ゴンドリエーレの唄
ゴンドラに揺られ、二組の男女が水面に映る街を観ている。
「ねえ、ほら見て。街並みが水面に写されてるわ」
「本当だ、とても美しいね」
「ねえ、私とどっちがきれい?」
「そうだね、・・・・・この街並みかな」
ゴンドラは水に流されるように、静かに動き出す。
「でも」
大河に入り、大きな船が目の前に迫る。
「この指輪を着けた君の方がきれいだよ」
ゴンドラはそれをきれいに避ける。
「もう、ばか」
「受け取って貰えるかな」
「どうせ私は指輪一つで変わる女ですよ」
ゴンドラは余り人気のない、それでいて何処かあたたかい水路に入る。
「うっ、ご、ごめん」
「・・キスして」
「私を愛してるなら、キスし・・・」
「 」
「・・受け取って貰えるかな」
「もう、・・・ばか」
「本当に私でよかったの」
「君しかいないよ」
「本当に」
「ああ」
「私の事、幸せにしてくれる」
「もちろん」
「私より長く生きてられる」
「 」
「私、あなたが先に死んだら悲しいわ」
「全力で頑張るよ」
「ほんとに」
「ああ」
「約束して」
女は小指を差し出す。男も小指を差し出し、互いの小指を絡める。
「ゆびきりげんまーん、うそついたら、はりせんぼんのーます」
「ゆびきらない」
「どうしたんだい」
「もう少しだけこうしておきたいの」
ゴンドラはある場所で停まった。
「フフフ、ねぇ、もう一回キスして」
「どうしてだい」
「いいから」
いつの間にかそこは、街のとある橋の下だった。
「あぁ、なるほど、わかったよ」
この橋の下で口付けを交わしたカップルは永遠に結ばれるという。
このカップルの観光経路には無かった筈だが、ゴンドリエーレの粋な計らいだ。
ゴンドリエーレは唄を歌う。二人の愛が永遠に続く事を祈って。
それは、優しい唄だった。
ゴンドリエーレ:イタリア語で男性のゴンドラ乗り