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37話



泣き崩れた妖精貴族に流石に申し訳なくなり、どうしようかと悩んでいると、いい事を思いついた。小さい子供みたいに泣く妖精貴族をザクロに任し、アイテム袋から片手鍋と虹色鉛…ビスマスを取り出す。

鍋にビスマスを入れ、持ち手を掴みながら手の平の上に翳し、ガスコンロの炎をイメージしつつ【点火】と唱えると手の平と鍋の間から炎が溢れた。


しばらくするとじわり、と鍋の中でビスマスが溶けだし、完全に溶けきったのを確認すると金属のスプーンで表面に張った酸化膜を取り除いた。

みるみるうちに色が変わり始め、慣れた手つきで塊を取ると見慣れた、幾何学的な造形をしている。


その後もひょいひょいと鍋から摘み上げているといつの間にか泣き声は止んでいた。作業を中断し顔を上げてみると、妖精貴族が不思議そうな、訝しむような表情を浮かべている。


「どれか気に入ったのはあるか?」


「ぐすっ…そ、その右端の奴」


「これか、ちょっと待ってろよ」


鼻を啜る妖精貴族が選んだビスマスに、露店で買った滑らかな赤と黄色の布端切れを使ってブレスレットを作った。いわゆる編みブレスレットと言うやつだ、大きめのミサンガとも言おうか。

途中でビスマスも一緒に編み込んだ為少々重たいがまぁ許容範囲だろう。


「うちのロクさんがすまん。ちゃんと叱っておくが領主様も俺を攻撃しようとしたんだから、これで仲直りといかないか?」


「えっ、あ、ああ。し、仕方ないな、受け取らせてもらうよ。その…すまなかった」


最後はゴニョニョと小声で謝っていたが、片腕をグイッと出してきたのでブレスレットを結んでやると、顔を赤くしながら離れた。


「とりあえずっ!今日はもういい…。それだけイルルクに恩義を感じているなら裏切りも無いだろうし、これだけ暴れたから密偵にしては目立ち過ぎる。…信用してみるよ、下で昇級してから帰るといい」


「昇級出来るのか?確かに緑星になって以来上がってはいなかったけど、碌にクエストをクリアしていないからだと思っていたんだが」


「《四足郭公よつあしカッコウ》しかり四腕狒々クワトロゲラダしかり、正式なギルドからの依頼じゃないが、実力で言えば昇級の条件は満たしていた。

それに元々、次の昇級の話は出ていたみたいなんだが、私が止めさせていたのもある。

この国で生まれ、登録した討伐者はランクを上げ、上級討伐者ともなれば王への謁見だって望めるからだ。


他国の密偵疑いの者のランクをトントン拍子で上げさせ、王へ謁見出来る様にする訳にはいかなかった。

しかし先程も言ったように信用はしてみよう、と思う。もう昇級させても大丈夫だと、扉の向こうでニヤニヤしているイルルクや、青ざめているムルブに言っておいてくれ」


妖精貴族が言った通り、扉を開けるとニヤニヤと笑うイルルクさんと今にも倒れそうな顔をしたムルブさんが立っていた。


面白くなさげにイルルクさんを見た妖精貴族はそういう事だ、と言うと未だに気絶している騎士にポーションを飲ませ、不味さで呻く騎士を連れて帰り支度を始めた。

騎士は帰る際にイルルクさんを睨みながら帰ろうとしたが、俺が見ている事に気がつくと目を逸らし、そそくさと妖精貴族の後ろを着いて行った。


「イツキ、俺はお前の詳しい事情は聞かねぇ。…無ぇとは思うが、もし、お前が道を踏み外すってなったら俺が責任持ってケジメつけてやるからな」


イルルクさんにわしっと無造作に頭を掴まれた時はめちゃくちゃに怒られるか?と覚悟したが、力強く撫でながら独り言のように呟くイルルクさんに、俺は大丈夫ですよ、と返しながら強ばった身体から力を抜いた。


「イツキィィィ!!おまっ、お前ぇ!領主様に何してくれてんだぁ!?てか部屋っ!壁がへこんでるし折れた剣はそのままだしマジで何したんだ!?」


「あちゃあ。結構手加減したんですけど、壁へこましちゃいましたか…すみません。折れた剣はとりあえず引き取りますよ。それと、領主様に掴みかかりはしました。今はもうお互い様ってなりましたけど」


