変化
今思えばこの思いつきが僕の高校生活を色濃くするものになった。
何十メートルもあるのか分からないほどの
長い廊下をひたすら歩く。端に着いたら
階段を上って、また歩く。
学校探検、というのはなかなかスリルがあって面白いなんてくだらないことを思う。
校舎内は人も居ないためか、校舎内の白さが際立って見える。
白く真新しいそれはまるで霧の中のようだった。
僕以外にこの霧の中を彷徨う人はいない、はずだった。
聞こえる。
僕以外の足音、微かな鼻歌と共に。
奥の階段から聞こえるその音は、どんどん近づきやがて僕の今いる四階でほんの一瞬止まった。
同時に一人の女生徒が音の先の階段からひょっこりと現れ、僕の前を鼻歌交じりで歩き出す。
先程の靄がかかっていた鼻歌も鮮明に聞こえる。
何より彼女のその足取りは桜の花弁のように軽やかで
今にも飛んでいきそうなほどだった。
前を歩く名前も知らない生徒。今わかるのは
上履きの色が同じ、つまり学年が同じということだけだ。
ただ、僕は生まれて初めてこんなにも人を美しいと思えた。
「あの」
僕の声を遮るように彼女は僕に言う。
「聞いてたの?」
何が、と僕が聞かずともその答えは分かっていた。
うんとも言えない僕に対して彼女はふわりと微笑む。
挙句の果てに正直に話すことにした。
「ごめん、ただ綺麗だなあって思って」
そう僕が答えると彼女は目を細めて笑った。
「いいよ。私も気を緩めすぎてたしね。
気にしないで。良かったら一緒にまわらない? 」
彼女は入学式のことは一切触れなかった。
僕も彼女がどうしてここにいるか触れなかった。
しばらく歩いていると彼女が小さく呟く。
「屋上、開いてるかな」
どこか儚げに彼女はそういった。
「行くだけ行こうよ」
その言葉に彼女はまた目を細めて微笑んだ。