12話
解体所から戻り、素材の査定を待つ事しばし
「イツキさん、査定が終わりました。まず、レッドキャップの討伐代金が赤銅貨3枚です。次にミリタリービーの買取代金が6匹で大銀貨3枚と銀貨1枚、ミリタリービー ソルジャーの買取代金が星銀貨1枚、そして今回の《異業種》のサンプルの買取代金が少し色を付けさせて頂きまして金貨2枚になります。
この時点での合計額は288000リルですが、そこからイツキさんは明日までアイテム袋を借りたいとの事でしたので、使用料の10,000リル、大銀貨1枚を差し引いての合計額が278000リルです。ご確認ください」
今回の稼ぎは金貨になった。あんな思いをしたかいがあったようだ。
それとこの国の貨幣はリルと言うらしい。だから今日の278000リルは地球だと27万8千円って事だな。今日1日で地球の頃の月給を遥かに上回るなんて…と、感傷に浸っていたらマルカさんに声をかけられた。
「ところでイツキさん、今日の宿はお決まりですか?確か昨日だけ、ギルドで泊まりでしたよね?」
そうだった。今日からは宿を探さなくてはいけないんだ。しかし今はもう夜に差し掛かった時間帯だ。今から宿を探し回っても無いだろう。どうすればいいかと悩んでいたら、マルカさんが宿を紹介してくれると言う。
場所は《緋色の架け橋亭》、今日の依頼主だ。
どうやらマルカさんは、《緋色の架け橋亭》の女将であるラルさんと昔パーティを組んでいたらしい。だからマルカさんの紹介なら多分大丈夫だろうとの事だ。ついでにレッドキャップの素材を持っていって欲しいと言われたので、それを了承する。
暫くしてからマルカさんが紹介状を書き終わったので、俺はマルカさんから受け取った紹介状と、討伐したレッドキャップの素材。それとギルドで売っている簡易服を赤銅貨1枚で買い、簡易服を着てから《緋色の架け橋亭》へと向かった。
元討伐者ならあの蹴りも納得だと思いながら。
◇
「ここが《緋色の架け橋亭》か…デカイな」
道中は特に問題なく、すんなりと宿に着いたが、緋色の架け橋亭は予想以上に立派な宿だった。二階建の木造建築で屋根は素焼きの瓦屋根、立派な原木を縦に割った物に赤色で緋色の架け橋亭と書いてある。
稼いだ初日からこんな立派な宿に泊まって良いのかと少し気後れしながら中に入り、カウンターへ向かう。
カウンターには10~11歳くらいの、赤髪で軽くウェーブのかかった髪を肩ぐらいまで伸ばしている少女と、同じぐらいの歳の赤髪ショートで少し癖毛がある少年が居た。
さっきまでの初給料日に高い買い物をする時みたいな気後れしていたのが嘘のように、この宿に泊まりたくなった。
なるべく不審者に見えないように注意しながら話しかける。地球ではよく間違えられたからな。
「ちょっといいかな。今日、泊まりで入りたいんだけど部屋は空いているかな?」
少女の方に聞いてみたら、しばらく台帳らしきものをペラペラと捲り、その後に申し訳なさそうな顔をしながら
「ごめんなさい、今日は全部のお部屋がいっぱいです」
と言ってきた。それにしても…はあぁ、可愛い。しかし全部屋満室ならマルカさんが書いてくれた紹介状を見せてもダメかな?一応見せてみる事にする。
「それならここの女将さん、君たちのお母さんかな?その人に、この手紙を渡して来てもらってもいいかな。マルカさんからって言えば良いと思うからね」
「マルカさんからのお手紙ですね、分かりました!ククル、お客さまのお相手と、カウンターをお願いね!」
「え…あの、ユラおねぇちゃん、ぼ、ぼくがお母さんにお手紙持っていきたいな…」
「ダメよ!ククルは毎回そーやってわたしにばかりカウンターのお仕事やらせるんだから!たまには変わってよね。とゆーコトで、なれるためにも今回はククルがカウンターよ。いいわよね?」
「わ、わかったよぉ…。はやく帰ってきてね?ね?」
