青空
屋上から見える空は手を伸ばせば指先が触れてしまいそうな程に近く感じた。
そこへ繋がる階段には鎖が掛かっていたがドアは開いていて案外管理が緩いものだった。
隣にいる彼女は真上に広がる大空に手を伸ばす。
「手が届きそう……ほら」
そう言う彼女の伸ばした細い指先は雲のように白い。
「空ってこんなにも青くて、
広いものなんだね」
まるで今まで見たこともなかったかのような口ぶりだった。
「今まで窓越しでしか空を見たことが
なかったの。家の窓と病院の」
何も言えなかった。平気そうに言う彼女の
内にある気持ちを考えたら僕は、何も言えなかった。
華奢な彼女の中にどれだけの〝鉛〟が詰め込まれてるのだろう。
「私さ、急に〝意識〟のスイッチが
切れて暫く眠っちゃうんだ」
一気に息を吐き出しながらそういう彼女は背中を伸ばし踵を上げる。
「眠り姫みたいだ」
僕がそういうと彼女は目を丸くさせ、笑った。
表情をころころと変えていく彼女は
なんの汚れもなく可憐だ。
転落防止の彼女の胸ほどまである鉄格子に彼女は腕と顎を乗せた。
「王子様のキスで目覚めたらどんなにいいことか」
彼女は何処か遠くを見つめて小さく呟く。
「君みたいな綺麗な人ならいくらでも
王子様は現れてくれるんじゃないかな」
僕がそういうと彼女は何それ、とくすくす笑っていた。