第55話 先導士ルーク
おれは今、何を聞いたんだ。
「嘘をついて悪かったな。銀髪の男は死んじゃいない。そしておれは奴から全ての情報を聞き出した。この目でみるまで信じられなかったが、まさか本当に人造の魔人だったとはな。正直、驚いている」
何を言っている。
「クロ、そこをどけ。その魔人を殺す」
何を言っている?
ルークさんがこちらへ近づいた。
その形相には明確な殺意が込められていた。
「顕現せよ――ジャスティス」
まるで悪夢を見ているような気分だった。
黒い波動が彼の体を覆った。
白い閃光がバチバチと瞬いている。
「ルークさん、冗談だろ」
「黙れ」
ルークさんが一歩こちらへ近づいた。
「クロ……」
ルナは座り込んでいた。
この圧倒的な闘気に耐えられないのだろう。
「こんなことをしてる場合じゃない。ロキが危険だ。早く行かないと――」
「黙れと言ったんだ」
「嘘だ……。貴方はルナを助けてくれたじゃないか」
「早くどけ。おまえがそこにいるとその女を殺せない」
「…………っ!」
その言葉がおれ《おれ》の心を揺らした。
――目を背けるな。
これは悪夢なんかじゃない。現実だ――。
おれは戦わなくてはならない。
ルークという先導士と。
「ふざけるな」
「ふざけているのはおまえだ、クロ。魔人を庇う先導士がどこにいる」
ルークは両手の指を広げ、こちらへ突き出した。
「ルナは人間だ!」
「知っている。でも、事情を知らない全ての人間からすれば、そいつは魔人なんだ」
ルークは笑った。
そして優しい瞳で目でおれを見つめた。
「おまえなら分かるだろう? 頭を使え、クロ」
ルークの両手の中央、その中心に、黒いエネルギーが渦を巻きながら集約されていく。
「ルナはロキを救うためにこの姿になったんだぞ。誰かの為にルナがこの姿になった意味があんたに分かるのか!」
「最後だ。どけ。断るならおまえも殺す」
「いい加減にしろ! 早くしないとロキが――」
ルークの眉がびくりと揺れた。
「残念だ――。アクアブレス」
集約されたエネルギーが、途端に爆発的な勢いで広がった。
目の前が暗転する――。
飲み込まれる。
そう思った瞬間。
その暗黒が白い輝きが祓った。
目の前に赤髪の女性がいる。大きな三角帽を被り、片手には杖を持っていた。
この人は――。
「ドロシーさん……」
ドロシーさんが杖を地面に立てた。
杖の先にある青白い球体が輝いた。
「フォース・ジ・ワー(光りの障壁)」
そう呟くと、半透明の光の球体がおれたちを包んだ。
「アクアブレスを防ぐとは――。そうか、貴女は。貴女までその魔人を守ろうとするのか」
「ふん、最低ね。女の子に向かって」
ドロシーさんがルナに優しく微笑んだ。
「ドロシー様……」
「安心しなさい。守るという一点においてなら、あたしの力は先導士を凌駕する」
ドロシーさんは次におれへ目線を向けた。
「でも、長くはもたないわ。クロ。ラスカ様の所へ行きなさい。クロノの力を取り戻せば、あの先導士にだって負けない」
「――ドロシーさん。ロキという少女がそこの建物の中にいるはずなのです」
風を切る音が聞こえた。
刃物のような水流がこちらへ飛んできている。水流は白い球体が触れた瞬間、音とともに弾けて消えた。
「分かったわ」
ドロシーさんが杖を地面に突き刺した。
先ほどと同じ呪文を呟く。
「これで大丈夫よ。結界を張ったわ。その建物にいる限りは、例え魔人が来ようが建物が崩れようが、傷一つつかない。中から少女が出ていくこともない」
ロキがいるはずの建物を、巨大な球体が覆っていた。
なんて頼もしい人なんだろうか。
「ペコ! クロを運びなさい!」
上空から羽ばたく音が聞こえた。
あの鳥がおれの肩を掴んだ。
ぶわっと浮上する。
球体を抜け、地面を離れていく。
ルークがおれを見上げている。
冷たい目をしていた。
「記憶が蘇れば、おまえも魔人を守ろうとなどしないだろう。さっさと行け」
「あんた……」
歯を食いしばり言葉を飲み込んだ。
今、この男に何を言っても無駄だ。
おれにできるのは――。
――ルナ、ドロシーさん。
待っていてくれ。
クロノの記憶を、取り戻しに行く。
ペコが鳴いた。
急上昇する。ひゅう、と冷えた空気を切り裂く音が鳴った。
巨大樹へ近づいてゆく。
遠くで見るよりもずっと大きい。高さはもちろんだが、近づくとその太さに驚愕した。
やがてペコが高度を落としていく。
おれは大木の根元へ着地した。
――急がなくては。
大木の根元に、木の扉があるのが見えた。




