約束
人気の少ないバスに乗り、窓際の席に座る。
たまたま視界に入った手のひらをぼんやりと見つめていると彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
ついさっきまでこの手のひらに彼女の温もりが確かにあった。
冷静に考えると僕は何格好つけてるんだろう、と思う。
だけどきっと気持ちは彼女に伝わったんじゃないかと、
そう思うことで羞恥も飲み込めるような気がした。
数分バスに揺られていると黒の開閉式の
携帯から久しぶりにメールの着信音が鳴った。
メールを開くとそれは彼女からだった。
件名は“届いてますか?”と彼女にしては珍しく畏まっている。
本文は“椿です。寂しくなったわけじゃないんだけど何となく送ってみました。”
というシンプルな言葉で、
添付されたファイルを展開すると
一枚の桜並木の写真が画面に表示される。
恐らく彼女の歩いている目の前の景色だろう、それは見事なもので
携帯で撮ったとは思えないくらいとても
絵画的で美しいものだった。
下へ下へとボタンを押すとまたさっきのとは別の一言添えてあった。
“死ぬまでに、色々な景色をみたいから連れて行って。なんてね。”
僕は彼女と同じく簡潔に、彼女のメールに返信した。
“君がながく眠ってしまわないようにどこへでも連れていくよ。”
そう打って、携帯を閉じ窓にもたれかかった。




