29話
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急いで岩山に向かうが、穴蔵には四腕狒々はおらず、代わりに人と思わしき遺体が積み重なっていた。
人と思わしきとしか言えないのはどの遺体も損傷が酷く、リンゴを丸齧りしたような噛み跡が顔にある遺体や、首や胴体を捻りに捻って遊んだような遺体が無造作に積まれていたからだ。
また、ゴブリンやレッドキャップなど人型の魔物や魔植物も弄んだようにバラバラにされて散らばっているのも人と思わしき原因だった。
その凄惨な現場を見た俺は敵地であるにも関わらず、吐きどうしだった。ザクロが周りを警戒しながらも心配そうに背中をさすってくれているが、吐き気は収まらない。
10分程してどうにか収まってきたが、それでも直視出来ない光景だった。
「う…げほっ。手遅れだったな……」
「ん。食べるためだけに殺した訳じゃない死体があるから進化じゃない。多分、父が言ってた異形種になってるか、なりかけてるかだと思う」
「四腕狒々は近くに居そうに無いな。岩山を迂回して村に行こう」
頷くザクロと共に岩山を迂回しながら村へと向かう。道中、折られて鋭くなった木で串刺しにされたゴブリンや、内臓を抜かれた人の遺体が所々あった。
また吐き気が込み上げるが、あまりの凄惨さに精神汚染耐性がⅤになり、最初よりは楽になった。そうこうしていると村に着いたが、四腕狒々に抵抗した人の破れた皮鎧や、折れた剣が散らばっていた。
村の中心では戦う力の無い村人を守ろうとしたのか激しい戦闘の跡があったが、抵抗虚しく食われたり弄ばれ亡くなった人達が織り成すように倒れていた。
村中を巡って生存者が居ないことを確認した俺とザクロが亡くなった人達の冥福を祈っているとおーい、おーいと人の声がした。
「ザクロ、どう思う?」
「分からない…生きている人の可能性の信じたいけど、前に父(とと)が倒した蝶々が吸収を覚えていたなら警戒はしとくべき。もしかしたら声を真似しているのかもしれない」
警戒心を滲ませながら呟くザクロに、頷いて同意する。すると村の中心で亡くなっている人達の中から影が飛び出した。驚く俺達を無視し、その影…村の子供は声のする方へ駆けて行った。
慌ててザクロと共に子供を追いかけ、声をかけるが子供は止まらず、崩れた建物の間から伸びた人間の腕に引き摺りこまれた。
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!」
「くそッ!やっぱりかよ!」
人間の腕だと思っていたのは、四腕狒々だった魔物の背中から生えた腕らしき物で、最初に見た四腕狒々とは別物の…正しく異形と呼べる姿だった。
狒々とは名ばかりの狼を思わせる長い顔に喉まで裂けた口、特徴的な4本の腕は変わらないが背中から更に4本人間の腕が生えている。
そんな化け物が今しがた捕まえた子供を人間の腕で掴みあげ、今にも引き裂かんとしていた。魔物の腕力に子供が悲鳴をあげる。
「させるかぁ!!ロクさん、変形を頼む!」
「ぴぎゅ!」
一瞬にして青龍刀に変形したロクさんを沙汰がけに振るい、四腕狒々から生えている人間の腕を全て切り落とす。子供が悲鳴をあげながら落下するがザクロがキャッチしたお陰で無傷だった。
腕を切り捨てられた四腕狒々だったが、痛覚は無くなっているのか叫び声もあげずにグルグルと唸りながら距離を取り始めた。
その隙に小声で【鑑定】を発動する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〔名称〕四腕狒々《異形種》
〔名前〕小規模実験体82号