そう言ってカウンターの後ろにある扉の向こうへ行く姉を、涙目で見送る少年…うん、素晴らしいな。
そんな俺の視線が怖かったのか少年は更に涙目になっている。これ以上は少し不味いな。そう思い出来るだけ普通に、話しかけてみる事にした。
「ククル君だっけ?君は毎日、さっきのお姉ちゃんと一緒にカウンターで仕事をしてるのかな?」
「そ、そうだよ…?えっと、ユラおねぇちゃんとラルおかあさんと、ぼくが宿で働いてて、おとうさんは大工さんのおやかたってお仕事してるんだって…」
ビクビクしながら会話をしてくれるククル君に内心萌えながら怯えられている事にへこむ。諦めずに会話を続けよう。
「へぇ〜。ところで、ククル君はカウンターではどんな仕事をしてるのかな?」
「えっとね、お客さまからお金をおあずかりしたりとかね、お部屋のカギをおわたししたりするの!あとね、お部屋にもあんないするんだよ!」
先程まで少し怯えていたククル君だが、仕事内容を聞いたら自慢するように話してくれた。うん、凄く可愛い。
「そっかぁ〜、ククル君はちゃんとお仕事をしていて偉いねぇ。お仕事は大変な時もあるけどしっかり頑張るんだよ」
「うん!」
そんな話をククル君としていたら、カウンターの後ろの扉から、ライオンの鬣みたいな髪型をした赤髪の勝気そうな女性と、ユラちゃんが歩いてきた。その女性は俺をちらりとみた後、ククル君に抱き寄せながらこう言った。
「ククル、あんたこの不審者に何もされちゃいないね?あんたは男の癖にかわいい顔してるんだから油断してっと襲われちまうよ」
いきなりの不審者扱いに少しばかり怒りを覚えた俺はつい声を荒らげてしまった。
「初対面で流石に不審者扱いは酷くないか?一応客としてきているんだが!?」
「ふんっ。うちのククルをニヤけた顔で見ている男を、不審者と呼ばないでなんて呼ぶんだい!」
「これはニヤけた顔じゃねぇ!頑張ってるククル君を見守る紳士の顔だ!」
「何が紳士の顔だこの変態!ククル、あんたは隠れときな!」
「お、おかあさん?このおにぃちゃんはだいじょうぶだと思うよ?」
ククル君が庇ってくれただと。
君は天使か!
「ひっ…!」
「犯罪者みたいなニヤけ面してククルを怖がらせるんじゃないよ!」
「犯罪者みたいとか言うなっ、ククル君を怖がらせた事は謝るが流石に言い過ぎだぞ?!」
「そんな顔でククルを見るあんたが悪い!」
半分怒鳴りながら俺達が言い争っていたら、ユラちゃんが眉を釣り上げながら叫んだ
「お母さんもお客さまもそこまでにして!周りのお客さまに迷惑だよっ!」
ユラちゃんのその一言で我に返った俺とラルさんが周りを見渡すと、この宿に滞在している他の客がざわざわと俺たちを見ていた。
「ふぅ、やっと気づいた?」
「あ、ああ、ごめんよユラ…皆様、お騒がせして申し訳ありません。お詫びに当宿自慢の冷しエールをサービス致しますのでどうぞご賞味下さい」
ラルさんがそう言った瞬間、俺たちを見ていた客達から歓声が上がった。
「俺も申し訳ない…。少し熱くなりすぎたみたいだ。女将さん、足りないかも知れないがこれをエール代の足しにしてくれ」
そう言いつつ、今日の稼ぎの金貨を1枚渡す。装備は仕立てなきゃいけないが、金ならまた稼げばいい。今回の騒ぎでククル君とユラちゃんが不幸になるかも知れない可能性に比べたら安いものだ。
「なんだい、別に気にしなくてよかったのにさ。元々はあたしが手紙に書かれてた事を、あんたの顔見た瞬間に忘れて酷い事を言ったのが始まりだったからね」
「それでも俺がそれを流して普通に答えてればよかっただけだからな。それに実は、ニヤけた顔が犯罪級のは自覚してたんだ。故郷でも散々言われた。認めたくないけどな。とりあえず受け取ってくれ」
「…はぁ、頑固だねぇ。うちの旦那と良い勝負だよ。ならこれはありがたく受け取るとるさね。それと改めてごめんよ…。
