしいな」



店の物陰から二人の黒装束を纏った男が出てくる。

 まるで虚無から姿を表す様に完璧なまでに店内の端に擬態していた。



「それであの男は殺してもいいのか?」


一人の黒装束は片割れに問いかける。


「別にいいだろ……問題はあの魔族の女だな、今度は逃げ出せないくらいに痛めつけてやるか」


「いいねぇ、久しぶりに腕が鳴るねぇ!」



黒装束の片割れは店主に硬貨が詰まっている袋を渡す。

 それと同時に店主は満面の笑みを浮かべる。



「あ、ありがとうございます、こんな大金一年は遊んで暮らせますよ!」


「まぁ節約くらいはしろよ……それより早く行くぞ、失敗は許されないからな」


「嗚呼、いくか」



二人の黒装束は喜びを隠せずに鼻歌を歌い出した店主を横目に店を出て行く。

 二人の黒装束は闇夜に紛れながらロイス達の後を追って行った。  

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