〔性別〕雄
〔LV〕47
〔危険度〕黒★
〔種族〕魔物 《獣種
〔固有スキル〕吸収Ⅹ
〔固有スキル〕異形進化Ⅹ
〔固有スキル〕変態Ⅹ
〔スキル〕遠隔操作Ⅹ
〔スキル〕擬態Ⅹ
〔スキル〕並列思考Ⅴ
〔スキル〕遠吠えⅢ
〔スキル〕炎魔法Ⅰ
〔スキル〕炎耐性Ⅰ
〔生命〕708
〔魔力〕435
〔体力〕1003
〔剛力〕512
〔俊敏〕1079
〔守護〕507
〔知性〕ーー
〔魔法〕炎
〔幸運〕10
〔精神〕2
〔説明〕
四腕狒々の異形種。改造された際にリミッターを外された為パワーは出るが、知性は無い。周りの生物を捕食して身体的特徴やスキルを奪える。
〔称号〕
[不運][異形者]
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「小規模実験体82号…。クソ菩薩め、フラグ回収したじゃねぇかよ。見た感じ人間と狼系の魔物を喰ったな?」
冷や汗を流しながら呟くと器用な事に四腕狒々は狼の顔で笑った。どうやら人語を理解する頭はあるらしい。
ジリジリと威圧感が増す四腕狒々に向けて新しく手に入れたスキル、《強者の風格》を発動する。
《強者の風格》の効果である威圧を浴びせ、四腕狒々の威圧と相殺したその瞬間、ザクロの方から呻き声が聞こえた。
慌てて振り向くと保護した子供の背中からザクロの身長の2倍程はある毛むくじゃらの腕が生え、ザクロの首を締め上げていた。
そして隙を見せた俺に向かって四腕狒々はゲラゲラと人に似た狂笑を上げながら腕を振り下ろす。
「スキル【舞踏】」
ピロンッ
スキル【舞踏】を使用しました。
専用武器を確認…従魔【ロクさん】から専用武器化認証しました。使用回数1 残数3
【空白の歌】を使用します。【空白の歌】が変化しました。
【黒狂化の詠】を使用します。
痛覚が遮断されました。。
戦闘スキル『軽業』のLvが一時的に上がります。
戦闘スキル『黒鋼皮』を入手しました。
戦闘スキル『黒鋼皮』のLvが一時的に上がります。
戦闘スキル『呪い声』と戦闘スキル『感情炉 恐怖』が変化します……戦闘スキル『感情炉 激怒』に変化しました。
戦闘スキル『感情炉 激怒』を使用します。ステータスが一時的に上がります。
自動戦闘モード 開始します。
!注意! 曲が終わるまで止まれません。
次の使用可能時間は5分後ですーーーー……
アナウンスが途切れた瞬間、今までに聞いたことのない音量で曲が流れ始める。
「ガッッ!!??」
振り下ろされた2本の腕の攻撃を近づく事で避け、刃を返し四腕狒々の腕の下から上に向かって斬り上げた。
いきなり目の前に現れた俺に驚いた四腕狒々だったが、自慢の腕を2本とも斬られた事にムカついたのか、残りの腕で掴みかかり俺の首筋の肉に噛み付いた。
「グゥ"ルゲゲゲェ……!」
余程自分の噛みつきに自信があったのか噛みつきながら笑う猿野郎だったが、そんな事はお構い無しに手に持った青龍刀モードのロクさんで体を横一文字に斬り捨てた。
信じられないような物を見たような顔で上半身がずり落ちた猿野郎は、最後の足掻きとばかりに村人から奪った炎魔法を使おうと吼えながら魔法陣を浮かび上がらせるが、足を口に突っ込んで暴発させる。
炎耐性があるせいで口元を酷い火傷で済んでいるが、怯え始めた猿の首を撥ねてトドメを刺した。
頭が割れるような音量の曲で朦朧とする意識の中、ザクロを締め上げていた子供だった物の背中から毛の生えた肉塊が出てきた。
「グゥ"ルルルルッ!」
出てきた肉塊はザクロを放り投げると、今しがた斬り捨てた猿によく似た唸り声を上げながらミチミチと異様な音を響かせ、狼の様な体付きになるとその場から逃げ出した。




