26話
「…という事でして」
「なるほどなぁ。イツキ、おめぇさん変に厄介事に巻き込まれるな?四足郭公しかりマンティコアしかり」
我ながらそう思うが、巻き込まれるのは仕方ない。ちなみにイルルクさんには初めにグレーターヒール代金の金貨を払い(払われるとは思って無かったらしく立派になったと喜ばれた)、装備の為に四腕狒々を狩ろうとしてる事も伝えた。
「しかしよイツキ。俺を信用して装珠石の事を教えてくれるのはいいが、気をつけろよ?確かに装珠石は装備として見るならイツキしか使えねぇが素材として見るなら上等だからな」
イルルクさんに注意されて危険性に気づき、感謝した。これからは無闇に喋らないようにしよう。
「にしても四腕狒々を討伐か。最初に俺とイツキが見た奴はメスだったからオスの四腕狒々が居るはずだ。
オス自体は人里に降りてこねぇし、温和な性格をしているが飢えるとメスと同じように凶暴化する。
だが凶暴化する前日は弱り切っているから、あと5日程放置して俺がオスを狩りに行く予定だったんだが……まぁイツキが狩るってなら任せるか」
「そんな簡単に俺に任せていいんですか?もし俺が失敗なんかしたら…」
俺が口篭るとイルルクさんは最初出会った時のような鋭い眼光で俺を睨めつけ言った。
「イツキ、お前ちったぁ出来るようになったと思ったが俺の気のせいか?
さっき聞いた話じゃあそっちに控えてるマンティコアも連れていくって話じゃねぇか。まだガキのマンティコアを、だ。
お前はガキ1人も守れずに死ぬようなタマか?あ?違ぇだろが!!お前は俺が見込んだ討伐者だ!
事実、異形種って新種も四腕狒々並だったが倒したらしいじゃねぇか。実力を伴ってんならそれ相応の自信を持てやイツキィ!!」
ビリビリと部屋全体が震える声で怒鳴られ、ザクロとユラちゃんは怯えて俺の後ろに隠れてしまった。
そういう俺自身もあまりの剣幕に震えそうになるが、後ろの2人に情けない所は見せられないと歯を食いしばって耐えた。
ピロンッ
ユニークスキル《圧倒的強者の威圧》により《恐怖耐性》を入手しました。
ユニークスキル《圧倒的強者の威圧》により《絶望耐性》のLvが上がりました。
ユニークスキル《圧倒的強者の威圧》により称号[下っ端根性][無謀な勇者]が統合されました。
称号 [土方の強者]を獲得しました。《恐怖耐性》《絶望耐性》《苦痛耐性》のLvが上がりました。
ユニークスキル《強者の風格》を獲得しました。
「はぁっ、はぁっ……!」
「ふぅぅぅ、熱くなりすぎてスキルが発動しちまったみたいだな。すまんなイツキ、ちびっ子」
「い、いえ、大丈夫です……」
謝るイルルクさんには悪いが、俺の気分は上昇していた。危うく漏らすほど怖かったが、四腕狒々戦に使えそうな耐性スキルを得たからだ。
(《絶望耐性》と《苦痛耐性》のLvが上がったのは有難い。それに新しく手に入れた《恐怖耐性》も今の俺には必要だ)
「お兄さん…」
「父、吾あいつ嫌い」
その後イルルクさんにザクロが吠えたりユラちゃんが怖がったりとあったが、イルルクさんが謝り倒し俺が2人を慰めた事で2人はなんとか落ち着きを取り戻した。ちょうどその頃イルルクさんが注文した料理が来た為、4人で早めの夕食を食べ俺達はラルさん宅に帰った。
◇
帰りついた俺は部屋で1人、菩薩から貰った本を見ていた。この世界の一般的なステータスを知るためだ。ちなみにザクロは居ない。人型になれるようになってからはユラちゃんと一緒に寝る様にしてもらった。
「マジか…完全に化け物じゃねぇか」
そして俺はステータスを調べた事を後悔していた。平均的な市民は各ステータスが100から200前後。討伐者だと最低ランクの青星は200から300。中級と呼ばれる黄星ランクですら500を超えれば良い方だと書いてあった。
後悔はしていたが、同時に納得も出来た。踊り子なんて言う職業なのに黄星討伐者だったデハクとザパルをさほど苦労せずに倒せたからだ。
「だけどこれはあまりにも酷いな。自家発電が悪さしてるかと思ったが、イルルクさんにステータスの見方を教えて貰った時点で体力500とかあったもんな。このままじゃ邪神憑きに目をつけられそうだ…」
はぁ〜、と1つため息を吐いて本を閉じた。
(明日は四腕狒々の討伐準備に入るから早く寝なきゃな…)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
眩しい光が目に入り、意識が浮上する。
(あー、朝か?早いな)
〈〈残念ながら朝じゃないんだよねぇ〜〉〉
聞き覚えのある声に、微睡んでいた意識を覚醒させ声がした方に殴り掛かる。
ボヒュンッーーーー!!