説明したらムルブさんは口をパクパクさせたあとガックリと肩を落とした。その後問題が無いならいい、と呟き紙にさらさらと何かを書いて渡してきた。

俺が受け取ったのを確認すると手を振りながら室内に入り、イルルクさんは苦笑しながら受付にその紙を渡して昇級して来い、と送り出してくれた。



受付に行くと何人かの討伐者が居たが、皆一様に忙しそうにしていた。


とと、何かあったのかな?」


「確かに騒がしいな。昇級ついでに聞いてみるか」


「ん、ついでに職業ジョブも変えたらどう?」


「そうだな、ならそれも含めて受付に行くか」


ザクロと話しながら受付へ向かうと、そちらもバタバタしていた。知らない受付嬢よりはと思いマルカさんの姿を探すとマルカさんも俺に気づいてくれた。


「すみませんお待たせしました。本日はどうされました?」


「昇級出来るようになったので、手続きをお願いします。それとこれ、ムルブさんから渡すようにと」


「ああ、遂に次へ昇級出来るようになったんですね。それならギルドタグも貸していただけますか?」


首に掛けていたギルドタグを外し、紙を渡すとマルカさんは確かにギルマスからですね、と受付の奥にあるズラリと並んだ箱にタグを戻し、2個横の箱からタグを取り出した。


「これがイツキさんの新しいギルドタグになります。今日から黄星ランクなのでこれからも頑張って下さいね」


「あれ?緑星の次は白じゃあ…それにコレ、黄星の3ですよね?何かの間違いなんじゃ」


渡されたタグには黄星と書かれ、星が3つ並んでいた。間違いだと思い尋ねるとムルブさんから黄星の3まで上げていいと言われていたみたいだった。

貰えるなら貰うかとそのまま受け取り、忙しそうな訳を聞いた。マルカさん曰く、魔物の動きが活発化しているらしい。

俺が蝶と出会ったラハの森でも普段は大人しいレッドキャップが大量発生し、緑小鬼ゴブリンと争ったり、他の地域でも次々と魔物同士の争いや大量発生、共食いが始まっているみたいだ。


「もしかしたらスタンピードの前兆かも知れなくて、職員も討伐者の皆さんも準備をしているんです」


「スタンピードですか、初めて体験しますが少し怖いですね。でも俺に何か出来ることがあるなら手伝いますよ」


わあも手伝う。強くなりたいし、ととばかりに任せられない」


やる気満々のザクロを撫でているとこれはどうですか?、とマルカさんから依頼書を渡された。

そこにはラハの森でポーションの材料である薬草の採取と、可能であれば魔植物のレッドキャップ《希少種》または《特異種ユニーク》の討伐と書かれていた。


「レッドキャップの希少種または特異種ユニークですか…。亜種なら見た事ありますが」


「それなら話が早いですね。亜種は緑色の頭でしたが、特異種ユニークは青色、希少種は紫色をしています。また、特異種ユニークと希少種はポーションの材料になるのですが、その代わりに戦闘力が上がっています。

リーダー個体にもなりやすいので、今のラハの森だと普段より多少見つけやすいかも知れません」


「なるほど、見つけやすくなっているから依頼書にも可能であればと書いてあるんですね。あ!そうだ、それと職業ジョブの変更もお願いしたいんですが大丈夫ですか?」


忘れないうちにと職業ジョブ変更をお願いするとマルカさんは職業ジョブ板を持ってきてくれた。手を翳して10秒程経つとピカッと光り、現れた一覧は相変わらず文字化けが付いた踊り子だらけだった。


そのうちの1つ踊り子(豁)を選ぶと文字化けが解析され、踊り子(歌)になった。戦闘には使えそうに無いと思ったが、《歌唱》と《癒声》、《舞曲作成》のレベルがⅩになり、更に新しく《混歌》と言うスキルも手に入った。


依頼は明日から始めても大丈夫との事だったので宿に戻り、新しく手に入ったスキルや久しぶりに物を作った影響で作成欲が出てきたのでそれを解消しているとユラちゃんが遊びに来た。


その際にザクロに首輪を、ユラちゃんにアクセサリーを強請られた。


ザクロには赤い布とルチルクォーツで首輪の様なチョーカーを、ユラちゃんには新たにビスマスの結晶を作り選んでもらって、結晶と布、それと金属片(騎士の剣だったもの)を使いバレッタを作った。

喜ぶ2人におやすみの挨拶を交わすと、ザクロからしゃがんでと言われたので訳も分からずその場にしゃがむと、ザクロはユラちゃんに目配せをした。


なんだろうと思う暇無く、顔を耳までを赤く染めたユラちゃんが俺の頬にキスをし、また明日、と慌てて部屋を出ていった。

惚ける俺にザクロが笑いながらユラちゃんと寝る事を伝えてきたが曖昧な返事しか出来ず、更にザクロはもう片方の頬にキスをし、おやすみなさいとユラちゃんの後を追った。


立ち上がり、自分の頭をぐしゃぐしゃと掻きながらしてやられた、と呟きつつ高鳴る鼓動と顔の火照りを無視し横になろうとすると、いつの間にポケットから出てたのか分からないロクさんがべにょっとベッドに広がって占領していた。余りの寝相(?)に口元から笑みが零れる。


気持ちが落ち着き、寝ようとしたがベッドがロクさんに占領されていた為もう一方のベッドでその日は眠った。

閲覧ありがとうございます。

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