13話
今回は少し長いかも知れません
ユラちゃんに謝った後、食堂でククル君とユラちゃんの姉、メアちゃんに今日のおすすめをお願いした。
お母さんのラルさんに似た勝気そうな顔に、赤髪のポニーテールで歳は15~6だろうか。ただ、喋り方とかは凄く温和そうな優しい感じの子だった。
「今日は疲れたな…」
少しの間、食堂のテーブルに突っ伏しながらぼうっとしていると、カウンターが騒がしくなってきた。なにかあったのか?
何か嫌な予感がしたのでカウンターに見に行ってみた。
そこに居たのはでかい盾を背負い、黒い皮鎧を付け肌が脂でテカテカしていて太っている男と、刃渡り30cmくらいの短剣を2本ずつ腰に下げてニタニタと気持ちの悪い笑顔と、舐め回すような視線を浮かべている中肉中背の男が、ユラちゃんとククル君に詰め寄っている所だった。
「ですから、もうお部屋は全部、他のお客様でいっぱいで…」
「お嬢ちゃんさ、俺たちが誰か分からない?ギルドランクが黄星5つの討伐者様だよ?そんな俺たちが わざわざ"こんな"宿に泊まりに来てやったんだから、俺たちよりもランクの低い討伐者や、命を懸けて討伐をしない商人風情を追い出してでも泊まれるよぅにしなよ?んん?」
「おい、またデハクとザパルだぞ…」
「あの2人、性格がクズな癖にギルドランクが高いから厄介なんだよな。ギルドもなんで放置してるんだか…どうする、宿変えるか?」
「そうだな…目をつけられたら厄介だしな。アイツらも、昔はあそこまで酷い性格じゃなかったのにな」
「ひぐっ、うっ…うぅぅぅぅ〜」
ユラちゃんがニタニタと笑っている男に詰め寄られて涙目だ。しかもあいつ等が来たせいで、この宿に泊まっている客が宿を変えると言っているのを聞いて、とうとう泣き出してしまった。
イラッ
ユラちゃんを泣かした奴らの所へ動こうとしたが、先にラルさんが動いてしまった。
「ちょっとあんた達!うちのユラを泣かしてんじゃないよ!部屋は全部埋まってんだ、他所へ行きな!」
「あぁ!?客に向かって、それも黄の討伐者様にそれはねぇだろぅがぁ!!」
「んふっ!デハク、こんなクソみたいな対応をしてくる宿は、んふっ!しっかりとどうすればいいか、教えてあげなきゃいけないよねぇ?」
脂ぎった気色の悪い豚がなにかほざき始めた。そしてデハクと呼ばれた男はニタァと笑いながら同調する。
「おお、それもそうだなザパル。ならまずは従業員からしっかり教えこまなきゃなぁ?」
「んふっ!んふっ!でっででで、デハクっ!分かってるよね!小さい子は、んふっ!俺がっ!貰うからっ!俺が、俺が俺が俺がっ!」
あ"ぁ?今、コイツ等は何て言った?
「分かってるぜザパル、俺は女将を頂くからな。くははっ、今夜は楽しい夜になりそうだ、旦那が帰ってきたら見物だなぁ?」
「あんた達っ、勝手な事を言ってんじゃないよ!そんな事はさせないからね!」
「お、おねぇちゃん…」
「ククルっ…」
「んふっんふっんふふふ!おっ、お嬢ちゃんとそこの僕ぅ!んふっ!俺がっ!部屋で、じっくり教えてあげる『バキョッ!!』がら"ぁ"っ!???」
これ以上、コイツらの鳴き声を聞きたくなかった俺は、脂ぎった男の顔面に、渾身の力で拳をぶち込んだ。
殴った事自体には後悔はないが、体を殴った方が良かったかも知れない。拳が脂塗れになってしまった。
「うぇ…。ばっちぃ」
「なっ、ザパル!?てめぇ一体何しやがる!」
「うっせぇ、でかい声でギャーギャー騒ぐんじゃねぇよレッドキャップみたいな声出しやがって。いや、それだとレッドキャップに失礼か。レッドキャップはまだ討伐料が入るけど、お前達みたいな害悪は討伐料なんか出ねぇもんな」
「〜〜〜ッ!!」
デハクと呼ばれていたニタニタ顔の男が、怒りで顔を真っ赤にしながら、口をパクパクさせた後叫んだ。
「誰に向かって!お前は!一体、誰に向かって言ってんだぁ!?あぁぁ!!?」
「叫ばないと喋れないのかよ、お前に決まってんだろ見て分からないのか?ああ、それとも耳が遠くなったんですかね、ギルドランクが黄の討伐者様ぁ?」
煽るように討伐者様の所のイントネーションを、ねっとりとした声色にして喋る
するとさっきまで赤かった顔が、怒り過ぎてどす黒く変色してきた。
「俺はっ、職業があの四刃操術士のっ、黄星だぞ!?そんな俺をコケにしやがってぇぇぇ!!おいっザパル!てめぇも何のんびりしてんだ!早く起きろ!このクソ生意気な奴を教育してやるぞ!」
ザパルと呼ばれている脂ぎった男を、デハクが呼ぶが一向に起き上がらない。それが気になった別の宿泊客が、いつでも逃げれるように身構えながらザパルに近寄って行った。
「…?っ!おい!ザパルの奴気絶してるぞ!」
