誤解
意気揚々と歩く彼女に僕達は付いていく。
流石に先生も少しくらい居なくたって気づきやしないだろう。
僕の隣を歩く若山さんも最初は彼女に反対していたが
芯を買わなければ作業は進まないという彼女の
言葉に言い返せなく、結局丸め込まれていた。
真昼間だからか、入学式の時よりも外は随分暖かく感じる。
「あっやっと見つけたー」
やっと、と言うほど歩いてはないが彼女は
そう言って僕達の方に振り向きコンビニを指さした。
歩道橋を渡り、階段を降りればすぐ見えるというのに。
平日の昼間は車通りも少なく、正直
歩道橋使わないで突っ切っても問題ないんではないかとも思ったが常識に反することを僕はしたくない。考えるだけに留めておいた。
店内はやはり客がいない。
店員も奥のスペースに引っ込んでいるのだろうか、レジに店員の姿もない。
とりあえず目当てのホチキスの芯と、皆昼食を取っていなかったため軽く食べれるものと飲み物をそれぞれ買おうとレジに並ぶ。
僕が店員を呼ぶ前に若山さんが大声ですみませんと呼んだのでここでも僕の仕事は彼女がこなしてしまった。
コンビニを出て近くのベンチに座り、
それぞれが買ったものを広げる。
塗装の剥がれかかったそれは座るとひんやりと冷たかった。
皆食べている間は誰も、何も話そうとしなかった。
僕がコーヒー牛乳の最後の一口を飲み終わる位の時に彼女は口を開いた。
「私、友達とご飯食べるの初めてかもしれない」
僕はそれに戸惑った。
若山さんもどう返そうか困っていたのだと思う。
若山さんは真っ直ぐ前を見据えたままぽつりと呟く。
「……いくらでもこれからはできるわよ」
彼女も真っ直ぐ前を見つめ、うんと嬉しそうに頷く。
「私、樹くん達とお昼ご飯
食べる為に学校通おうかな」
コーヒー牛乳の最後の一口は少し苦かった。
彼女の表情は決して冗談めいたものではない、
真剣そのものだった。
僕は、その彼女の言葉に対してそれもいいんじゃないと答えておいた。
別に嘘はついていない。本心だった。
「でも椿は男から好かれやすいから
危なっかしいなあ」
若山さんは笑いながらそう言う。
「大丈夫だよ。その時は
……樹くんがいるし」
「僕を巻き込まないでくれるかな」
どうしようかなぁと彼女は悪戯げに笑う。
その横に座る若山さんは何やら彼女とは違って視線をこちらに向け怪しげな笑みを浮かべていた。
誤解はしないでほしいと僕は精一杯の念を若山さんへと送った。
彼女はそれを悟ったのか知らないが何やら満足そうな顔をしている。
後で誤解は解いておこうと僕はとりあえずこの蟠りを胸の奥に押し込んだ。