〈〈あっぶな!?何するんだよ!?危うく君の拳で僕の顔が満開の薔薇になっちゃうじゃないか!〉〉
「チィッ!!当たらなかったか!」
〈〈殺意!?殺意の塊なの君!?一応僕って君を助けたんだよねぇ!?〉〉
「うるせー!俺に変な称号を付けた奴が言える義理じゃねぇんだよ馬鹿菩薩!!」
〈〈うっ、それを言われると…で、でも君だって僕のその…アレ、見たじゃないか!!〉〉
「ぐっ、仕方ねえ。これぐらいで勘弁してやるよ。で、なんでまた俺を呼んだんだ?」
やれやれと首を振る菩薩に俺は、俺を呼んだ理由を聞いた。てか冷や汗びっしょりじゃねえか。
〈〈最近さ、異形種って魔物倒したでしょ?アレ邪神憑きの手下だから気をつけてって警告しに来たんだよ〉〉
「はっ?手下?」
〈〈そうそう、手下。正確には手下が作った魔物の失敗作だね〉〉
菩薩が言った失敗作と言う言葉に俺は愕然とした。そんな俺を無視し、菩薩は淡々と話を進める。それは俺が討伐しようとしている四腕狒々も異形種にされている可能性があるという事だった。
〈〈そもそもおかしいんだよね、君が最初に出会った四腕狒々だって普段はあんな平原に出るような魔物じゃないし。
メスは凶暴だけど獲物を痛めつけるような頭は持っていないからね。考えられるのは進化しかけの個体か、異形種にされかけているかのどちらか〉〉
「またあんな死闘が待ってんのか…」
げんなりしながら呟く俺に菩薩はいや、と話を続ける。
〈〈僕が言っているのはあくまで可能性だから。ただ、1つアドバイスするなら討伐は早い方がいいよ。進化するなら大量のエネルギーが必要だから凶暴化が早まるし、異形種にされているなら凶暴化どうこうじゃない。既に被害が出てる場合がある〉〉
だから早めに討伐してくれるなら助かるよ。と、菩薩は言った。
「なぁ菩薩。俺この世界で生きていけっかなぁ」
〈〈どうしてさ?順調だと思うけど?〉〉
不思議そうな菩薩に俺は不安を話した。四腕狒々にボコられてしばらくは感覚が麻痺していたが、再戦する今になって恐怖が湧いてきたこと。
ユラちゃんやザクロ、ミーミルさんやラルさん達…繋がりがある人が増えたのは嬉しい事だが、いつかは裏切られたり失望されるんじゃないかと怯えていること。
〈〈ああ、君は地球で色々あったから軽く人間不信だったね。一応《精神汚染耐性》を持ってるみたいだし、周りの人間は善性が強い人間ばかりだから大丈夫だよ。君の不安通りにはならない。
四腕狒々に関しては僕のミスだから、ちょっとだけ手を貸そうかな?〉〉
「あでっ!?」
菩薩は手を貸すと言いながら俺に強めのデコピンを食らわせた。
ピロンッ
〈菩薩〉よりスキルが送られました。
『感情炉《恐怖》』を獲得しました。
「感情炉?恐怖って書いてあるが…」
〈〈そのスキルは基本的には役にたたないスキルなんだよね。恐怖を感じるとステータスが微増するってスキルなんだけど、どこぞの国が実験で兵士に覚えさせて戦場に投与したけど結果は惨敗。兵士は感情炉が反響し合って恐慌状態になって自軍に突っ込んでね。
でも1人で使うなら多少恐怖も緩和されるしステータスも微増するから君にはピッタリじゃないかな?〉〉
「そうか…ありがとうな菩薩」
菩薩の行動に素直に感謝を述べる。
〈〈別にいいよ。それじゃ、またね〉〉
ニンマリと笑う菩薩がそういうと足元が消えた。身に覚えのある浮遊感に再び俺の息子が悲鳴を上げた。
「菩薩ぅぅぅぅぅう!!覚えとけよお前ぇぇぇぇぇぇ!?」
そうして俺はまた穴に落とされ気を失ったのだった。
閲覧ありがとうございます。前話で出てきた装珠石にルビを振りました