ざわりと辺りがざわめく。
(当たり前だろ。地球に居た時でさえ余興で軽く殴っただけで足場材をぶち抜いて監督達をドン引かせた俺が、こっちに来てさらにレベルアップした状態の今マジ殴りしたんだからな。しかも地味に自家発電でステータス上がった状態だし)
「それは本当か!?」
「嘘だろ!?ザパルって性格面を除けば、確か黄ランクでは上位の盾役だろ?顔面殴られたぐらいで気絶なんかしない筈だぞ」
「待て待て待て!つまりはザパルを一発で気絶させたあの男の実力は黄ランク以上って事になるぞ!?だけど俺は5年くらい前からこの街に住んでるけどあんな男が居るなんて聞いた事がない」
「別な街から来た高ランクの討伐者じゃないのか?」
「なら噂ぐらい聞いても良いはずだろっ」
周りがざわつき始めた中、デハクは有り得ない物を見る目で俺を見ていた。
「馬鹿な、ザパルの盾役としての実力は俺が一番分かってる…それなのに殴っただけで気絶させるだと?おまっ、お前は一体なんなんだよ!?」
おっとぉ?これはテンプレ展開か?ならば応えようテンプレ回答。ドヤ顔を忘れずに言い放つ。
「なんなんだと聞かれてもな、昨日ギルドに登録した職業が踊り子の青星討伐者としか言えないな?」
「「「「「踊り子ぉ!???しかも青星だとぉ!?」」」」」
ナイステンプレ!しかしデハクと宿泊客…ハモるなよ仲良しかっ!
「馬鹿言うなっ、男で職業が踊り子なんざ聞いた事がない!それに青星だとっ!?青星が盾役の、それも黄星のザパルを気絶させるなんて有り得ない!」
「別に職業とか星とか気にしなくていいだろ。ほら、次はお前の番だ、黄星の討伐者様よ!」
ユラちゃんを泣かせた罪とエッチな事をさせようとした罪は重いぞ?ラルさんやユラちゃんククル君を怖がらせたお前らの道はフルコンボだドンッ!刑な!!
「たかが青星の踊り子如きが、舐めやがってぇっ!」
デハクは唾を飛ばしながらそう叫ぶと腰に下げていた4本の短剣を、片手に2本ずつ持ちながら鞘から抜いた。
「やべぇ、デハクがキレたぞ!」
「ど、どうしたんだいきなり。そんなにあのデハクって奴の職業はやばいのか?」
「そういや、お前はまだこの街に来て浅かったな。アイツの職業の四刃操術士ってのは短剣使いの上位職業の1つでな、短剣技スキルの中でも特異級の技、クリティカル・クアトロ・ブローを出せるんだ。その威力はワイバーンの首を切り落とせるぐらいあるらしい!」
「ワイバーンの首を!?ワイバーンって黄の5はあるよな!?」
「そうだ、しかも厄介な事にデハクはブチ切れたら必ずクリティカル・クアトロ・ブローを出すんだよ…1日1回しか出せないらしいが、脅威って事に変わりはない。今はまだキレてるだけだが、いつブチ切れるか分からない。早く逃げるぞ!」
「お、おうっ!でもどうやって逃げるんだ?入り口に居るんだぞ?」
「あっ…」
少し抜けてる宿泊客の説明のお陰で、デハクの警戒すべきスキルを覚えた。それにしてもクリティカル・クアトロ・ブローか…
つくづく俺はクアトロってのに縁があるな。
「殺すっ、殺す殺す殺す殺す!」
「うわぁ、目が逝っちゃってんな。ユラちゃん!ククル君!ラルさん!危ないから奥の部屋に下がってて!」
「あ、ああ。だけど大丈夫かい!?相手は抜剣してるんだよ?」
ラルさんが心配の声を上げる。俺も地球にいた頃ならビビって居たかもしれないが
「今日討伐した黄の魔物に比べたら迫力とか全然無いから大丈夫だ!それより人質に取られたりしたら危ないから早く下がって!」
そう、ぶっちゃけ猿とか蜂とか蝶の方が充分怖かった。人型な分まだ殴りやすいし暴れる人間を取り押さえた事も1度や2度じゃないから大丈夫だ。
ちなみに暴れる人間ってのは酔っ払いが現場に乱入して資材をぶん回す事が何回があったからだ。酒は飲んでも飲まれるな。これ大事。
「…分かったよ、すまないね。もし無事なら最高に美味い飯をタダで死ぬほど食わせてやるからね!」
「ははっ、なら頑張らねぇとな!」
「おにぃちゃん頑張って!」
「お兄さん!そんな討伐者なんかぶっ飛ばしちゃえ!」
「やっべぇユラちゃんとククル君からも声援を受けたもはや負ける気はしないお兄さん張り切っちゃうぞ!!」
ついにやけながら早口で言い切ってしまった。周りの客からの視線が痛い。そんな俺に対しデハクは更にイラつき始める。
「クソがぁぁ!バラバラにしてやるぞ踊り子ぉ!」
「誰がバラバラにされるか!お前も脂ぎった仲間と一緒に寝やがれ!」
閲覧ありがとうございます。何か不明な点やおかしな点がありましたら御報告お願いします。
2023/03/02 星と書き忘れてました。申し訳ありません




