32話
舞曲作成を使用し、保護された家族を癒すことが出来る曲を作ろうとしたがイメージを的確にして下さいと言うアナウンスと共に失敗した。
不思議そうな顔をするザクロを見ながら失敗した原因を考える。
「ああ、そうか」
ぽそりと呟く。俺が人を癒すイメージが出来ないから舞曲作成を使えなかったのだろうと推測する。確かにと納得しながらどうしたものかと考えているとザクロがどうしたの?と聞いてきた。
「いやなぁ…俺に人を癒すことが出来るとは思え無いんだよ。だから的確なイメージが出来ずに舞曲作成スキルが発動しなかったんだと思うんだ性格的にも癒しとは程遠いからな」
「そんな事は無いと思うけど…。それなら父、向こうで聴いてた曲は?よく父が口ずさんでてそれを聴きながら父の膝の上で日向ぼっこするのが吾は好きだった」
そう言われ頭に浮かんだのは、実家に居た頃猫達に囲まれながらゆったりしていた時に歌っていたとあるスマホゲームの主題歌だった。恐怖症のBGMとして有名だったが、テンポや言葉の言い回しが好きでよく口ずさんでいた。
確かにあの雰囲気は落ち着くような感じで癒されると共感し、久しぶりに口ずさみながら舞曲作成を発動するとすんなりと作れてしまった。
「普通に出来たな…。曲名は【旅人の歌】か。それじゃあ使うか、スキル【舞踏】」
ピロンッ
スキル【舞踏】を使用しました。
曲を選んで下さい。
【黒狂化の詠】
【旅人の歌】
「2曲以上あるとこうなるのか…。【旅人の歌】を選択」
【旅人の歌】を使用します。
日常スキル『癒声』を入手しました。
日常スキル『歌唱』のLvが一時的に上がります。
自動歌唱モード開始します。
!注意! 歌い終わるまで止まれません。
次の使用可能時間は5分後です。
これも自動モードなのか!?と驚いていると口が勝手に動き歌い始めた。
(ちょっと待てぇぇぇ!!こんな羞恥プレイは勘弁してくれ!なんで俺が歌ってんだ!?魔法的な感じで癒すだけでいいじゃないか!?あぁぁぁぁあ!!たっ、助けてくれザクロ!!)
焦りながらザクロを見るが当の本人は目を細め心地良さげにしているだけだった。
うそだろ!?と思いつつ保護した人達に目を向けると、最初は不思議そうな顔をしていたが歌が進む度に段々と落ち着いた表情になっていき、最終的にはザクロと同じく心地良さげに目を瞑っていた。
そして歌い終わると同時に俺は膝から崩れ落ちた。羞恥心故か《自家発電》が発動しているがお構い無しに自分の世界に引きこもる。
ザクロがあわあわしている気配がするが暫くはこのままにして欲しいと伝え丸まった。
◇
「お騒がせしました。あ、こちらお土産の串焼きとギルドからの補填金です。受け取りは商業ギルドでお願いします」
「は、はぁ、ありがとうございます。あの…先程の歌声からして、名のある吟遊詩人なのでは?何故そんなに恥ずかしがるので…ひっ!?あっ、いえなんでもありません」
さっきの事を頭から追い出してお土産と補填金を渡したが、旦那さんからキラーパスをされたので真顔になると怯えた顔で話題を取りやめた。
まず吟遊詩人なんてカッコいい職業じゃないから!というツッコミを飲み込み苦笑いをして部屋を後にした。
「あ、イツキさん!さっき歌ってたのイツキさんですか?」
「ゲフゥッ!」
2階から食堂に降りるとメアちゃんからそんな質問をされ思わず噴いてしまった。
なるべく触れないで欲しいと頼むと何故?と聞かれたので恥ずかしいからと答えると、更に何故と聞かれてしまった。
「あー、んー、自信が無いからかな?1人で歌うのは好きなんだけど人に聞かれるとどうしても昔をね」
「っ、ご、ごめんなさい。でも、安心出来るような素晴らしい歌声でしたよ?もっと自信を付けてもいいんじゃないですか?」
「スキルのお陰だよ。俺の実力じゃないからn
待って、もしかしてこの食堂まで聴こえてた?」
愕然としながら質問するとメアちゃんは目を逸らし〝はい〟と答えた。
ギギギと錆びた機械のような動きで周りを見渡すと食堂に居る客から注目を浴びていた。視線に耐えられなかった俺はザクロを連れてミーミルさんの場所へ素材を届けに行った。
◇
「酷い目にあった…宿に帰りたくない」
「父ごめん。調子に乗った」
とぼとぼと歩きながら弱音を吐くとザクロがしゅんとしながら謝ってきた。過ぎた事だからと返しながら頭を撫でているとミーミルさんの武具屋に着いた。
中からはカンカンと金属音が響いているから作業中なのだろう。声をかけるべきかと悩んでいると音が止み、作業場からミーミルさんが顔を出した。
「おお、イツキ君!無事に帰って来れたか。良かった」
「今日の昼頃に帰り着きました。素材、持ってくるのが遅くなってすみません」
大丈夫だと笑いながらアイテム袋ごと素材を受け取ったミーミルさんと目が合った。
しばらく見合わせていたが久しぶりに女性と目を合わせたせいか、段々と胃が痛くなって来たので目を逸らすと、ミーミルさんはふふっと笑みを洩らし
「しっかり克服出来たようだね」
と言った。その言葉に対し一瞬目を瞑り、今度は俺から目を合わせ、はいと答えると優しい笑顔で作業場へ案内された。
「さて、イツキ君が頑張って来てくれたお陰で装珠石の材料が揃った。この未完成の装珠石も遂に完成する時が来た。勿論見学するだろう?」
「待って下さい!わたしも見学したいです!」
「ユラちゃん!どうしてここに?お仕事あったんじゃないのかい?」
ミーミルさんが装珠石を取り出しながら見学を提案したその時ユラちゃんが勢いよく作業場に入ってきた。走ってきたからか息を切らすユラちゃんにミーミルさんが奥から水を持ってきてくれた。
お礼を言いながら飲み干し、落ち着いたユラちゃんは俺が外に出た事をメアちゃんから聞くとミーミルさんの所に行くのだと思い追いかけてきたそうだ。
「お兄さん専用の新しい装備なんですよね?最初に見たくて走って来ちゃいました。あ!お母さんにはちゃんと言ってきてますからね!」
「ラルさんに言ってあるなら大丈夫か。すみませんミーミルさん。中断させちゃって」
「うん?ああ、大丈夫だよ。よし、それじゃあ始めようか」
ミーミルさんはそう言うと装珠石を1口で飲み、次にアイテム袋から四腕狒々を出すと両手で包み込むように持ち上げそのまま握り潰した。
驚く俺達をよそに真剣な表情のまま更に強く握りしめ1分程たったその時、パキンッと乾いた音が響くと握っていた手を開いて見せてくれた。
そこにあったのはあれだけ大きかった四腕狒々がゴルフボールサイズの赤と黒に輝く珠になった姿だった。
「驚かせてすまない。こうなってからじゃないと素材として私が使えないんだ」
汗を拭いながら謝るミーミルさんに大丈夫だと伝えると、ありがとうと微笑みながら四腕狒々だった珠を飲み込んだ。
鉄剣を作った時のように両手を合わせて指を組み何かを呟きながらゆっくりと指を離し始めると、あの時のような熱気ではなく魔力とでも言ったら良いのだろうか。なんとも言えない圧力が光と共に激流の如く溢れ出した。
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