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第27話 調査

 不安が募っていく。

 早まったわけではなく、再戦自体がなくなったということだろうか。


「何故ですか!?」


 言ったのはヴェルナリスだった。強い口調だった。

 相手が領主でも、この少女は気後れしないらしい。


「いやぁ、まあ色々あってね」


 ヴェルナリスは拳を握り眉間にしわを寄せ、しばらく何か言いたそうな顔をしていたが、また壁にもたれるようにした。何故そんな顔をするのかと思ったが、おれの記憶が飛ぶまで殴ると彼女が言っていたことを思い出した。


「まあ君たちを追い出そうというんじゃない。ちょっと聞いてくれ」


 ウイリアムさんは体を起こした。きぃっとソファが鳴った。


「君たち、オルハルト領で魔物を見たと言ってただろ。エーデルランド領内でもちらほらと聞いてはいたんだ。んで、気になって過去の案件を色々と調べていたんだが、少し気になるものを見つけた」


 ウイリアムさんは懐から地図を取り出しテーブルの上へ広げた。


「ここから北へ行ったところにシエナという街がある。そこである猟奇的な事件が起こった。まだ最近の話だ」


 ウイリアムさんが地図の一カ所を、とんとんと指で叩いた。


「何人もの人間の死体が凄惨な姿で発見された」


 ――小さな悲鳴が隣から聞こえた。ルナが怯えている。


「今もまだ犯人は捕まっておらず未解決のまま。誰も犯人を目撃していない。手掛かりは一つもない」


 ウイリアムさんはソファに再びもたれた。


「この事件の犯人は魔物の可能性があると僕は考えている。君にはそれを調査しに行ってもらいたい」

「魔物……」


 ウイリアムさんはカップを手に持った。

 カチャリと受け皿が鳴る音がした。


「何故おれなのですか?」

「それは君が先導士の見た目をしているからだ。もしも魔物の仕業だとしたならば、街中が恐怖と混乱に陥るだろう。その時に先導士は救いとなる」


 おれは自分の髪を触った。

 見た目が先導士ということだけで、誰かを救うことができるのだろうか。


「しかし、おれは魔物を討伐するどころかマナも使えません」

「心配しなくていい。先導士がその場にいるということが重要なんだ。そもそも今回は調査をするだけだし、護衛としてこの子を一緒に行かせるから」


 ウイリアムさんはカップに口をつけながらヴェルナリスを見た。


「んなっ!?」


 ヴェルナリスは驚いた顔を見せた。


「どうしてわたしが?」

「だって他に適任がいないし」

「嫌です! 何故わたしがこんな変態の覗き魔と」


 またそれかよ。


「ウイリアムさん、あんたのせいだぞ。ちゃんと説明してくれ」


 ウイリアムさんは頭をかきながら


「はぁ? 君がヴェラのことが気になるって言ったんだろ」


 なんなんだこの人。全然悪びれてない。

 というかむしろおれが悪いような言い方だ。


 ただならぬ気配を感じて隣を見た。

 レビアが何故かむくれていた。またあらぬ誤解を生んでしまったかもしれない。


「まあともかく、これは領主命令だ。いいな、ヴェラ」


 ヴェルナリスは不満を顔いっぱいに出していたが、何も言わなかった。


「あ、あの。わたしたちは?」

「このまま城で働いてもらう」


 ルナは不服そうにして俯いた。


「一緒に行くことはできませんか?」


 そう言ったのはレビアだ。


「足手まといだ」


 ヴェルナリスが言った。


 レビアと視線がぶつかり合っていた。

 シドさんが小さな声で「やめなさい」と言ったのが聞こえた。


「一緒に行きたいの?」


 ウイリアムさんはルナとレビアに言った。

 彼女たちは揃って頷いた。


「うーん、君はどう思う?」


 次にウイリアムさんはおれを見た。


「調査はどれくらいかかるものなんですか?」

「実際には調査と言っても行って帰ってくるだけになるだろう。向こうでもう調べてあるだろうしね。だから、そうだな。移動含めても三日くらいかなぁ」

「危険はあるのですか?」

「そうだな。魔物じゃないにしても殺人鬼がどこかにいるわけだからね。そういう意味では危険だね。シエナの領民全員に言えることだけど」


 何かあった時におれはルナやレビアを守れるだけの力があるだろうか――。

 考えた末、


「彼女たちにはここにいてもらいたいです」


 そう答えた。


「いやです。わたしはクロについていきます」


 レビアがおれに言った。

 強い意志を感じた。


「ふぅん。でもさ、ヴェラの言ったことにも一理ある。遊びに行くわけじゃないんだ。ただの女の子が行っても足手まといになるだろ?」

「そういうことでしたら、わたしはクロを守る力があります。危険があるというなら、それこそがわたしの行くべき理由です」

「……へえ」


 ウイリアムさんはレビアをじっと見つめた。


「わたしもきっと役に立てます。だから、ついていきたい」


 続けてルナが言った。


「魔物や殺人鬼がいるかもしれないんだぞ」


 ルナは少し怖がっているように見えたが何も言わなかった。


 ウイリアムさんはしばらく考え込むようにしたあと、


「いいよ。分かった。認めよう」


 と言った。

 ヴェルナリスが一歩前に出た。


「何故ですか? 理解できません」

「まあこれは僕の勘みたいなものかな。彼女たちは嘘をついていないと思ったから許可をした。ただそれだけさ」


 ヴェルナリスは舌打ちをして顔を背けた。


「レビア。ルナ。なんでんだよ。ここにいてくれ」

「側を離れることの方がよっぽど怖いです」

「わたしもついていくから」


 彼女たちの意志は固いようだった。


「まあまあ。少し脅かしたけど、実際には魔物や殺人鬼と遭遇する可能性は極めて低い。本当の目的はやっぱり先導士の来訪だからね。それに当然だがこの任務により君たちは正式にエーデルランドの保護下ということになる。悪い話じゃないだろ」


 ウイリアムさんは立ち上がった。


「じゃあ決まり。明日から旅立ってくれ。シエナまでの道はヴェラがいるから大丈夫だろ」


 ウイリアムさんがヴェルナリスを見る。

 ヴェルナリスは仏頂面でウイリアムさんとおれを睨みつけてから部屋を出ていった。


「いやぁ、いいな。先導士や領主相手にあんな態度取れる子、普通いないよ?」

「ウイリアム様が甘やかすからですよ。全く」


 シドさんが辟易へきえきした顔で言った。


 再戦はなくなったものの、何はともあれ前進したのは間違いない。

 明日から一体どうなるか分からないが、努力だけは続けようと心に決めた。

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