39話
ザクロと慌てて街へ戻る途中、ゴ、ゴォンと音が鳴り街の城門が崩れ落ちる。遠目に見える街の入口にはミリタリービー、緑小鬼やその上位種、オークらしき魔物がひしめき合っていた。街からざわめきが聞こえ、怒号が響き渡る。
魔物の集団に追いつくと同時に【鬼人の舞】を再び使用し、入口を塞ぐオークや緑小鬼の集団を倒していく。
倒した魔物の叫び声が聞こえたらしく、街の内側に居た警邏隊から声がかかった。
「外に居るのは討伐者か!?内側は飛行系魔物のせいで酷い状況だ!外の魔物をこれ以上中に入れる訳にはいかない!街中の魔法使い達が結界を張るまで、そっちは持ち堪えれるかっ!?」
「やれるとこまでやったりますよ!でもなるべく早くお願いします!」
そう言いつつも内心冷や汗をかく。連戦に次ぐ連戦で、体力はまだしも精神面が疲れ始めていた。ザクロにも疲れが見え、青龍刀モードになってくれているロクさんも、刀身が波打っていたりと変形を保てていなかった。
「すまんロクさん!もうちょいの間気合い入れてくれ!ザクロも、無理はすんな!キツかったら注意を引きつけるだけでもいいぞっ!」
「ぴぎゅ!」
「大丈夫っ!吾もまだまだ頑張れる!」
気合いを入れ直した2人と城門の魔物を倒しているとパキパキと音を立てながら結界らしき物が街を覆い始めた。警邏隊の人に呼ばれ、まだまだ居る魔物の群れを掻い潜り街の中に入る。
「すまない、助かった!私は副隊長のラントだ。協力感謝する!」
「黄星討伐者のイツキです。一体何があったんですか!?」
「元ギルマスのイルルク殿と現ギルマスのムルブ殿が言うには、この街に魔物を連れ込んだスラムの人間を捕縛しようとしたらしいのだが…。
人だったのが急に魔物化して咆哮を上げるとそのまま死んでしまったらしい。どうしたものかと考えていたら飛行系魔物が大量に襲撃してきて今に至るという訳だ」
「飛行系魔物はどうなりました?もしまだ居るなら早くしないと…」
「ああ、説明不足で申し訳ない。飛行系魔物はイルルク殿とムルブ殿、御二方が討伐者を引き連れてあらかた処理してくれた。ただ、倒し切る前に城門が破られたのは焦った、重ね重ね礼を言う。ありがとう!」
「良かった…他に魔物はーーーー…」
ゴッーーーーーーーーー……
バリバリバリバリィッ!!!!
いませんか?と確認しようとした瞬間、外から雷が落ちたような、とてつもない轟音が鳴り響いた。今しがた入ってきた城門を見るが異常は無く、疑問が浮かぶ。その疑問は悲鳴で解消された。
「な、何故結界が破られている!?くそっ、イツキ殿、失礼する!」
「俺も行きます!あの方向は知り合いが、大切な人達が居るので!」
薄氷が割れるように崩れ始めた結界は《緋色の架け橋亭》の方角だった。ザクロは少しでも体力回復させる為か、マンティコア状態になり俺の肩に乗る。ロクさんもスライムに戻りへばっていたのでそのまま軽く握り全速力で現場に向かった。
「ゴォルロロロロォォォォッ!!!!」
割れた結界と砕けた城塞の壁の傍には爛々と目を輝かせ、ダラダラと涎を垂らす15m程の竜が居た。更にその竜の近くには一回り程小さい竜が2匹、お零れを貰おうと飛び回っている。
言葉も出ずに驚いていると、1番デカい竜は避難し切れなかった人に狙いを定めると素早く噛みついて振り回し、湿り気を帯びた破砕音と咀嚼音を響かせながら飲み込んだ。振り回した際に飛び散った肉片に、小さい竜が飛びつき貪る。
喰われてしまった被害者は幸か不幸か、最初の一撃で頭を砕かれていたから苦痛を感じなかっただろう。だがそれとこれとは話が違う。
「クソが……!」
「イツキ殿、私が注意をなるべく引き付けておくのでイルルク殿かムルブ殿を連れてきて貰えませんか…っ」
油汗を流したながらラントさんが覚悟を決めた声色で懇願する。
「それはちょっと聞けないですね。呼びに行くならラントさんが行ってください」
「イツキ殿!お願いですからっ!下位飛竜とワイバーン2体はいくら黄星討伐者のイツキさんと言えども…!」
「うっせぇ、いいから行けっつってんだよ。ぶっちゃけ邪魔だ。行かないなら気絶させて放置するからな」
宣言した事が本気だと分かったのかラントさんはビクッとしたものの少し考え分かりました、と答えた。
「直ぐにイルルク殿ムルブ殿を探してきます。ご武運を」
「はいよ、ラントさんも気をつけてな」
軽く会釈をしながら走り去るラントさんを見送る。ちょっと口が悪くなったがいざとなったら装備解放をしなくてはいけない。見られたらそれこそ終わりだ。
そこまで考えて、目の前の竜達にそこまで恐怖心を覚えない事に気がついた。
「ザクロ、ロクさん、やるぞ。このクソ蜥蜴共をシバキ倒す」
「ん、分かった」
