人類同盟
幸せそうな家族。
ふらふらと街の雰囲気を楽しむカップル。
まっすぐ視線を泳がさずに歩むサラリーマン。
大声で笑う外国人の観光客。
人々が互いに干渉しあうわけでもなく、街のほんの一部分に溶け込み、自分たちの行きたいところへ行きたいように行く…
大都市で繰り広げられる、毎日の大して変わらぬ風景。
いわゆる「日常」。
そんな日常の一コマに。
「皆さーん、人類同盟でーす。
アンドロイド発見につき、ただ今からアンドロイドの駆逐をはじめまーす。
皆さん、動かないで、アンドロイドに頭ぶち抜かれないようにしてくださーい、ほら、早く!」
少女のけたたましい声ががあん、と響いた。
「アンドロイド」 「人類同盟」 「動かないで」この三つの言葉で、懸命な人々がとっさに動き出した。
全員がしゃがみ、そして人類同盟の姿を探そうとする。
「はーい、写真撮ってもいいから、自分の身は自分で守る!いいね!
ちなみにトウキョウ放送局のビル近くにいるよ!」
さっきと同じ、元気な声が喧騒に突き刺さる。
若い女性たちが一気にその声に反応した。
どこ? あれ? いや、違う… 絶対あれだって!
一気にざわめきが増え始めた。
「ぽんこつ凌癸!どこに目をつけてるの?
アンディーは10時、看板に和久井ビルってあるやつの屋上!」
その声が聞こえた途端、黒い影がびゅっとスクランブル交差点の横断歩道へ
飛び出した。
「感謝する、莉子」
青年は横断歩道の向こう側の少女__さっきから大声を出している__莉子へ、
誰にも届かない位のわずかな声で呟いた。
青年__凌癸が腰のホルダーから光線銃を取り出した。
その姿に気付いた彼のファンから嬉しい悲鳴。
「ファンテ!」 「分かってる、気付いてる」
莉子が一般人に紛れてしゃがみ、待機していたファンテを呼んだ。
ファンテは自分のショルダーバッグから鳥のくちばしのように銃口の尖った、光線銃を出す。
「いける?」と莉子。
「出来る、ナメるな」とファンテ。ゆっくり立ち上がる。
ファンテのその銃が、凌癸の狙うアンドロイドを照準に定めた。
「行け」 彼女の真っ白な髪が、美しく風に揺れた。
そんな人類同盟がアンドロイドを駆逐するのに跳梁跋扈する最中、
交差点がわずかに見える位の裏路地で、
彼の頭にはいささか大きすぎるヘルメットを被ったユタが、うんざりした顔で警察を呼んでいた。
「もう勘弁してよ…なんで皆そんなに行動力の塊なの…
また会長に怒られるってば、絶対そうだよ」
「ったく、人類同盟って、人類のためになってるから悔しいよな、
あーあ、僕、なんでこんなちんちくりんな組織に入っちゃったんだろ」
やだやだ、と鬱な思考ばっかりが、彼の頭を占めていた。
パスッ、という乾いた銃声。ファンテの銃からだ。
ファンテの銃はショックモードと光弾モード、二つのモードにショルダーバッグについたボタンで切り換えられる。
今撃ったのはショックモード。
当たればアンドロイドの回路をショートさせられる。
ファンテの狙い通り、アンドロイドの右耳に電気が直撃した。
「よっしゃ!」 「喜ぶな、まだ」
はしゃぐ莉子をファンテが母__あるいは父のように、優しく宥めた。
「後は頼む、凌癸。ユタ、まだ、来なそうか?」
凌癸がファンテの叫びに反応し、ユタが裏路地から歩いてきた。
「うん。あと、五分くらい?」 「上出来、良いな」 「そう?」 「うん」
ファンテが微笑む。
「もう、こうなったら、私達の、勝利だから」
ファンテの指差した先に、疾走する凌癸の姿があった。