第59話 最後の夢
――おれは荒野に立っている。
目線の先に、美しい街があった。人の賑やかな声がここまで聞こえている。
おれは、前にも同じような夢を見たことを思い出した。
これはザリオルでラスカさんに見せてもらった時の、過去の夢だ。
風が吹き、おれの黒い髪がなびいていた。
おれは指を立て、指揮者のように降った。
歪んで音が街中から聞こえてきた。
同時に、周囲の建物が爆発したように吹き飛んだ。
壊れた街を歩く。
おれと同じようでいて全く違う生物。似て非なる存在。
――人間が歩いている。
おれは右手を伸ばし念を込めた。
その人間は転んだ。当たり前だ。足が千切れたのだから。
倒れた人間へ近づいていく。
若い男がそれを阻んだ。倒れた人間の友人だろうか。
怯えている。
なのにおれからその人間を守ろうとしている。
――何故だ。分からない――。
――無意味だと思わないのか――。
――私は知りたい。人の心を――。
――この世の全ての知識が私にはある。なのに人の心だけは分からない――。
――仕方ない。魔族とはそういう存在だ。最初からそのようにできているのだ。そしてそれを追い求めるようにできている。それこそが魔族の存在意義。それこそが私の目的なのだから――。
映像が突然に切り替わった。
青年の体が赤く燃えるように光りを帯び始めた。
「はは、これは無意味でもなかったな」
「貴様……、謀ったな」
「まあな。でも教えてやるよ。最期だしな。……いいか。よく聞けよ。たった一つの真実。それはな――」
――青年の身体が世界と同化する。
赤の輝きがその場に満ちていく――。
「おまえは考えていないからだ」
考えていない?
「そう! おまえは何もかも知っている。でも考えていない。だから分からないのさ。人はみんな一生懸命考えて、感じて、生きている」
それなら、考えてみればいいのか。
「考えろ」
考えろ、か。
赤い世界が広がっていく。
体の感覚は消失し、残った思考もそこへ溶けていく。
意識だけが澱のようにそこへ残存している。
しかし、それもやがて薄れてきた。
自分の消失を悟った瞬間に、生存したいという欲求が湧いた。
理由など一つしかない。試してみたいと思ったからだ。青年の言ったことを。
思考が戻る。
――考えろ。
まだこの状況でも出来ることがあるかもしれない。
赤い世界に広がった、自らのマナをかき集める。
だがそれはもう自分のものではなくなっていた。
魔族の力と退魔の力、そして青年のマナが混在した全く新しい何かだ。
そのマナに残る肉体の記憶を探る。肉体を失ってしまったが問題ない。
要するに魔族の瞬間回復の応用だ。
再編成、再召喚には相当な時間がかかるだろうが、肉体も取り戻せる。
目覚めた時、一体どうなっているのか。ひょっとしたら青年の身体になっているかもしれない。
ぼろりぼろりと何か大切なものが消えていく。
これは魔人の知識だろうか。それとも青年の記憶だろうか。
分からない。分からないが、何を失っても、残さなくてはならないものがある。
人の心を知りたいという欲求と。
考えろ――青年のその言葉。
知識など消えても構わない。何故なら、また考えればいいのだから。
眠りにつこう。肉体が召喚される、その時まで――。




