疑問
それからは僕達は割とのんびりと校舎内へと戻っていった。
学校に着くまででも彼女が鳩を追いかけて
転んだり通りかかった散歩中の犬に懐かれたりとあったが僕が詳しく言うまでもない。そのままだ。
今僕らが歩く廊下も案外狭いかもな、
なんてことを三人で横並びに歩いてから思った。
異性二人に挟まれてるというのも微妙な心境なのだがまあ、今だけだ。別にいいだろう。
三人の足音は不規則に、疎らに、鳴り響く。
廊下を歩いている間僕と彼女が他愛もない
話をしていると若山さんはにやにやと
嫌味ったらしい笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
若山さんが笑うほど僕らが話している内容はおかしくはないはずだ。好きな食べ物とか、好きな芸能人とか本当に何でもない、誰とでもできるような話だ。おかしいわけがない。
若山さんはきっと笑顔の練習中なんだ、そう思い込むことにした。
「本当に出会って一週間? 仲いいね。
付き合ってるかと思うくらいだわ」
若山さんの質問に彼女は違うよと否定した。
浮かべている笑みには少し困惑も混じっている。
「運命の出会い、しただけだもんね」
僕は一瞬言葉に詰まった。今飲み物を口に含んでいたら間違いなくむせている。
「……誤解を招く言い方はやめよう」
「えー。でも事実だよ? 」
時に黙った方が物事は潤滑に進む
というのを彼女は知らないのだろうか。
何かが腑に落ちないのか彼女は唇を尖らせて眉を潜めていた。
その顔があまりにも面白いので僕は
開閉式の携帯のカメラを彼女の顔にかざし、
ボタンを押す。相変わらずころころと表情を
よく変える人だ。
閑静な廊下に僕の携帯のシャッター音が響く。
「ちょっともうっ……恥ずかしいから消して」
そのシャッター音と共に彼女は顔を赤くして、僕の携帯を取り上げようと手を伸ばしたが、
何にせよ僕は男だ。流石に彼女と身長差がある。
彼女が背伸びしたところでようやく僕は気づいた。
「……花澤さん。ちょっと、顔近い」
それを言うと彼女はまた更に先程よりも顔が赤くなり、ごめんと言うとほんの少しだけ僕から離れた。
「あれあれ、お二人さんお顔赤くないですかぁ?」
若山さんは僕の身体を肘で軽くつついてニヤリと笑う。
僕の顔は花澤さんの瞳にどのように写ったのだろう。僕は走ってもないのに顔が熱いのだから男としてきっと情けない顔のはずだ。
だけどどうにも、恥ずかしさとは別に、どこか彼女と密着出来たことに喜んでいる自分がいた。