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鑑定者の日常



都市から遠く離れた、どこまでも広がる平野を進む冒険者達の姿がある。




顔立ちの整った青年のパルティア、体格の良い重装備で大盾を持った男ドルブ、凛々しい顔立ちの女騎士シルフ、魔道士風の少女ミリシア。

 そして尋常ではない量の荷物を持たされた銀髪の少年ロイス・ハルシティアの五人だ。



彼らは世界有数と謳われる、伝説的冒険者パーティー、不死鳥の面々である。

 ギルド長から直々に魔王討伐を命じられ魔族領へと向かう道中である。



「何やってんだよウスノロ」


「うっ……ごめんなさい」



一行のリーダーであるパルティアはロイスにそう吐き捨てるとわざとらしく大きな舌打ちをする。



「たっく、何やってんだよ! さっさと歩け無能がっ‼︎」


「そうよ、何へたばってるの? 置いてれたいの?」



それに追い討ちをかける様に、ドルブとミリシアが悪態をつく。



「第一なんで、鑑定者なんざ雑魚が俺らSランクパーティーに居るんだよ‼︎」


「なんで私見て言うのよ‼︎ 私は出てけって言ったのに出て行かないのは向こうなのに」



ドルブとミリシアの言い合いが始まる、と言っても彼等は別に本気で喧嘩してる訳ではなくちょっとした喧嘩程度である。



「うっ……ぬっ……」



二人が喧嘩をしている横で、ロイスは荷物の重さに耐えかねてその場に倒れ込む。



「おい、なに倒れてるんだよ、役立たず‼︎」


「ごめんなさい、もう、これ以上歩けないです……」


「あぁ? 調子乗ってんなよ、能無しのくせによぉ‼︎」


「うぐっ⁉︎」



パルティアは激昂しロイスの腹部を蹴り上げる、それも何度も何度も。ロイスが悶え苦しもうが血を吐き出そうがお構い無しだ。



「やめろ、パルティアはこいつを殺す気か⁉︎」



今まで黙っていた女騎士のシルフはパルティアとロイスの間に入りパルティアの暴行を止めさせる。

 シルフはこの中で唯一ロイスの味方と言える存在だ、実際ほかの面子はロイスに荷物を全て押しやってるがシルフだけが自身の荷物は自身で持っていた。



「ちっ……なんだよ、シルフはこいつの味方かよ」



パルティアはシルフに止められ、渋々暴力を辞めて悪態をつきながらその場を立ち去る。



「ロイス、大丈夫か? 何処が痛む?」



シルフは地面に倒れ伏せるロイスに優しく語りかける。

 そのときのロイスにはシルフが女神の様に輝いて見えていた。



「だ、大丈夫です……まだ、歩けます……」


「大丈夫な訳ないだろ⁉︎ 今日はもう休もう、問題ないよな、パルティア?」


「あーはいはい、騎士様の言う通りにしますよー、ドルブ、ミリシア、今日はここで夜営するぞ」




パルティアは面倒臭そうに周りに言いかける。どうやら今日はここで夜営する様だ。




ロイスは背負っていた数十キロ、或いはそれ以上はある荷物を地面に置く、しかしのんびり休憩する暇など彼に与えられない。

 ロイス以外の面子が休める様にテントを設営し、直ぐに夕食の支度をしなければ行けないのだ。それが終わったらドルブの肩揉み、パルティアのサンドバックにミリシアの機嫌取り、とにかくやることが尽きない。




テントを設営している最中にシルフが手伝おうか? と言って来たが丁寧に断った、自分のせいで彼女に変なイメージがつくのはごめんである。




それから暫くして日が暮れ始めた頃、料理を自分以外の面子に配る。勿論自分の分は無い、彼等が残した残飯で今日まで食いつないでいる。






「おい、このシチューなんか焦げ臭いぞ⁉︎ こんなもん食わせやがって、畜生がっ!」



パルティアはシチューをロイスに投げつける。



「……すみません」



シチューはロイスの顔面に直撃し、ロイスの1着しか無い服を汚していく。



「パルティア‼︎ 食べ物を粗末にするな、ロイスが一生懸命作った物だぞ⁉︎」


「シルフはなんでそんな屑に優しくするのよ? どうでもいいじゃない?」


「ロイスは仲間はだろ? それにこのパーティーに誘ったのはミリシアじゃないか‼︎」



シルフのその発言で、シルフとロイス以外の面子が笑いだす。

 特にパルティアに関しては大爆笑だった。



「おい、シルフ、それまじで言ってんのかっ⁉︎」

「ギャグだったら傑作だぞ、いいなそれ、おもしれー‼︎」

「ちょっとさ、確かにパーティーに誘ったのは私だけでも、ま、さ、か、スキルが鑑定者なんて思うわけないでしょ‼︎ ふふっ、面白ーい」


「ぐぬぬ……」



シルフは苦い表情を浮かべる。



「シルフさん、大丈夫です、弱い自分が悪いんですから……」


「ロイス、すまない……」



この世界にはスキルと呼ばれるものがある。

 言うならば生まれ持った異才の様なものだ、勿論世界有数とされる不死鳥の面々の持つスキルはどれもが強力なものである……ロイス以外は。




まずシルフは【聖騎士】である。

 歴史上このスキルを保持していた人材は3人しかいない。


そして幼馴染で、歳が二つ上のミリシアは【超級魔道士】である、此方も世界で数える程度しかいない。


そしてドルブは【神盾】である。これも最高位の一つに数えられるスキルだ。


そしてパーティーリーダーのパルティアは【全能】と言うわけのわからんチートスキルで、異世界から転生してきたと言う勇者と彼しか持ってないスキルらしい。



それに比べて、自分は探せばそこら辺にいる様な底辺スキルの【鑑定者】である。

 ありとあらゆる物の価値を判別できると言うスキルなのだが、それだけのスキルだ。肉体強化や魔力増強の恩恵などは一切ない。



あんなに仲の良かったミリシアもロイスの持つスキルが鑑定者と分かった瞬間ゴミを見るような目へと変わっていった。

 パーティーの皆んなも最初は仲間として扱っていたが、シルフ以外はもはやストレス発散のはけ口としている所がある。



自分は所詮はミリシアのコネで入った足手纏いのお荷物なのだ。




その日の晩、ロイスを除く全員がそれなりに暖かいテントの中にいるなか、ロイスはテントの外の草むらに直で寝っ転がっていた。

 テントの中からは楽しそうに笑う、ミリシアとパルティアの笑い声が聞こえてきた。



「うっ……いつか、いつか俺だって……」



ロイスは悔しさと虚しさが込み上げ、泣きながら眠りについた。




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