竜から目を逸らさずにザクロが半分だけ人化を解く。俺もロクさんに青龍刀化してもらい、本日3回目の【鬼人の舞】を発動しようとして取りやめる。
今の俺の専用武器化してくれているロクさんだが使用可能回数である残数が1と表記されており、この残数を使い切るとどうなるかが分からないからだ。俺の判断に対しロクさんが不服、と伝えてくるがダメだと答える。
「ロクさんで【舞踏】が使えなくなるだけならまだしも、もしロクさんに何かが起きるかもしれないだろ?」
「ぴぎゅ…」
「それにクソ蜥蜴共に舞踏なんぞ要らんだろ」
「ぴぎゅ!?」
青龍刀モードのまま驚くロクさんを笑いながら肩に担ぐ。緩んだ頬を引き締めて竜を睨むと爬虫類の顔で器用に笑っていた。
〝餌の足掻き〟とでも言いたげな竜を鼻で笑い飛ばし一息に接近すると、下位飛竜が口を開き飲み込もうとする。
飲み込みを避け、下位飛竜の後ろで人だったものを啄むワイバーンの内の1匹を首を断ち切って仕留める。もう1匹も、と振り返るとザクロが既に仕留めていた。
俺もザクロも居なくなり、空を食んだ竜は不機嫌そうに唸りを上げる。そんな竜の機動力を奪おうと足に斬り掛かったが、ギィンと金属音をたて弾かれてしまった。
体勢が崩れた拍子に尻尾が横薙ぎに振るわれふっ飛ばされる。
「父!?」
「ゲホッ、だ、大丈夫だ!つか硬すぎんだろ…!」
噎せながらそういえば鑑定をしていなかった事を思い出し【鑑定】をかける。目の前に映し出された下位飛竜のステータスを見ると、竜なだけあって中々のステータスだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〔名称〕飛竜《黒鉄鱗種》
〔名前〕ーーーー
〔性別〕雄
〔LV〕19
〔危険色〕黄★★★★★
〔種族〕魔物 《竜種》
〔固有スキル〕竜鱗Ⅹ
〔固有スキル〕竜顎Ⅹ
〔固有スキル〕竜の咆哮Ⅹ
〔ユニークスキル〕鱗皮再生Ⅹ
〔ユニークスキル〕外装昇華Ⅹ
〔スキル〕怪力Ⅹ
〔スキル〕貫通守護耐性Ⅹ
〔スキル〕麻痺耐性Ⅹ
〔スキル〕混乱耐性Ⅹ
〔スキル〕雷耐性Ⅴ
〔スキル〕身体強化Ⅲ
〔生命〕2035
〔魔力〕890
〔体力〕1013
〔剛力〕978
〔俊敏〕1005
〔守護〕3700
〔知性〕897
〔魔法〕無し
〔幸運〕1011
〔精神〕744
〔説明〕
飛竜の中でも下位種にあたる《黒鉄鱗種》だがユニークスキル【外装昇華】を持っている為、上位種の《妖銀鱗種》に近い守護ステータスとなっている。しかしそのユニークスキルのせいで戦闘経験が乏しい為純粋な戦闘力は他の《黒鉄鱗種》に劣る。ちなみに鱗は実際の黒鉄ではなく、あくまで強度が黒鉄並である。
〔称号〕
[暴れ竜][人族の天敵][逃げ腰]
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「あー、そりゃあ青龍刀モードのロクさんでも歯が立たないよな」
「硬い?」
「めちゃくちゃな。硬い奴は中にダメージを与えたらいいって古典的な話だけど俺は一寸法師になる気はねえし、どうすっか」
尻尾を横薙ぎに振り抜いたまま180°回転し、こちらに向かって突撃してくる下位飛龍をひらりと避けながら考える。
ロクさんから舞踏を使え、と伝わって来るが絶対にダメだと返す。ぴぎゅぴぎゅ文句を言うロクさんをスルーし、下位飛竜の攻撃を避けながら考えていると不意に思い出した。
「そういえば俺魔法使えたわ、なんで忘れてたんだっけ。ザクロ!一瞬だけ隙を作れるか!?」
「任せて!【威嚇】!」
ザクロが口を開くと大型の猫型肉食獣のような唸り声が下位飛竜に向かって放たれる。俺をターゲットにしていた下位飛竜だったが、ザクロの威嚇に対し注意を逸らした。
その隙に【ロケットランス】を発動し、ぶち込もうとするがーーーー……
ピロンッ
魔法名【ロケットランス】を使用するにあたって職業が適正ではありません。
「は?」
この間まで使用できていた魔法が使えなくなった事に気をとられ、ザクロの方に振り向いた竜の尻尾にどつかれた。バランスを崩すがそれどころじゃない。慌てて【挑発】を発動し、下位飛竜の注意をこちらに逸らす。一瞬だけ硬直が入るがすぐに解け、下位飛竜の噛みつきを躱した。
「父、どうしたのっ?」
「すまんザクロっ、なんか知らんが魔法が使えなくなってる!」
心配してくるザクロに謝りつつ魔法が使えなくなった事を伝えると気にしないでと慰められる。
有効打をどうするかと迷っていると、膠着状態に痺れを切らしたのか下位飛竜は翼を広げ飛び立とうとした。
そのまま帰ってくれるならと思ったが、視線は街の中を示しており諦めてないのが見て取れた。
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