そうそう、今日は泊まりに来たんだって?でも宿の方はいっぱいいっぱいだからね…どうしたもんか。今更追い出す訳にもいかないしね」
そうやってカラカラと笑いながら少し困った顔をする女将さんにククル君が話しかけた。
「おかあさん、ぼく達のおうちの、あいてるお部屋はだめかな?」
「ん?ああ、あの部屋かい。でもククルが襲われるかも知れない心配が」
「襲わないからな!?」
「ふふっ、冗談さ。でも旦那と相談してからでもいいかい?流石に男を1人、家に泊まらせるのをあたし1人じゃ決められないからね」
女将さんがタチの悪い冗談を呟く。まぁあからさまに冗談だと分かる言い方だったから構わないが…。と思った途端、ユラちゃんに「また誤解されるような冗談はダメでしょお母さん!」と叱られていた。グッジョブユラちゃん。
とりあえず礼を言い、許可が出たら泊めてもらえるようにしてもらった。
「飯はもう食べたかい?まだなら食堂で時間を潰しておいておくれ、お詫びに奢るよ。食堂でウェイトレスしている、あたしの上の子に言ってくれたら作るからね!」
「分かった、その上の子も赤髪なのか?」
「そうさ、旦那も赤髪であたしも子供達もぜーんぶ赤髪だよ。だからこの宿の名前は《緋色の架け橋亭》なんだよ」
自慢気に言う女将さんを羨ましげに見る。俺もそんな家庭を築きたいぜ。
「なるほど。おっと、そうだった。ギルドからレッドキャップの素材を預かってきたんだった」
「そういえばマルカからの手紙に書いてあったね。あんたが討伐してきてくれたんだって?ありがとうね。本当はあたしが討伐に行ってもよかったんだけど、旦那が「もし怪我でもしたらどうする」って聞かないものだからねぇ。ま、助かったよ」
「あー、でも旦那さんの言いたい事は分かるけどな。もし女将さんが死んだりなんかしたら、ククル君もユラちゃんも悲しむだろうしな」
女将さんを宥めると、腕を組みながら不機嫌そうに「バカにすんじゃないよ、危険色が緑なんかにはまだまだ負けないさね!」と言われた。
今回の件はギルドも注意喚起ぐらいするだろうし俺が先に言っても大丈夫だろ。
「それが今日は白と黄の魔物が出たんだよ。油断はしたらダメだと思うがな」
「白と黄!?あんたどこまでレッドキャップを狩りに行ったんだい!」
「どこって、ラハの森だよ。マルカさんと解体所のガルドの爺さんもびっくりしてたよ。普通は居ないんだってな」
「ラハの森に…そうかい、何か不吉だねぇ。でもギルドに報告はしたんだろ?ならギルドが対応するさね。さて、すっかり話し込んじまった。あたしは仕事に戻るよ。あんた…あんたって言うのも失礼だね、名前はなんて言うんだい?」
「そういえば教えてなかったな。俺は如月 樹貴、こっちだとイツキ・キサラギだな。苗字があるけど貴族じゃないから気にしなくていいよ。女将さんはなんて言うんだ?」
「あたしはラルだよ。苗字は無いさね。しかし珍しい名前だねぇ、もしかして倭国の出身かい?ってそれは有り得ないか。あはははっ」
「ん?なんで有り得ないんだ?名前の感じからするとその倭国って所に似てるんだろ?なら俺も倭国出身かも知れないじゃないか」
「おや、イツキは知らないのかい?倭国の住人は月之民って言う獣人族なんだよ。しかも普通の獣人族じゃなくて、人間の姿で全員が兎の耳が付いてるんだ、見た目で分かるよ」
「そうなのか…他にも聞きたい事が色々あるんだが良いか?」
「あー、そろそろ仕事に戻らないとユラに怒られそうだからね、また後で教えたげるよ」
そう言われ、ふとユラちゃんの方を見ると仁王立ちしながらじーっとこちらを見ていた。
…悪い事してしまったな
そう思い、ユラちゃんに頭を下げたら仕方なさげに息を吐いて、苦笑いしていた。
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