23話
タスクさんの説得とユラちゃんの泣き顔に根負けした俺は5年後までユラちゃんの気持ちが変わっていなかったら、結婚する事を約束した。
(どうせ5年もしたら俺より良い男を見つけて、古びて捨てるような人形を見る目をされるだろうしな)
そんな事を考えながら俺はギルドに居た。昨日の件で朝からムルブさんに呼び出されたからだ。
「呼び出してすまんなイツキ」
「おはようございます。ムルブさん」
「とりあえず俺の部屋に行くか。リィーリア、後で2人分の茶を頼む」
ムルブさんはそう言いながら2階に上がって行った。しかしムルブさんは気づいてないようだった。リィーリアさんがこの間のマルカさんを見るような目でムルブさんを見ていた事に。
(忙しい時間帯にお茶汲みを頼まれてイラッとしたんだろうなぁ…ブルっ…しーらね…)
俺は見て見ぬふりしながら2階に上がった。
◇
「さてイツキ、早速本題だ。昨日イツキが捕まえてくれたビッサーラ含む四足郭公の4人を締め上げて、アジトを聞き出して残っていたメンバーも捕まえるのに成功した。
てな訳でイツキには厄介だった四足郭公の討伐賞金とビッサーラ、ロード、ゲルナ、マーザンを売り払った金を用意した」
そう言いながらムルブさんが机に置いた袋はパンパンに膨れ重い音を響かせた……訳では無く4~5枚の硬貨がチャリンと入った小さな袋だった。
「中を確認しても?」
「もちろんだ。是非してくれ」
まさか銀貨数枚なんて事は無いとは思うが一応確認する。袋から取り出した硬貨は5枚あり、4枚は俺の手持ちの金貨と同じ物。もう1枚は金貨っぽい色だが金貨よりは色が明るく、掘られてる紋章も違う事から別な硬貨だった。
「それが今回の報酬、光金貨1枚と金貨4枚だ。長年この街を悩ませてきたくそったれな盗賊団の捕縛に多大な貢献をしてくれた事、感謝する」
ムルブさんはそう言いながらニヤァっと笑った。
「それにしてもビッサーラ達が売れたの早いですね。まだ昨日の今日なのに」
「ああ、この街を含む領地を治める上級貴族が買い取ってくれたからな。通常であれば1週間程時間が掛かるが今まで荒らされてきたから、見せしめにする為に誰よりも早く買ったんだろう」
コンコン
「失礼します。お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そこに置いといてくれ」
ビッサーラ達の処遇と予想よりもあった金を見て俺は清々しい気分でリィーリアさんが持って来てくれたお茶を飲んだ。
「ぶーーーーっ!!!??なんッッッだこれ!?」
前言撤回。最悪な気分だ。向かいあって座って居たからかムルブさんが噴き出したお茶(?)を顔面から浴びてしまった。
「何しやがるんですか!!?」
「ちょ、ちょっと待てイツキ!わざとじゃねぇんだ!」
「一体何が…はっ!まさか!?」
振り向くとハイライトを消した目をしながら笑顔を絶やさないリィーリアさんがそこには居た。
「どうかなさいましたか?」
「「い、いいえ…」」
「ならよろしいです。それでは失礼します」
「「はいっ!お茶をありがとうございましたッ!!」」
ハイライトを消したままのリィーリアさんを見送った俺とムルブさんは2人揃って息を吐いた。
「ちなみにムルブさん、何を飲まされたんですか?俺は普通にお茶でしたが……」
「……………多分だがあの味はポーション、それもそこそこ階級の高いヤツだ。クソっ、アレを飲みたくねぇからイルルクの兄貴からギルマスになるのを受けたってのに」
「ああ…ご愁傷さまです。じゃあ俺は帰りますね、報酬ありがとうございました。あ、それと今日は流石に依頼に行かないつもりなのでアイテム袋、返しておきますね」
「なっ!?自分で借りた物は自分で返せやイツキィ!?」
「いやぁ、魔王様が居る受付に行くのは流石にちょっと…。さっきポーションを噴いたので手打ちにしますので」
「まっ、待て!俺1人じゃ受付は無理だ!イツキッ、イツキィィーーー!」
絶叫しているムルブさんを置いて俺は部屋から出た。
(そりゃ忙しい時間帯に呼び出されたら一服盛りたくなるよな…毒じゃなかっただけムルブさんはマシだな)
◇
「にしても暇だな…市場にでも行くか」
簡単な昼食を食べた俺はビスマスを買った市場に向かった。そういえばとポケットに入れたタンタルスライムを取り出す。すると日の目を浴びれた事が嬉しいのか激しい縦運動をし始めた。もしかすると放置し過ぎたから抗議の可能性もあるが…。
