支配
結果から言うとこれが終わったのは
午後二時頃だった。全くもってさっさと
終わらせたと言えないが、達成感は
あったので彼女に言うのはやめておこうと思う。
始めたのが十二時過ぎだったので妥当と言えば妥当なのだが。
「いやー終わった終わった」
彼女が一番最後の冊子をホチキスで綴じた後
そんな声を漏らした。腕を真上にあげて
伸ばす仕草は何処と無く猫に似ている。
この猫とは反対に素早く行動する猫もいた。
「じゃ、私帰るわ。夕方からバイトあるし。
梅田、出来た資料は職員室だって」
現代っ子らしくスマートフォンで予定を
確認しながら若山さんはそう言った。
その口ぶりからしてバイトは嘘ではなさそうなので了承する。
「……分かった」
押し付けられたような気がしたが日頃
あまり仕事していない僕は若山さんに反論できない。
彼女は風のような速さで帰っていった。
教室に残された僕と彼女はとりあえず運ぼうと資料に手を伸ばす。
「──あのさ樹くん。」
背後数メートルから聞こえたそのか細い声に僕は振り返った。
「私が死んだら、悲しい? 」
彼女は閉まっていたカーテンをいつの間にか
開けていて、窓の方を眺めている。
顔は見えないけど声からしてきっと悲しい顔をしている。
「何を言って……」
「答えて」
語尾を強める彼女は僕の方に顔を向けた。
「勿論、悲しいよ」
素直に、答えるしかなかった。
ここで曖昧にしたら彼女との今後の関係が
良くない方向に進む、そう思ったからだ。
「私と付き合ってとは、言わない。
でも私が死ぬその瞬間傍にいて」
首だけで振り返ってこちらを見た彼女は
涙を浮かべて口角を上げていた。
その口角をあげるにも唇が震えていて、
それが偽りの笑顔だとすぐに分かった。
死ぬ瞬間に独りでいるのはどれだけ寂しいのだろう。
親友にさえも言わなかったであろう言葉を
関わって間もない僕に言うのだから。
いや、むしろ関わって間もない僕だからこそ
彼女はその蓄積された我慢を言えたのかもしれない。
息が荒い彼女がいる窓際の方へ歩み寄る。
「……ごめんね…………ごめんね。
頼っちゃって、迷惑かけちゃって」
あまりにも弱々しく、萎れた花の様だった。
僕は彼女の肩に優しく触れる。
彼女はその瞬間手で覆い隠されていた顔を見せた。
「僕は人に頼られて煙たがるような
人になった覚えはない。
君が付き合えと言えば付き合うし
離れろと言えばすぐに離れる」
彼女は何も言わずに僕を見ていた。
そう思っていたのも数秒ほどで、気がつけば
彼女が顔に当てていた手を僕の背中に回していた。
細い彼女の腕が、鼓動が僕の脳内の全て彼女という存在が支配する。
「……許して。今だけだから」
少しの間だけのその密着が、長く感じられた。




