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異世界序列のシムワールド ~玄関開けたら2分で半壊……しょうがないから最下位から成り上がる~  作者: タック
第三章 イクサヲトメ/コイヲトメ

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幕間 来い! 男子!

 僕──シィ=ルヴァーは興奮していた!

 たぎっていた! みなぎっていた! ほとばしっていた!

 鼻息荒く、腕をブンブンと振り回しながら夜の森の中を歩く。


「シィ、悪い物でも食べたのか? ただの山賊討伐だし、俺だけでも──」

「いいえ! リバー! いいえ! リバー! 僕は体調がすこぶる良いだけ! 体ッ調ッが! すこぶっる良いだけ!」

「なぜ二回言う……」


 一ヶ月前くらいに、辺境の街から追い出した山賊が戻ってきて、それをどうにかして欲しいというギルドからの依頼があったのだ。

 依頼主は不明だが、工業で賑わっている大きな街からの依頼だとか。

 かなり条件が良かったので引き受ける事にした。


 金銭や難易度の条件もだが、僕が考えに考え抜いた計画の条件にも一致していた。

 この依頼を隠れ蓑にしながら、リバーへの大胆なアピールもする!

 これが興奮せずにいられようか!


「な、何か今日はテンションが高いな……」


 まずい、リバーから疑われ始めている。

 落ち着け、落ち着け僕。

 ちゃんと下準備も完了させたじゃないか。


 5キロ四方を五芒星として、死の六柱を5つの地点に配置した。

 それを媒体として中央で死杖を使えば……くくく。

 全力疾走で配置してきたため、足はガクガクで、脳内麻薬が出っぱなしになっているのは気のせいだろう。


「よし、見えてきたぞ。あれが山賊のアジトだ」

「ちょっと待って、魔法を使うわ」


 今回は失敗が許されない。

 魔術ではなく、魔法というインチキを最初から行使させてもらう。

 何かがズレて、ムードが台無しになったらたまったものではない。


 こちらの物音を聞こえなくするサイレントウォーク。

 姿を影に変えるシャドーキャット。


「おぉ、何かすごいな……」

「まず、これで山賊以外がいないか確認しましょう」


 全滅させるのは一瞬で可能だが、部外者がいた場合は面倒になる。

 山賊のアジトは破棄された砦の一部を使っていた。

 石造りの強固な壁だったものは、今やボロボロになっている。


 かろうじて雨露がしのげる箇所を使っているようだ。

 漏れている明かりからして、見張り以外は1つの場所に集まっている。


「意思を刈り取れ……マインドバブル」


 見張りに意識朦朧の魔法をかけて、見張りをしながら何も見ていない状態にする。

 これで中で何が起きても気にしないだろう。


「な、なぁ。俺って必要なのか?」

「必要! 超必要! リバーがいなきゃ意味が無い!」

「そ、そうか」


 こんな感じの予感もしていたので魔法は使いたく無かったのだ。

 今回だけ……今回だけだ。

 次からは魔力消費とか、精神汚染とか、エコとか適当に理由をでっち上げて魔術にしよう。


 いくら万能に近い魔法でも、恋には無力なのだ。


「いち、に、さん……結構いるな。特徴から見て、あいつが山賊の頭領か」


 入り口から、中の様子を窺う僕とリバー。

 中には十数人の山賊達と、その頭領がいた。


「お頭、気をしっかり! 戻ってきてから何か変ですよ!」

「俺……もう足を洗おうと思うんだ……。一年間も考える時間もらったしな……魔神も恐いし……」

「何言ってるんですか! ここを離れて一ヶ月と少ししか経ってねーですよ!」


 間違いなく、一ヶ月前くらいに僕が魔法でなぎ払った相手だ。

 一体、この辺境の町から離れた後に何をしていたんだか。

 ……まぁいい。


 様子を見た所、再びこいつら全員なぎ払ってもよさそうだ。


「リバー、突入頼んだ」

「任せろ!」


 いくつか強化魔法をかけて、リバーを送り出す。


「お前ら! 観念しろ!」

「ヒィッ! 降参! 降参するから許してぇ!」

「お、お頭! そんなので許してもらえないっすよ! やりますよ!」


 中で乱戦状態。

 ……よしよし、このアクシデントが起きそうな混沌とした状態。

 これが狙いである。


 ──オズエイジから教えてもらった秘策を実行する時である!

 戦え! 恋する乙女!

 

「運命の三女神を蔑み、原初、煉獄、終焉まで全てを知るも無力なる、この呪者の声に応え──」


 ラッキースケベを実行するため、契約しているヘルが全力で協力してくれている。


「──永久とこしえより現出げんしゅつせよ、愛杖ヘルロッド!」


 たぶん天空から見たら、数キロにも及ぶ巨大な五芒星が、この場所を中心に紫の禍々しい光を送っている事だろう。

 そして、僕の手には金色の光が一条──力となる。


 段々と形作られていく愛杖ヘルロッド

 前回の取っ手の骸骨は、可愛らしくピンク色に塗られており、目はハートマークになっている。

 ──ナイス、ヘル!


 これならいける!

 演技開始だ!


「うわぁ~、きゅうにまりょくがぼうそうしてぇ~」

「シィ、大丈夫か!? 何かすっごい爆炎が……」


 僕は、火の最上級魔法(ヘルファイア)を構築し始めた。

 自分一人では難しいが、お節介なヘルの気が乗っている時はいける。

 一兆度くらいの炎とか言っていたが、たぶんヘルの事だから適当だろう。


「い~やぁ~、服が焼けちゃう~、見ないで~」


 辺りは炎の竜巻が数百本巻き起こり、夜だというのに雲を吹き飛ばすのが煌々(こうこう)と照らされている。

 いや、ミルクティーを掻き混ぜるか、ふわふわ綿あめを作っている最中みたいな可愛い表現にしておこう。

 ──全ては恋のためなのだから。


 さぁ、ここで決め台詞! キュンとくる決め台詞!


「服がボロボロになっちゃった~、リバーのえっちぃ~」


 炎は収まり、超コントロールで都合良く服だけが焼けて半裸の僕。

 完璧なラッキースケベである。


「あれ?」


 辺りに立っている者は一人もいなかった。  







【異世界エーデルランド】

【名所獲得:恋の炎に焼かれし砦】

 呪われし魔術師によって、燃やし尽くされた砦とその周辺。

 色恋沙汰でこうなったらしく、その情熱にあやかろうとカップル達が良く訪れる。

 その結果、病院送りになる男性が絶えない。

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