一応謝りながら頭(?)を撫でると縦運動は収まった。やはり抗議だったようだ。
「忘れててごめんな〜、昨日は役に立ってくれたのに。なんか欲しい物あるか?」
プニプニしながら話しかけるとスライムは触手のような物を伸ばし、自分を指さした後俺を指さした。
「ん〜、何を言いたいのかわからねぇ…。すまん」
スライムは一瞬だけしゅんとしたが気持ちを切り替えたのか代わりに店を指さした。
「《銀細工店 ブラウニー》?いやまぁ金はあるから買ってやれるけど…付けたいのか?」
俺がスライムに聞くとまた縦運動を始めた。これは付けたいって事なのか?疑問に思いながら店に入った。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも」
店の中には愛想のいい男性店員と女性店員がいた。店の中のショーケースには大小様々な銀細工が飾られていて俺も興味が湧いてきた。
「ぴぎゅ」
「そ、それがいいのか?」
タンタルスライムが指さしたのは見た目は修学旅行で厨二病を発症してしまった中学生が買うようなドラゴンの描かれた盾に荘厳なモチーフの剣が収められたキーホルダーだった。うっ、頭が…。
(なんでこんなものが異世界に…俺の前に来ていた転生者達か?しかし何故このチョイスなんだ、もうちょいマシな物があったはずだろ。だけど欲しいと言われたものを買ってやらないのは流石に…)
「ぴぎゅ…」
「すみませんこれ下さい」
迷っている俺をみたタンタルスライムが「駄目だよね…帰ろう?」みたいな感じに鳴きながら扉を指さしたから思わず買ってしまった。
(だって仕方ないじゃん!かわいかったんだから!)
心の中でよく分からない言い訳を叫びながら会計を済ませた。値段は105000リル、金貨1枚と銀貨1枚だった。地味に高いが、頑張ってくれたスライムを労るためだと思えば安い。そう割り切って店を出た。
「ぴぎゅ♪ぴぎゅ♪」
買ったキーホルダーに頬っぺ?を擦り付けるスライムを見ながらなんでそんなに惹かれるんだろうなぁと呟く。その瞬間、鑑定が勝手に発動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〔名称〕攻守のタリスマン
〔階級〕希少級
〔用途〕ステータス強化
〔状態〕良好。剣が引き抜けるようになっている
〔相場〕金貨2枚
〔装備者〕無し
〔説明〕
勇者が伝えたシュウガクリョコウなる場所で見つけられたタリスマン…のレプリカ。素材は妖精銀が5%混ざっている銀合金。気休め程度だが死霊系の魔物にダメージが入る。インゴットの時点で妖精銀が混じっていた為店員は気づいていない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱり勇者かよ!案の定修学旅行の土産だし異世界でどんな文化広めてんだぁ!」
「お母さんあの人変だよ〜?」
「しっ!見ちゃいけません!こっちに来なさい!」
頭を抱えて絶叫していると通りがかりの親子から変質者扱いをされた。
(やべぇ、騒ぎすぎた…。帰るか)
帰ろうとして手のひらの上に乗せたままのタンタルスライムを見るとタリスマンを半分呑み込んでいる所だった。
「ちょぉぉおっ!!??」
「早く行くわよっ!?何しでかすか分からないわ!」
「お母さんあの人怖いよぉーー!!」
「ま、まずい今は逃げるか!」
急いでタンタルスライムをポケットに突っ込み、その場を離れた。報酬を貰った後に衛兵に捕まるとかマヌケでしかない。
「あっ、そういや俺称号に[マヌケ] って入ってたわ。はははははっ……」
何故か目から汗が溢れるのは何故だろう。逃げているからかな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「酷い目にあった…今日はもう帰ろう…」
逃げ回って辿り着いたのは何処か分からない路地だった。息をすると微かに血と生ゴミの匂いが漂ってくる。よく見れば周りに人は少なく、その少ない人達も襤褸を着た子供や痩せた体が目につく老人だった。
「それにしてもここどこだ?もしかしてスラムってやつか?」
引き返そうか迷っていると、建物の影から黒い動物と数人の男が飛び出してきた。黒い動物は俺が驚く間もなく 足の間に挟まると震え始めた。
「おお、猫ちゃんか。中々の美人さんだなぁ。あぁ、うちの猫を思い出すなぁ」
「おい!その魔物をこっちに渡せ糞ガキ!!」
「それは俺らの肉だ!!新入りが出しゃばるんじゃねぇ!弁えろ!!」
