ローデンブルグ
その日の夕暮れ、ロイスとフィリアはローデンブルグ近くの街道を歩いていた。
流石に鉄の塊で街に入るのはまずいので近くの岩陰の裏に隠してきた。
その時に判明したのだが、召喚した武器を消す事は出来ないようだ。そしてもう一つ判明したのだが、召喚する度により上位の物を召喚できるようだ。
しかし召喚したものが消せないとなると無闇矢鱈に召喚するのもやめた方がいいだろう。
街道を暫く歩いていると目の前に城壁に囲まれたそこそこの大きさの都市が目に見えてくる。
「そう言えば耳とか隠さなくてもいいの? 一応人間の街だし……」
「ええ、大抵の人は私の事を見てもエルフの近縁種と思ってくれますし、まぁ……そっちに精通している人にはバレるかも知れませんがその時はロイスの奴隷のフリをします、その時はそれらしい対応お願いしますね」
「そんな事急に言われても……」
正直そんな主人の様な対応をされろと言われても長年こき使われていたため、奴隷精神が刷り込まれているロイスには無理な話しだ。
「とりあえずその時はその時で乗り越えましょう」
「あぁ、うんそうだな……その時は頑張るよ」
そして二人は城壁を越え街の中へと入る。
街に入る際に門で兵士達に検問を受けたが何も問題なく通過することが出来た。
ローデンブルグの街並みは石造りの建物とそれに混じって無数の宿が立ち並び、冒険者らしき人物達が彼方此方を歩いていた。
そしてちらほらと、エルフや獣人の姿もある、村生まれのロイスとしては未だ慣れない光景ではあるが、それなりの規模のある街ならば当たり前の光景なのだろう。
王都やらそこらの大都市に比べれば大した事はないのだろうが、村育ちのロイスにとっては相変わらずその光景に圧倒される。
「どうしたんですか? そんな辺りを見回して……」
フィリアはキョロキョロしていたロイスに気づいた様で声を掛けてくる。
「いや、俺村育ちだからこう言う都会に来ると圧倒されるって言うか……驚くんだよ」
「そうですか? 私は街生まれなのでそうも感じてないんですけどね、まぁ無くなっちゃいましたけど」
と、彼女は特に表情を変える事なく語る、あまり彼女自身深く考えている様ではない様子だった。
とは言え彼女は声色はともかく、顔色は余り変わりがないので、何を考えてるのかはハッキリとロイスにはわかりかねないのだが。
「それで今日はどうします? 日も傾いてきましたし……宿に泊まるのも悪くはありませんね」
「いやぁ……その……」
フィリアはそう宿の方を一瞥する。
しかしロイスは宿に泊まれる分のお金どころか一銭も持ってないのだ。
ロイスは申し訳なさそうにフィリアに視線を合わせる。
「いや実はお金持ってないんだよね……」
「それじゃあ、なんでわざわざ街になんて来たんですか?」
「街の外よりは安全かなって……モンスターにも襲われないし」
「まぁそれはそうですけど、この街ではあんまり露出はしたく無いんですよね、この街の領主に私は狙われてるわけですし、やっぱり顔は隠しとくべきでした私の間違いです……すいません」
「いや、俺の方が悪いよ、なんも考え無しに来ちゃって……ごめん」
「仕方ないですね、じゃあ辺りの住人を殺して金品を奪うしかありませんね」
フィリアはそう言うと背中に背負っていたスナイパーライフルに手をかける。
「いや……流石にやばくない? ねぇ、それはまずいでしょ!」
フィリアはロイスがあたふたしているのを見て「フフッ、冗談ですよ冗談」と笑う、どうやらロイスを揶揄っていた様だ。
「ふぅ……良かった、フィリアなら本当に実行しそうでびっくりしたよ……」
「実は逃げてくる時にある程度お金を盗んで来たんですよ」
フィリアはそう言うと懐から数枚の金貨を取り出す。
金貨にはこの国で最も有名な国王である、ミストリア四世の姿が刻まれていた。
「これがあれば宿くらいには泊まれますよ……後は食料と服を買いましょう、私たち格好がボロボロですしね」
確かにフィリアとロイスの身に纏っている服はお互いにボロボロで新しいのが買う必要があるだろう。
特にロイスに関しては返り血や自分の血で赤黒く染まっており、さすがにこれを着続ける訳にはいかないだろう。
「ありがとう、助かったよ」
「まずは宿を探しに行きましょうか……」
「うん、そうしよう」
二人はまずは宿を探す事にした。