表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

第52話 ハイライン領の夜、三

 日が変わり、次の日の夜。

 おれたちはハイライン領最後の街に到着した。


 ようやくここまで辿り着いた。


 なるべく大きめの宿屋を彼女たちに気付かれないように探した。

 ここのところ寝不足が続いている。昨日は酔ったヴェルナリスがおれのベッドに入ってきて、また眠れなかったのだ。


 受付を終えたヴェルナリスが戻ってきた。

 ついてない。何と二人部屋が二つしか空いていないらしい。もう宿屋を探すのも時間的に難しいだろう。

 こんなことなら最初の宿屋にしておけばよかった。高かったけど。


 おれはレビアと同じ部屋になったらしい。


「二人にお願いして、一緒の部屋にしてもらいました」


 恥ずかしくなるようなことをレビアは言った。


 とりあえず部屋へ入ってみることにした。

 ベッドは離されているようだ。


「クロ、シャワーを浴びますか?」

「うん」

「ではお湯を出してきますね」

「ありがとう」


 レビアは一度シャワールームに入りすぐに戻ってきた。

 お湯の出る音が聞こえてきた。


「では一緒に入りましょうね」

「え?」


 聞き間違いだろう。

 と思ったら、レビアがメイド服を脱ぎかけていた。


 がしっと腕を掴む。


「お、おい」

「何ですか?」

「何故脱ごうとする」

「わたしも一緒に入ります」


 だいぶ前に同じ台詞せりふを聞いた記憶がある。

 懐かしい。

 そうか。おれももう懐かしむということができるようになったんだな。


 じゃなくて。


「駄目ですか?」

「だ、駄目です」

「残念です……」


 諦めてくれたようだ。


「でも。クロに見てもらいたいものがあったのです」


 胸元を広げるようにした。


「見てください。刻印、消えましたよ」


 その言葉を聞いて、背けていた目をちらりと向けた。


「本当だ」


 鎖骨の下のあたりにあったはずの刻印が消えてきた。


「クロとドロシー様のおかげです」

「レビアが頑張ったからだよ」


 レビアはにこっと笑った。


「もっと下も、見てみますか?」

「し、下?」


 どういう意味だ。


「わたしの胸、見てみますか?」

「ぶっ!」


 顔を赤らめて、もじもじと床を見つめている。

 恥ずかしくないわけではないようだ。


「な、何故……」

「ドロシー様が男の人は女性の裸を見ると喜ぶと教えてくれたのです」


 あ、あの人。何を言ってるんだ。


「それにクロはドロシー様の胸をちらちら見てました」


 否定できないのが悔しかった。

 そりゃ見るだろ、男なら。


「クロにはわたしの出来ることを、全部してあげたいのです。クロがしてほしいこと、どうかわたしに全て言ってください」


 レビアは一歩おれに近づいた。


「わたしにはどんなことを言ってもいいんですよ。何でもしてあげます」

「レ、レビア?」

「クロは恥ずかしがり屋さんなのも知ってます。でも大丈夫ですよ。ルナとヴェラには内緒です」


 レビアが頬を染めたまま上目遣いにおれを見て、


「今のわたしに刻印はありません。わたしは今、自分の心でそう言っているのです」


 優しく微笑んだ。


 ま、まずい。オルハルトの屋敷で似たようなことがあったが、あれとは全然違う。

 何と言うか、頭がくらくらする? これが誘惑というやつなのか。


「と、とりあえず! シャワーを浴びてくる」


 逃げるようにシャワールームへ逃げ込んだ。

 何故あんなに積極的なんだ。ドロシーさんのせいか?


 大丈夫かな、今日の夜。


 シャワーを浴び終えて部屋へ戻り、レビアと交代する。


 とりあえず、いつの間にかくっつけられていたベッドを元に戻した。


 そうだ。今のうちに寝るか。寝てしまえばいい。


 ベッドに潜り、布団をかぶった。

 だが案の定眠れそうになかった。かすかに聞こえてくるシャワーの音と、さっきの出来事のせいだ。


 シャワーの音が止んだ。

 しばらくしてレビアが部屋へ入ってくる音が聞こえた。


「クロ、眠ってしまったのですか?」


 返事をしないでいると、レビアが明かりを消した。


 そして、何故かおれのベッドに入ってきた。


「あ、あの? レビア?」

「起きていたのですか?」

「何故おれのベッドに」

「ルナとヴェラばっかりずるいです。わたしも一緒に寝たいです」


 ……知ってたのか。


 レビアはおれの背中にくっつくようにしてベッドに入った。


「クロ、ごめんなさい」

「え?」

「クロのことを傷つけてしまいました」


 後ろから服の中に手を入れられる。

 ひんやりとした冷たい手が、おれの腹の傷跡を触った。そこはレビアに斬られた場所だった。


「そんなこと気にするな」

「はい。でも謝りたかったのです」


 優しくでるように傷口を触れている。

 くすぐったい……。


 レビアの手が徐々に下がっていく。

 へその下をなぞり、そして指の先がズボンの隙間へ――。


「あの、くすぐったいんだけど!」


 とつい大きな声を出してしまった。


「あ、ごめんなさい……」


 レビアが手を離した。

 あ、危なかった。


「クロ、こっちを向いてほしいです」


 おれは振り返った。

 すぐ目の前にレビアがいる。息がかかるくらい傍に。


 ただそれだけで胸が高鳴った。


「抱きついてもいいですか?」

「う、うん」


 レビアはゆっくりとおれの胸に顔を埋めた。


「抱きしめてほしいです」

「こ、こうか?」


 言われたとおりにする。


「心臓の音が聞こえます」

「うん」

「落ち着きます」

「そっか」

「あとでわたしも抱きしめてあげますね」

「い、いいよ」

「不安なことはないのですか? それが少しでも和らぐなら、クロを抱きしめてあげたいです」


 不安か。

 ないと言ったら嘘になる。でも。


「大丈夫だよ。ありがとう」


 そう言った。


「クロは強い人です」


 強くなんかない。

 でもそう言ったら、きっとレビアは否定するだろうなと思って、言うのはやめておいた。


 しばらくしてから、レビアの寝息が聞こえてきた。


 どうやら眠ったみたいだ。


 おれはため息をついた。

 なんだか翻弄されてるなぁ、おれ。


 長い夜が更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