「新入り、今こっちに渡すなら前足か尻尾の肉なら分けてやるから早くしろ。こちとら気が短ぇんだ。かれこれ3日は食ってねぇからよ」
「馬鹿か!?なんで新入りに分けてやらなきゃいけねぇんだ!もし分けるならてめぇの分を分けろよ!!」
3人の男達は好き勝手言い始めたがそれよりも気になることが
「なんでこの猫が魔物って分かるんだ?」
「あ"あ"!?んなことはどうでもいいだろうが!馬鹿か!?馬鹿なんだろうな!!」
「うるせぇな…お前腹が減りすぎてイライラし過ぎなんだよ。新入り、そいつの背中と尻尾を見てみろ。背中にはバット系の魔物みたいな翼が生えてるし尻尾は砂漠地帯にいるスコーピオン系みたいな尻尾だろ?そんな猫なんか居ねぇだろ?」
「ほらさっさと渡せ!!じゃなきゃこのスラムで生きて行けなくしてやろうか!」
髭もじゃと落ち武者似のおっさんは無視して、1人だけ冷静なスキンヘッドの人の言った通り、猫の背中には蝙蝠みたいな羽とサソリみたいな尻尾が生えていた。俺が猫を見ていると視線に気づいたのか震えながら見上げてきた。
(ダメだ。この子は見捨てられない)
俺の実家は猫屋敷だった。病んだ母親が可哀想と言っては野良猫を保護してくる為いつも金欠で、親身にしてくれている動物病院の先生にも借金している有様だった。
しかし母親は可愛がりはするものの、あまり面倒は見ず(猫用品の金はどうにか渡してきたが)高校生の兄や小学生の俺で面倒を見ていた。そんな母親を見て育ったせいか俺は猫は拾わないと決めていた。
だけど中学生のある日、車に引かれそうな子猫を助けた。その子はかぎしっぽのつぶらな瞳の黒猫で余程怖かったのか震えていた。
しかし猫は拾わないと決めていた俺は飼い主さんか里親を探したのだが見つからず、仕方なく飼う事にした。
『ザクロ』と名付けた子猫を養おうと中学生ながらに小遣いを稼ぐ為に夏休みは親戚の農家や土建で働き、家に帰って飯をあげていた。
高校生になってからはバイトをいくつか掛け持ちして始めたが、学校にバレて退学処分を受けた。
その頃から弟達に小遣いをやってザクロを含めた他の猫達にも飯をあげるように頼んでいた。
学校を辞めた俺は足場建設の会社に入社して金を稼ぎ、実家に金を送っていた。猫に構いすぎたからかアレルギーを発症し、いつの間にか帰ることは無くなった。
過程はどうあれ母親と同じになっていたのに気づいたのは、ザクロが野良猫生活をしていた時にかかった猫白血病が進行して死ぬ寸前だった。
その時は離島に1週間程出張だった時で運悪く台風にぶち当たり帰れなくなった時だった。弟達からのザクロの容態が危ない事を聞かせれた俺が台風が収まった次の日の朝の早い便で帰った時には、リビングに冷たくなったザクロと寄り添うように寝る猫達、泣いている弟達だった。
後悔した。もう少し一緒に遊んであげていれば。実家から仕事に行っていれば。もう少し様子を見に行ってあげていれば。せめて死に目には会えたかも知れない。
結局俺も無責任に拾ってきた馬鹿な飼い主だったに過ぎない事に気づき泣いた。
(この子はザクロにそっくりなんだ。俺はもう飼う資格なんかはないが、コイツらに食われるぐらいなら何処か優しい飼い主を探してやるのがせめてものザクロに対する罪滅ぼしだ)
「もう大丈夫だ。渡したりはしないからな」
怯えた顔で見上げる猫に安心させる為にゆっくりと瞬きをする。すると多少は安心したのか、震えは止まっていた。
「てめぇ!!何勝手な事を言ってやがる!!」
「人様の肉を掠め盗ろうってのかァ!?」
「おい新入り、流石にそれは見逃せねぇ。どうしてもってなら骨の1つや2つ折られる覚悟しろよ?」
殺気立つ男達に俺は財布代わりの袋から金貨を1枚取り出して放り投げた。スキンヘッドの男はそれで手打ちにしようとしたが、残りの2人が財布全てを要求してきたので近くに立てかけてあった石で出来た分厚い板を殴り壊すと、顔を青ざめさせて逃げていった。
「さて、君を飼ってくれる飼い主を探さないとな」
「ミャーー」
ゴロゴロゴロ
男達が居なくなって安心した猫は、案外子猫みたいな鳴き声で鳴いた後喉を鳴らした。
「じゃあ帰りますか。猫アレルギーだからあまり抱っこはしてあげれないけど、首元にさえ来られなければ大丈夫だから」
そう言って俺は猫を抱き上げた。久しぶりに触る猫からは何故かザクロの匂いがした。
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