第56話 精霊の呼び声
両開きの扉を開く。
特にロックが掛かっている感じはしない。扉はゆっくりと開いた。
「ペコ、おまえも来い」
ペコはクワッと鳴き、おれの後ろにトコトコとついてきた。
縦に長い空間が広がっていた。
ここは巨大樹の中だ。茶色の太い幹が絡み合って上へ伸び、螺旋階段のように上まで続いている。
かすかに上から人が集まっている気配がする。
――ここのどこかにラスカさんがいるのだろうか。
上から何かが落ちてきた。鳥の羽が落ちるように、ふわりふわりとこちらに向かってくる。黄色い小さな光の点だ。光点が揺れながらこちらに向かってきている。
――これは。
光は空中で止まると、円を描くように回転しながら上下に動いた。
何故かその光を見ると、おれを呼んでいるような気がした。
「ペコ、あの光を追っておれを運べるか?」
ばさりと羽を動かし、おれの上へ飛びのった。
がしりと肩を掴まれる。
回転する光の点は、まるで見計らったように、勢いよく上昇を始めた。
光りを追って飛翔する。
それは、どこか幻想めいた光景だった。トンネルを潜り抜けていくような、あるいは吸い込まれているような、落ちていくような。
更に上ってゆき、螺旋階段の果てに到着する。
黄色い光はそこにある扉の前でうろうろとしていた。
着地して、扉を勢いよく開いた。
光は吸い込まれるように奥へ向かっていった。中は通路になっている。
通路を走る。
うねうねと曲がりくねった緩やかな登り坂になっていた。
通路はいくつもの分岐点があった。
黄色い光を追い、迷宮を進んでゆく。
やがて突き当りに扉があるのが見えた。
黄色の輝きはそこで待機している。
扉を両手で押した。
ふいに眩しさを感じ、片腕で目元を隠した。
そこは広い空間になっていた。
いくつもの黄色い光点がふわふわと浮いている。おれたちを案内してくれた光も、ゆっくりと浮かびあがって、その中に混じっていった。
誰かが部屋の中央に座っている。
――もしかして、この人が。
小さな老人が深い瞳を浮かべこちらを見ていた。
たれた頬や皺の深さから、大分を歳を取った人なのだと分かった。
黒い髪が胸の辺りまで伸びている。そして瞳は黒い色をしていた。
近づいてゆく。
「貴方がラスカさんですね」
「待っていましたよ、クロ」
しわがれた声だった。
枯れ木のような細い腕をこちらに差し出し手招きした。
近づく。
「記憶を取り戻しに来たのですね」
おれは深く頷いた。
「助けたい人たちがいるのです」
ラスカさんは目を細めた。
「私自身に力はありません。この老いた肉体では、ここから離れることすらできないのです。ですが、精霊が貴方に道を標してくれるでしょう」
「精霊?」
「それこそが私の異能。精霊に力を借りることができるのです」
おれの周囲に黄色い光が集まり始めた。
「強く願うのです。その願いが強ければ強いほど、精霊達は応えてくれるでしょう」
「願う……」
――守りたい。
そう心に言葉を浮かべた時、黄色の輝きが強くなった。
そして――。
全身が暖かいものに包まれる心地よさを感じた。
視界が黄色の光に染まる。不思議と眩しくはない。まるで水中を漂う木の葉のように、ゆらゆらと、その心地よさに身を委ねる。
ふいに視界が鮮明になった。
世界が変わる。
――おれは荒野に立っている。
目線の先に、美しい街があった。人の賑やかな声がここまで聞こえている。
そしておれは、前にも似たような夢を見たことを思い出した。
これはあの夢の少し前の出来事だと、何故だか理解することができた。
風が吹き、おれの黒い髪がなびいていた。




